【35歳の仕事論】第2話:20代は「がむしゃら」。理想と現実のギャップはあれど…(良品計画 矢野直子さん×編集マネージャー津田)

ライター 小野民

「あの人」の仕事が、いきいきと輝いて見えるのは、どうしてなんだろう。かつて自分と同じ歳だった頃、「あの人」は何を考え、どんなふうに働いていたんだろう。

転職のラストチャンスなんて言葉もささやかれる、35歳という節目。その年齢を目前にした、1984年生まれのスタッフ津田が、人生の先輩に会いに行くシリーズ「35歳の仕事論」をお届けしています。

今回は、良品計画の矢野直子さんに、全5話でお話をうかがいました。

 

新卒で良品計画へ。デザイナー志望だったけれど、店舗に配属となり…

津田: 矢野さんの20代のお話をお聞きしたいのですが、入社当時はどのようなことをしていたんですか。

矢野さん: 実は、新卒で良品計画の面接をうけたときに、「企画デザイン室で働きたい」って言ったんですね。ところが面接官に「そんな部署はありません」と返されました。それでも「でもきっといずれできると思います」と強気に答えちゃったんです。

そんなことを言ったのに、ありがたいことに採用していただいて……。当社ではまず店舗に配属されるので、3年間は販売員をしていました。

津田: 志望していたデザイナーとは、まったく別の職種に配属されたワケですね。想像と違うお仕事が回ってくることに対して、本音ではどう思われていたのですか?

矢野さん: 大学の同級生がメーカーに就職して、最初からデザイナーという肩書で働くのを見ていたので、葛藤がなかったとは言えないです。

ただ、そもそも良品計画は「考えかた」ありきの会社だと思っていたので、どんな仕事でも「クリエイティブじゃない」と思ったことはほとんどないです。

自前で店舗を持っているからこそ、できることもあるだろうと思っていたので、店舗スタッフを経験するのは、ごく自然なことだと考えていました。

 

入社3年目の転機。あたらしい仕事は「なんでも屋」だった?

津田: 新卒で店舗勤務だったということは、きっとどこかでキャリアチェンジがあったのだろうと察していまして。いまのキャリアに繋がるようなお仕事には、部署異動や社内公募などで就かれたんですか?

矢野さん: 実を言いますと、私はバイヤーにもデザイナーにも、結局一度もなっていないんです。

販売員をしていた入社3年目のときに、本部に異動になるって聞いて「うわあ、バイヤーだ」って喜んだんです。そうしたら、上司である店長が「バイヤーじゃなくってプランナーって書いてあるよ」と。

「プランナーってなんだ?」と疑問に思いつつ配属されると、同じくプランナーとして呼ばれていたのは、無印良品をつくってきた「ミスター無印良品」と言われる萩原富三郎さんでした。

入社3年目のまだペーペーな私と、ミスター無印良品。すごくアンバランスな2人が、当時の課長である金井政明(良品計画の現会長)のアイデアに則って、ありとあらゆることをやりましたね。

今みたいにたくさん部署があるわけじゃないので、新店舗をつくるときは図面も引きましたし、売り場のディスプレイを考えたり、外部のデザイナーさんとバイヤーとのつなぎ役をやったり。

「プランナーってなんだ?」と思っていたけれど、デザイナーとは違う「何でも屋」というのが、ぴったりかもしれません。

 

20代の仕事で学んだことが、そのあとの「根っこ」になる

津田: ミスター無印良品といわれるような方と同じ肩書きで働くのは、私だったらプレッシャーを感じてしまいそうですが……

矢野さん: まだ20代だったので、日々がむしゃらだったんですよね、きっと。萩原と私ではあまりに経験値が違うから、比較のしようがないのです。

どちらかというと、金井と萩原それぞれの意見の板挟みに悩みました。

たとえば同じ質問を2人にすると、金井からは「ザ・コンランショップ」のカタログを、萩原からは「通販生活」のカタログを渡されて、「これで学べ」と……。

津田: デザイン素人の私でも違いが分かるぐらい、両極です。でも、全然違うけど、どちらにも答えがあるのかもということなのでしょうか?

矢野さん: そうなんですよね。結局、人の暮らしは通販生活だけでも、コンランショップだけでも完結しないんです。

だから通販生活のように生活者の気持ちに寄り添うことも、コンランショップのデザイン性やわくわく感も、両方大切にしたいと思いました。

無印良品って、つねに生活者にとって今必要なものを、それぞれの部署でとことん考えてる会社なんです。この考え方が根本にあって、助けられたこともたくさんあります。判断に迷ったら、生活者の視点に立ち戻る。私自身、30代、40代と仕事の中身も変化しましたが、大切にしていることは変わらないですよね。

 

好きな気持ちが原動力。仕事も場所も自分で作るから楽しい

津田: 「がむしゃらだった」とおっしゃってましたが、20代の日々はやはり修行の時期という感じだったのでしょうか?

矢野さん: それが、がむしゃらに要求に答えつつも、結構好き勝手もやっていたんです

空いてる部屋に「クリエイティブルーム」と手書きした看板をかけて、勝手にオフィスをつくっていました。誰も来てくれなかったですけど(笑)。

津田: 楽しそう! そういう自由な社風、憧れます! ですが誰も来ないと、さすがに寂しかったり……?

矢野さん: それが、ないんです。毎月買ってた好きな雑誌や、当時つくっていた商品のサンプルに囲まれて、すごく幸せだった。いやぁ、いい時代です。

津田: ああ。素敵です。きらきら輝いている矢野さんが想像できます。やりたいことは、自分でつくっちゃう。それを見守ってくれる上司や仲間がいる環境もいいですね。

矢野さん: 見守るというか、見て見ぬふりかも。倉庫みたいですごく汚かった部屋をきれいに掃除して使っていたので。まあいいかって思ってたんじゃないかな。

第3話では、仕事を辞めて赴いたスウェーデンでの暮らしや、仕事についてうかがいます。

(つづく)

【写真】鍵岡龍門


もくじ

 

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矢野直子(やの なおこ)

東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、1993年、株式会社良品計画入社。2003年、夫の赴任でスウェーデンへ。マルメで3年過ごす。その間、業務委託でヨーロッパ〈MUJI〉に従事。ミラノ・サローネの展示やヨーロッパMUJIの商品開発に携わる。2008年、株式会社三越伊勢丹研究所(旧伊勢丹研究所)入社。リビングのディレクションを担当。2013年、良品計画へ再び入社。現在生活雑貨部企画デザイン室長を務める。

 

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ライター 小野民(おの たみ)

編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に離島・地方・食・農業などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫3匹と山梨県在住。


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