【ふたりのチームワーク】パン屋「粉花」後編:「やる」と決めたらぜんぶ自分ごと。夢中でかけぬけた9年。
ライター 鈴木雅矩
様々な「ふたり」にお話を聞き、心地よい暮らしや仕事をつくるためのヒントをお届けする連載「ふたりのチームワーク」。
今回ご登場いただくのは、東京・浅草で小さなパン屋「粉花(このはな)」を営む、藤岡真由美(ふじおか まゆみ)さんと、藤岡恵(ふじおか めぐみ)さんのご姉妹です。
前編では、おふたりの役割分担や、お店を始めたきっかけのエピソードをご紹介しました。
そうしてオープンした粉花は、今年で9年目。後編では「続ける」をキーワードに、おふたりのチームワークに迫ります。
▲妹の藤岡恵さん(左)、お姉さんの藤岡真由美さん(右)
オープンして3年くらいは無我夢中だった
粉花を始める前に、真由美さんは、2年ほどパンづくりを続けていました。
その後、パン教室を開いたことをきっかけに「毎日パンを焼き続けていきたい」と気づき、「わたし、パン屋さんをやる!」とご家族に報告します。
妹の恵さんは生き方に迷いながらも薬剤師の仕事を続けていましたが、真由美さんの提案があり、仕事をやめて、ふたりで粉花を開くことになります。
おふたりが思い描いたお店の形は、等身大で、身の丈にあった小さなお店。
そのため、銀行からお金を借りて開店することには違和感があったそうです。そこで、「必ず返すから」という約束で、母親から借りたお金でお店の準備をすすめました。
開店当初の設備は小さなオーブン1台と家庭用の冷蔵庫だけだったとか。最初から完璧にそろえるのではなく、お店を続けながら徐々に買い揃えていったそうです。
真由美さん:
「私たち、たくさん儲けたいとか、お店を大きくしたい、という気持ちは全然なくて、『母親から借りたお金と、毎月の家賃分が返せたらいいな』と考えていたんです。
パンを焼くこと以外はほとんど知らずに、接客や経理などにも慣れていなくて。お店をやりながらひとつひとつ覚えていきました」
お店を開くことはそれだけで一苦労、続けていくのも大変なことばかりだと思いますが、おふたりはどのようにお店を続けてきたのでしょうか?
真由美さん:
「私たちは開店当初、本当にお客さんは来てくれるんだろうか、パンは売れるのだろうかと、おままごとのような気持ちがありました。
でも、開店してみると私たちのパンを楽しみに足を運んでくれるお客さんがいらして。
だから、オープンして3年間くらいは、毎日無我夢中でお店を続けていました。
毎日やることに追われていましたが、ふたりだから助け合うことができたし、夢中でやっていたから、大変なことも大変じゃなかった。振り返ってみると、そう思うんです」
おふたりが、ようやく自分たちがやっていることを客観的に見つめられたのは、2011年の震災のあとだったと言います。
真由美さん:
「仕入れのタイミングの関係で、手元に小麦粉はあったので、毎日休まずにパンを焼いて、お店を開けていたんです。
お休みしようかと悩みながらも開けていたのですが、お客さんから『ここのパンがあって良かった』と言っていただいて。
その時に、パン屋をやっててよかったなと思ったんです。パンは日常の糧になるものだから、わずかでも人の役に立てるんだって」
無我夢中の開店当初を経て、ようやく落ち着いた頃。自分たちがパン屋を続ける意味を、すこし冷静に考えられるようになったふたり。
自分たちにも無理がなく、買いに来てくださる人も喜んでいただける。開店当初に考えた「等身大のお店」づくりを模索するようになっていきます。
それぞれの、自分で『やる』と決めた責任感
おふたりがお店の続け方を模索し始めたのと同じ時期に、ある編集者さんから本を出しませんか?という提案がありました。
真由美さん:
「その編集者さんは、お店に通ってくださったお客さんでした。
1年くらいかけて自分たちで文章を書いて。ちょうど自分たちの働き方を模索していた時期なので、開店から今までを振り返る良い機会にもなったんです。
それがきっかけで、お店のことを人前で話す機会も増えてきました。
そうすると、私たち、物件もすぐに見つかりましたし、知人に内装業者さんもいましたし、『ラッキーだっただけじゃないか』と言われることもあったんです。でもそうじゃなくて……」
パン屋のお仕事は、1日8〜10時間以上立ち仕事が続き、パン作りも力仕事。
原料の小麦は一袋で20kgを超えるそうです。お店を運営するだけでなく、食材の仕入れや、売り上げの管理など裏方の仕事も山ほど。体力的にも気力的にも、大変なことがたくさんあったそうです。
恵さん:
「たしかに、周りの人に恵まれていましたけれど、毎日毎日大変なこともあります。
私たちは体力がない方なので、朝7時半から夕方6時まで、週5でお店を開いていると、倒れそうになることもありました。
でも、やっぱりやめないで続けている。それは、自分で『やる』と決めたから。そうすると、ぜんぶ自分ごとになります。
夢中になっていたから、いつもパンのことやお店のことを考えているし、応援してくれる人がいることに気がつけたり、運をつかめることがたくさんあったんだと思います」
粉花の起点になったのは、真由美さんの「本気で生きる」という決心でした。その気持ちに触れて、恵さんも変わり、ふたりで粉花を開きました。
ふたりが、「全ては自分が選んでいること」だと思い、「やる」と決めて自分ごとにしたからこそ、その気持ちに打たれて周りの人の協力も得られたのでしょう。
その責任感が、今日もお店が続いている原動力になっているのではないでしょうか。
違う性格だからこそ、どんなことでも「ふたりで話す」を大切に
開店当初はご近所さんが買いに来るだけだったお店には常連さんができ、今でははるばる遠方から足を運ぶお客さまもいます。
そんなふうにお店が育ってきたのは、おふたりがお店のことをなんでも話して決めてきたからだと言います。
真由美さん:
「恵さんはすごく冷静なので、直感的な私の意見にも的確なアドバイスをくれるんです。
営業日も、私は毎日お店を開けなくちゃと、無理をしていたんですが、恵さんは体を壊したらいけないから、休みたいなら休めばいい、という意見で。
たしかにそうだなと思って、今は週4日開店に切り替えています。休みだけじゃなくて、パンの値段も『これくらいだと高いかな?』とか、お店のことはふたりで相談することがほとんどです」
直感的な真由美さんと、冷静な恵さん。お互いに異なる性格で、話し合えば客観的な視点が得られるため、ふたりでいることがすごく心強いと言います。
長年付き合っているから生まれる「分かってるでしょ?」を乗り越えて
お店を続けるなか、一番大きく変わったのは、ふたりの関係性でした。
恵さん:
「私たちにもすれ違う時がありました。その原因になったのは『言ってることが分かっているでしょ』という思い込みで、それが原因でちょっとした喧嘩が起こることもしばしば。
長年一緒にいるからこそ、その思い込みは強かったと思います。
でも、すり合わせてみると言葉の定義が違っていただけで、『あの時の言葉は本当はこういう意味だったんだ』と思うこともたくさんありました」
そのすり合わせのなかで、おふたりの個性やお店での役割は、より際立ったといいます。
私も、家族や友人との付き合いの中で、同じような経験をしたことがあります。
長年付き添った家族でも、友人でも、仕事の同僚でも、もともとは別々の価値観を持つ人間です。
近しい相手は、お互いに淡い関係ではいられないからこそ、すり合わせにはたくさんの時間と労力が必要です。
だれかとチームになったとしても、喧嘩をしたり、言いたいことを言い合わなけばいけない時もあります。
それでも一緒にいたいと思える相手なら、その人はかけがえのないパートナーと言えるのではないでしょうか。
簡単そうで難しい「受け入れる」ことを繰り返していけば、「ふたり」というチームはうまくやっていけるのかもしれません。
(おわり)
浅草 粉花
住所:台東区浅草3-25-6-1F
電話:03-3874-7302
営業時間:パンの販売は10:30から。売り切れ次第、終了することがあります。
定休日:日・月・火・祝
【写真】鈴木智哉
藤岡真由美、恵
浅草観音裏で小さなパン屋「粉花(このはな)」を営む。姉の真由美さんがパンを焼き、妹の恵さんが接客やコーヒーなどを担当。自家製でレーズンを使って酵母をおこし、北海道産の粉と合わせて焼いたパンは、地元の人をはじめ遠方から足を運ぶ人がいるほど愛される。http://asakusakonohana.com/index.html
ライター 鈴木雅矩
1986年生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、自転車日本一周やユーラシア大陸輪行旅行に出かける。帰国後はライター・編集者として活動中。自転車屋、BBQインストラクターの経歴があり、興味を持ったものには何でも首をつっこむ性分。おいしい料理とビールをこよなく愛す。
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