【あのひとの子育て】作家 山崎ナオコーラさん〈後編〉比べない、求めない。私にしかできない子育て

ライター 藤沢あかり

妊娠から1歳までの子育てについてを綴ったエッセイ「母ではなくて、親になる」の著者であり、作家として活躍する山崎ナオコーラさんに、子育てとの向き合い方をお伺いしています。

子育てにおいて「あきらめる」ことを大切にしているという山崎さん。「あきらめる」の語源が「明らかにする」ということから、自分自身がどんな人間かを明らかにし、人と比べないで生きる「しあわせの視点」についてを前編ではお聞きしました。

産後間もない時期から執筆活動を再開し、現在は育児と仕事とを両立する日々。その暮らしは、どのようなものなのでしょうか。

 

子育ても家事も「6割できたらいい」


山崎さん:
「産後、家事は基本的に雑にやっていたと思います。妊娠中に、現代の三種の神器と言われる “洗濯乾燥機” “食器洗浄機” “お掃除ロボット” を一気に買ったんですよ。そうしたら、思っていたよりも洗濯ってラクだなぁ、時代っていいものだなぁと思いましたね。

家事に対しては、もともと理想が低いのかもしれません。“もっと自分はちゃんとやれるはずなのに!” と思いながらできないでいると辛いですよね。

でも私の場合は “自分がそんなにていねいに家事がやれるわけない” というスタンス。だから多少シワのある服を着たり、雑な掃除の部屋にいることがそんなに気にならなかったのかも」

確かに、「もっときちんと」「もっと完璧に」と思えば思うほど、赤ちゃんとの暮らしや仕事の狭間で、できない自分にジレンマを感じて苦しくなってしまいます。

山崎さん:
「だいたい6割、7割くらいでいいかな、という気持ちでやっているとしあわせになれる気がします。

子育てをしていると、たとえばオーガニックの食が、衣類が……と、いろいろ気になるし、こだわりだすとキリがありません。

100%そうしなくちゃいけないとか、反対に、きっぱり何もやらないぞとか、どちらかに決める必要はないんですよね。取り入れたいんだけど6割くらいでいいや、くらいでいいと思うんです。

なんでも10か0かで考えてしまうと、どちらかに決めなければいけないので大変に思えますが、6割くらいでいいと思えば、楽しめることが増えるかもしれません」

 

夫と家事を「分担しない」ための心がけ

山崎さん:
「夫との家事分担も、厳密に決め込んでいません。そもそも私たちの場合は、 “分担” というふうにあまり考えないほうがいいんじゃないかと思っているんです。

私のほうが家にいる時間が長く、書店員として外で働く夫は立ち仕事が多い。だから物理的には私のほうが家事をやっていますが、家族なんだから会社のように “分担” と考えなくてもいいのかな、と思うとラクになりましたね」

家事は義務ではなく、家族みんなが心地よく暮らすための手段のひとつ。とはいえ、そこに明確なルールがないとなると、どこかで相手への不満が募ったり、イライラを溜め込んでしまうことにはならないのか、気になるところです。

山崎さん:
「そのぶん、夫とは話し合うことを大切にしています。仕事が大変なときは、“私は今こんな状況だから” と言葉で伝えます。きっちり分担するのではなくて、それぞれの健康や精神状態が良く保てるように2人で過ごしている感じですね。

ご飯は一緒に食べよう、食べているときは話をしよう、と意識して向き合うようにしています。電車で移動するときはスマホは見ずに会話をしよう、とか」

ほんの少しのボタンの掛け違い、会話のすれ違いが膨らめば、それは大きな気持ちのズレにつながります。

一番近くにいるからこそ、言葉にして伝え合う。子育てを夫婦一緒に楽しむ秘訣は、日常のささいな心がけから始まるのかもしれません。

 

我が子が絵本のページをめくったとき、「これで生きていける」と思った

▲山崎さんがお子さんに読んでいる本。左から反時計回りに、『赤瀬川原平の名画探検 フェルメールの眼』赤瀬川原平著(講談社)、山崎さんお手製の絵本、川元陽子展画集『Bask in the sun.』、『マルセランとルネ』谷川俊太郎訳(リブロポート)。

作家である山崎さんにとって、子どもにも本好きになってほしい、たくさんの本に触れてほしいと望む気持ちは、やはり人一倍強かったのでしょうか。

山崎さん:
「子どもはひっきりなしに絵本を持ってきては読んでくれという感じで、今のところは本が好きそう。ですが、これから本好きになるかはまだわかりません。

私は幼いころから、口に出して表現するのが苦手だったこともあって、本があることで生きやすいと感じていました。だから、子どもが本をめくれるようになったとき、 “これでこの子も生きていける” って思いましたね」

▲まだストーリーがわからない子どもなら楽しめるのでは、と見せてみたところ気に入ってめくるようになったというフェルメールの画集。「顔がはっきりしているところもいいのかもしれません」

▲赤ちゃん向けの絵本はオノマトペで構成されているものが多いと気づき、生後2か月頃に作った絵本。画家・熊谷守一のカレンダーを貼り合わせ、短い言葉を添えた。カキツバタの絵には、「きどったはなだな すっすっすっ」。

▲イラストレーター・川元陽子の画集は、ゾウのページがお気に入りだそう。「子どもが初めて話した言葉が“ゾウ”だったんです」

▲すぐに顔が赤くなってしまうマルセランと、ことあるごとにくしゃみが出てしまうルネ。その欠点があるがゆえに仲よくなる2人の男の子の物語。「私も幼いころに読んだ一冊。我が子にも、こんなふうに大切な友人ができてほしいと思っています」

山崎さん:
「思えば私の親も、たくさん本を与えてくれました。ずっと本が好きだったんです。すごく人見知りで友達も少ないほうだったので、幼稚園くらいから本をつくる人になりたいと思っていました」

時に励まされ、時に寄り添い。いつも、かたわらに本を携えていた山崎さんは、自然と小説を書くことをライフワークと定め今に至ります。

▲山崎さんが新たに手掛けた絵本という新ジャンル。『かわいいおとうさん』(こぐま社)子どもが親を、そして親が子どもを思う気持ちには、どうして好き? どんなところが好き? そんな理屈はありません。ただまっすぐに、無条件に愛する気持ちが絵本の隅々にまで満ちています。

 

「自分の時間がなくなった」とは思っていない

▲子どもと初めて訪れた動物園で購入した、ゾウのぬいぐるみは、子どものお気に入り。「絵本のゾウが好きだから満を持して動物園に行ったのに、本物のゾウにはあんまり興味を示してくれなくて(笑)」。

育児をする中で、多くの人がぶち当たるであろう「自分の時間がない」という気持ち。驚くことに山崎さんは、それを感じないと言います。

山崎さん:
「映画もなかなか観られないし、読書量も仕事量も減ってしまいました。でも、子どもと一緒にいるときも自分の考え事をしています。だからそれも自分の時間だなと感じるんです。子どもに時間をあげているという感覚は全くないですね。

子育てをしていない人に比べれば執筆時間はぐっと減りましたし、そこだけを見て勝負をすれば私は負けてしまうかもしれません。

でも人から見て “子どもがいることで時間がない” とマイナスに思えることも、子育ての経験が仕事に活きるというプラスの面もあります。作家に限らず、どんなジャンルでもそういう考えはできる気がしているんです。

だって子育てはすごく面白い。映画より、ずっと面白いですよ」

人はなにかを得たとき、そしてどちらか一方の選択をしたとき、そのもうひとつの道にあったかもしれない、「失った何か」を想像してしまいがちです。でも、もしかしたらそれは「誰かから見た自分」を勝手に想像したり、他人と比較して「失った」と思い込んでいるだけなのかもしれません。

自分の視点をプラスにする、それだけで状況は180度変わることもあるようです。

最後に山崎さんに、これから先の子育てについて尋ねてみました。

山崎さん:
「これからも、よその子とできるだけ比較したりしないようにして生きていきたいですね。子育てに対しては、なにがなんでもこうしたい!こんな子になってほしい!というのがないんです。

私にできることはそんなにないって、もうあきらめています。できるのは、お腹いっぱいにしてあげたい、そのくらいかな。

とにかくしあわせになってほしい。あと、長生きしてほしいですね」

(おわり)

>>前編はこちらから

 

【撮影】砂原文(9枚目以外)

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山崎ナオコーラ

1978年、福岡県出身。2004年に会社員をしながら書いた「人のセックスを笑うな」が第41回文藝賞を受賞し、作家デビュー。『母ではなくて、親になる』(河出書房新社)、『かわいい夫』(夏葉社)など、エッセイのファンも多い。新著は「絵本」という新たなジャンルに取り組んだ『かわいいおとうさん』(こぐま社)。子どもが親を、そして親が子どもを思う、まっすぐ無条件な愛のかたちが絵本の隅々にまで満ちている。

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ライター 藤沢あかり

編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。

▽山崎ナオコーラさんの書籍

 


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