【雨に恋して】第3話:暮らしがちょっぴり楽しくなる。詩の中の雨の音。
編集スタッフ 齋藤
「雨」をテーマにした特集を、全3話でお届けしています。
第2話では「雨の名前」をご紹介しましたが、第3話でお届けするのは「雨の音の表現」。
聞いた音をどう表現するかは人それぞれ。そのため言葉から楽しい個性があふれるように思います。例えばお子さんに「どう聞こえる?」と尋ねてみれば、ちょっとした遊びにもなるかもしれません。
心をくすぐる豊かな表現を、今回は言葉のプロである詩人の作品から探っていきます。
たまには耳をすまして、雨の音を聞いてみませんか?
教えてくださったのは、雨の名前を400以上も集めた本「雨の名前」(小学館)の著者でもある、高橋順子(たかはしじゅんこ)さんです。
高橋さん:
「わたしが幼い頃に聞いて印象に残っている雨の音は『バチバチ!』というもの。これは番傘に降りそそぐ雨の音なんです。今の傘だとそうはいきませんが、紙に油をひいた番傘に降りそそぐと、雨の音は大きく弾けて聞こえます。
とても賑やかで、景気の良い音。聞いていると『行くぞ!』という気分になれましたね」
数ある詩の中から、高橋さんが印象に残っている雨の音の表現を3つ、教えていただきました。
あなたにはどう聞こえる?
心に響く、雨の音
霧雨よりもやわらかな、雨の音。
雨の音
「ぽやぽやぽやぽや」
高橋さん:
「これはわたしが『雨ふるふる』という詩で使いました。猫ノ毛雨(ねこんけあめ)という雨の様子を表現したものです。
猫ノ毛雨は猫の毛のように細くやわらかい雨のことで、宮崎県の日向(ひゅうが)では霧雨のことを指します。意外と濡れてしまう、あなどってはいけない雨ですね」
跳ね返る水しぶきも、気にしない!
雨の音
「ピッチピッチチャップチャップ」
高橋さん:
「俳句でも詩でも、雨にまつわるもので楽しそうな雰囲気のものはどうしても少ないんです。その中でも北原白秋(きたはら はくしゅう)の『あめふり』に出てくるこの表現は、とても明るい気持ちが伝わってきます。
ピッチピッチ チャップチャップは雨の音。そしてそのあとに続くランランランは、楽しい気持ちでしょうか」
「あぁ、いよいよ本降り」という時は。
雨の音
「ざんざん ざかざん」
高橋さん:
「詩人の山田今次(やまだ いまじ)さんの『あめ』という詩の一部に、こんな表現があります。ちなみに前の文は『ふる ふる ふる ふる』、そして『あめは ざんざん ざかざん』と続く。
『ふる ふる ふる ふる』はきっとまだ小雨ですよね。それが本降りになった時『ざんざん ざかざん』になる。雨のほうも調子にのってくるようです」
長靴を履けば、準備は万端!時には詩人のように。
高橋さん:
「俳人の黒田杏子(くろだももこ)さんの著書『黒田杏子歳時記』には、『雨の音が好きだ』と書かれています。そして雨天の外出の時には長靴を履くそう。
そこには『履物がしっかりしていないと雨の音を堪能することが出来ない』と書いてありました。
それを読んで、俳人はやわではないのだと思いましたね」
雨が多い日本。一年を通し、わたしたちの暮らしは雨とともにあります。だからこそ、ちょっと楽しい目線で雨を捉えてみてもいいかもしれません。
いつもと少しだけ視点を変えれば、日々がもっとステキなものに。
みなさんも時には詩人のように、雨を見つめてみてはいかがでしょうか。
(おわり)
【写真】岩田貴樹(2、3、7枚目)、クラシコム(1、4~6、8枚目)
もくじ
高橋順子
詩人。出版社勤務を経て、法政大学日本文学科非常勤講師も務める。詩集『幸福な葉っぱ』(現代詩花椿賞受賞・書肆山田)『時の雨』(読売文学賞受賞・青土社)『貧乏な椅子』(丸山豊記念現代詩賞・花神社)『川から来た人』(ふらんす堂)、エッセイ集『博奕好き』(新潮社)『けったいな連れ合い』(PHP研究所)、評論『連句のたのしみ』(新潮社)など。夫は小説家・故車谷長吉。
▽高橋さんの書籍はこちらから
【出典】
・『雨の名前』著者:高橋順子
・『あめふり』作詞:北原白秋
・『あめ』詩:山田今治
・『黒田杏子歳時記』著者:黒田杏子
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