【わたしのホーム】後編:ありのままのわたしでいい。そう教えてくれたのは「ホーム」でした

商品プランナー 斉木

迷ったときや、苦しいとき、自分が自分に戻れる場所。そんな「ホーム」と出逢うためのヒントになればと企画した特集、「あなたのホームは、どこですか?」。

後編でも引き続き、長女花種さんの小学校入学を機に、住みなれた東京から神奈川県と山梨県の山間にある町へ移住した中村暁野さんにお話を伺っていきます。

前編では、母になった喜びもつかの間、理想のお母さん像とのギャップ、埋まらない家族との溝から自分を嫌いになっていったというエピソードをご紹介しました。

それは家を離れても、友達に話しても救われない、出口の見えない日々だったといいます。

続く後編では、この町に来たことで起きたこころの変化と、中村さんが見つけた「ホーム」について伺っていきます。

 

はじめての移住、はじめての「ご近所さん」

k_293_1▲新居は一家でリフォーム。夢中になって壁紙を剥がす長女・花種さんと夫・俵太さん

花種さんがのびのびと暮らせるように、と決めた一家での移住。今年の1月には長男樹根(じゅね)くんも産まれ、幼子ふたりを連れての引っ越しは、不安でいっぱいだったと言います。

中村さん:
「もともと人付き合いには苦手意識があるんです。だから、自治会長さんと一緒に引越しのあいさつとしてタオルを持って20軒以上回ると聞いた時はヒェ〜と思いました。

東京にいた頃は、家で子どもとの時間に行き詰まるとカフェに行ったり外食したりしていたんですけど、ここにはそんなお店も少ない。家族のなかでわたしが一番早く音を上げるんじゃないかって思っていました」

そんな中村さんの不安を取り除いてくれたのが、この町に住む「ご近所さん」の存在でした。家族総出で引越し作業をしている中村家を心配して、声をかけてくれたたくさんの人々。そんなご近所さんに囲まれ、中村さんは次第に、新しい町をホームだと感じるようになります。

 

お金では買えない、ご近所さんとの時間に支えられて

この町で暮らすのは、もともとここに住んでいた家族と、移住をして来た家族が半々くらいの割合。そのため、この地域に受け入れてもらえている、という感覚が引越した当初からあったそうです。

ご近所さんと夕食のおかずを鍋ごと分け合うような垣根の低い生活。経験したことのないご近所づきあいが始まり、中村さんはふと、東京にいた頃のような息苦しさを感じなくなっている自分に気づきます。

中村さん:
「前はカフェに行っても、お金を浪費するだけで家に帰れば鬱々としていて。わざわざ時間とお金を使っているのに問題を解決できていない罪悪感があったんです。

いまは家で行き詰まっても行く場所がないので近所を散歩するんです。そうしたら近所の人に会って『お茶してく?』と家に上がらせてもらって、夕食をいただいたり、子どもはお風呂まで借りたり。そうやって過ごして家に帰ると、なんだかすっきりしている。そんなことが何度もあったんですよね」

近所を歩けば「のんちゃん!」と呼びかけられる毎日。いつのまにか、この近所全体を自分の家のように感じられるようになってきたと言います。そして、その感覚が中村さんの肩の力を抜き、自分と向き合うきっかけをくれたそうです。

 

自分は自分でいい、それがわたしの “いい状態”

新しい町をホームだと感じられるようになっても、中村さんが感じていた悩みがすべて解決したわけではありません。それでも中村さんはまっすぐな瞳で語ります。

中村さん:
「今でも、家族で喧嘩をすることはもちろんあります。でも、東京にいた頃にあった、自宅を “現場” と思う気持ちは薄れたんですよね。それはこの町というホームを見つけられたからなのかもしれません。

わたしはもともとすごく見栄っ張りというか、人からどう思われるかということが気になって仕方がないタイプだったんです。でも、この町に来て家と外との垣根がなくなったように感じられるようになって、人からの目線よりも自分の気持ちを大切にできるようになってきた気がしています。

そうしたら自然と『自分も夫も、悪くない』と感じられるようになりました。自分のことも、相手のことも、大切にできるようになったのかな」

中村さん:
「この町に来て一番感じているのは、わたしが変わることで家族って変わるんだなということ。わたしが “いい状態” でいると、家族も明るく心地よく過ごせる。一緒に暮らしているんだから、当たり前なんですけどね」

東京にいた頃は、お母さんが明るいと、家庭は明るくなるという言葉にプレッシャーを感じていた中村さん。それは彼女自身の中で「いいお母さん像」ばかりが膨れ上がっていたからなのかもしれません。

いま、中村さんの思う “いい状態” を尋ねると、「自分を否定しないでいられる状態。自分は自分でいいんだって思えること」と答えてくれました。

自分の頭の中の「いいお母さん像」に無理して寄せるのではなく、ありのままで「よりよい自分」に近づいていく。そう思えたのは、ご近所さんのおかげだといいます。

中村さん:
「もちろん今も、そう思えない瞬間はたくさんあるんですけど、でも、そういう自分になっていくんだって、信じてます」

 

あの時の決意が、ここをホームにしてくれた

そしてもうひとつ、この町をホームだと思えるようになったきっかけには、ある自分なりの決意があったから、と最後に教えてくれました。

中村さん:
「この場所に覚悟を持って来た、というのも大きい気がしています。東京にいた頃は、自分が信頼できる数人の人以外とは関係を築こうとしてなかったんです。

でも、ここでは娘の学校関係の方や、ご近所の方と深く関わっていくんだろうなと思っていて。人付き合いはすごく苦手だけど、ちゃんと向き合おう、って覚悟を決めて来ました。

そうやって心を開いてみたら、何も怯えるほどのことはなくて、すんなりとこの場所に馴染めた。だから東京にいた頃も、わたしがこころを閉ざしていなければ、そこはホームになり得たんだと思います。

覚悟を持って自分のこころを開いたことが、ここをホームにしてくれたのかもしれません」

そして中村さんは、柔らかい笑顔で、わたしたちを見送ってくれました。

 

いま綴る、「ホーム」への手紙

取材を終え、数週間。中村さんに、引っ越してきた頃のことを思い出しながら、「ホームに宛てた手紙」を書いてもらいました。

「引っ越してきてすぐ。

生まれたての息子を泣かしっぱなしで必死で荷ほどきしてたら、お隣のレイコさんが来て「抱っこしててあげるよ〜」と声をかけてもらった時。「大変だよね〜」と裏のキョンちゃんが来て、あれはポンカンだったかタンカンだったか、とにかく美味しい柑橘類をどっさりくれた時。

疲れた身体にすっぱい果実をじゅわ〜と沁みこませながら、この場所で暮らしていく不安が消えていったのを覚えています。

トモちゃん、よしみちゃん、純子さん、けいちゃん…。歩けば顔を合わせて、立ち話して、家に上がらせてもらったり、おかずをもらったりするご近所さん。

人に助けてもらって、わたしも時には人の助けになれて。そんなことを毎日、なんてことない時間の中で感じられることで、わたしは前よりも少し自分のことが好きになれて、来年はもう少し好きになれてるかもしれないとすら思えるようになりました。

ありがとう。

暑い日が続くけど梅ジュースでも飲んで乗り切ろうね。うちの梅ジュースも持っていくね。

中村暁野」

 

あなたのホームは、どこですか?

悩みの渦中にいる時、出口が見つからない時、自分をそのまま肯定して、悩みを消し去ってくれる魔法のような場所や存在がほしい。弱ったこころは、そんな一発逆転ホームランを願います。

でも、生きていればいい日も悪い日もあって、悩みはやっぱり尽きないということも、わたしたちは知っています。それは、ホームがあってもなくても同じこと。

だからこそ、「わたしは、わたしでいいんだ」と思わせてくれるホームがあれば、と思うのです。人生は、これからも続いていくのだから。

いま、あなたのこころに浮かんでいる「ホーム」は、どこですか?

(おわり)

【写真】馬場わかな(3枚目以外)、中村暁野(3枚目)

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中村暁野さんインタビュー文字起こし

中村暁野さん

家族と一年誌『家族』編集長。Popoyansのnon名義で音楽活動も行う。長女・花種さん、長男・樹根くんと4人暮らし。現在は『家族』2号の取材を進めている。2017年3月に一家で神奈川県と山梨県の山間の町へ移住した。http://kazoku-magazine.com

 


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