【40歳の、前とあと】桑原紀佐子さん 第2話:40歳で全てをゼロにする。そう決断したら、次の一歩が見えてきた

ライター 一田憲子

東京渋谷区にある親子支援センター「かぞくのアトリエ」を運営する桑原紀佐子さんにお話を伺っています。

現在、25歳、23歳、18歳の3児の母。ご自身の子育ての経験を通して、お母さんたちに「そんなに頑張らなくてもいいんだよ」と語りかけます。

第1話は、若くして20歳年上のご主人と結婚。その苦労と、ずっと家庭にこもり「自分がない」と感じていた頃のお話を伺いました。

桑原さんは、子育てが少し楽になった頃からご主人の会社を手伝い始めたそうです。

1988年に、桑原さんの元ご主人が創刊した「dictionary」というフリーペーパーがあります。「お金では買えない価値を」をコンセプトにアート、ファッション、音楽、など様々なカルチャーを発信し、多くの人に影響を与えてきました。

 

誰かに聞いてみたかった。あなたにとって、こどもとは? 男とは? 母とは?

桑原さん:
「この『dictionary』で、『マザー』という特集を組んだとき、ちょっとお手伝いを始めました。

当時、若い頃にクラブ通いをしていたような元気な女性たちが、みんな時を経てお母さんになっていたんですよね。しかもどの方もとってもチャーミングで、環境や食事に気をつけたりと、新しい時代のお母さんの在り方を探している感度の高い人ばかり。

その姿がとっても素敵だから、皆さんにリアルな3つの質問に答えてもらったんです。『あなたにとって、こどもとは? 男とは? 母とは?』というものでした。

女優のYOUさんや、ヘアメイクアップアーティストの中野明美さん、内田也哉子ちゃんに対談をしてもらったり。当時、リアルな子育てのメディアがなくて、この特集がすごく反響があったんですよ。それで、『mother dictionary』という、お母さんのための別冊を作ることになったんです」

▲桑原さんが携わった冊子「mother dictionary」。子育てをするおかあさんたちの本音を紹介した企画は、大きな反響を呼んだ。

最初は周りのママ友を紹介したり、撮影に立ち会う程度に。だんだんと仕事を覚えると、編集も任されるようになっていきました。

桑原さん:
「どんなに睡眠時間が少なくなろうが、楽しかったですね〜。子供が寝た後にいつも仕事をしていました。

でも一方で、家庭でやるべきことが滞るのを許されているわけではありませんでした。朝早く起きて、お弁当を3つ作って、子供達にご飯を食べさせて、少し遅れて起きてくる夫のためにできたてのご飯を用意して。仕事へ。

夕方にはまた帰って子供達の夕食を作り、夫が帰ってくる頃にもう一度温かい食事を用意し……。家にいるときは、ずっとキッチンに立ちっ放しでした」

お子さんが成長するにつれ、受験や部活など、行動範囲が広がり、桑原さんのやるべきことは増えるばかり。

桑原さん:
「サッカーのクラブチームに入ったりしていたので、朝5時に起きておにぎりを持たせ、試合会場への行き方を調べたり、引率したり。お休みなんてありませんでしたね」

揺らぎはじめた結婚生活。40歳で「ゼロになる」決断を。

▲楽人くんの七五三にせっかくだからみんなも着物を着ちゃおうと出かけた日。桑原さんは、この頃から子育てと仕事の両立がますます大変になっていった。

そんな中で、ご主人との関係が少しずつ揺らぎ始めました。何年も話し合い、修復を重ねながらも、溝は埋まらず、ついには、心と体が悲鳴をあげ始めてしまいました。

そんな桑原さんが、大きな決断をするきっかけになったのが、2011年の東日本大震災です。

「当時、私は自分が不幸だと思っていました。離婚をして、家も仕事も失って、子供3人を抱えてどうしよう……って。

でも、震災では何もかも失った方が大勢いらした。みなさんもう一度頑張って一歩を踏み出そうとされていました。そうか、苦しいのは私だけじゃない、私もゼロからやればいいんだ、って思ったんです」

この時、40歳。

40歳でゼロになる……。それが桑原さんの大きな決断でした。幸い持ち家を売ったお金で少し貯蓄ができましたが、桑原さんはどこかの会社に勤めようと考えていたそう。

 

履歴書に書くことがない……。社会の厳しさを痛感した日。

桑原さん:
「勤め先を探すにあたり履歴書を書こうと思ったんですが、全く書けないことに呆然としました。書くことがないんです。

一流大学をでた訳でもないし、”mother dictionary”の運営をしていたというだけでは世間的には何も通用しない。しかも子供が3人もいてシングルマザー。社会の厳しさを痛感しましたね」

ちょうどそんなとき、知り合いから冊子を作る仕事を頼まれたり、イベントの企画をお願いされたり。

桑原さん:
「いつも困った時に、助けられるんです。みなさん、私が今までやってきた仕事を見ていてくださった。子育てに必死だったことも、フリーペーパーを作っていたことも、やむを得ず事務所の貸しスペースの運営の雑務をしたことも、全ての経験とそこで出会った人が、私を助けてくれたんです」

そして、やっと別居をし、家を探して、引っ越しの段取りをしていたら、この「かぞくのアトリエ」の話がやってきたのだとか。

次回は、そんな桑原さんのご自身の舞台づくりについて伺います。

(つづく)

【写真】有賀傑

 


もくじ

 

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桑原 紀佐子

株式会社マザーディクショナリー代表。お母さん・お父さんたちが、子育ての楽しみや喜び、時には悩みを共有できるコミュニティサロン「かぞくのアトリエ」をはじめ、各分野で活躍するクリエイターが講師を務めるアートスクールなど、世代を超えた交流の場をつくる「代官山ティーンズクリエイティブ」を運営。女性の子育てや、子どもの暮らしについて、企画、イベント、ワークショップ、編集など様々な分野を通じて新しい視点を提案している。http://www.motherdictionary.com/

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ライター 一田憲子

編集者、ライター フリーライターとして女性誌や単行本の執筆などで活躍。「暮らしのおへそ」「大人になったら着たい服」(共に主婦と生活社)では企画から編集、執筆までを手がける。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、多くの取材を行っている。ウェブサイト「外の音、内の香」http://ichidanoriko.com/


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