【つたわる、手書き】前編:きれいな字じゃなくていい。手書きへのハードルが下がる、ペンと紙選び

編集スタッフ 岡本

「今年もよろしくね」の一言が書けなくて

印刷された年賀状の片隅に一言、手書きの言葉が添えられているだけで、その人のことがぐっと近くに感じられる。

あたらしい年のはじまりに、何度もそんな経験をしてきました。

だからこそ私も!と書きたい気持ちがあるものの、メールやSNSでの気軽なやり取りとは打って変わって、途端にむずかしく感じて、思うように書けません……。

「書く」機会が減ったからこそ、「上手な字で書かなくちゃ」「気の利いた言葉を添えなくちゃ」という思いが、手書きへのハードルをぐんと上げていたようです。

でも避けては通れないこの季節、もうちょっと“前向きに”書けるようになりたいのです。

 

信頼されて、354年。東京鳩居堂さんに聞きました

そんな手書き迷子の私が救いを求めたのは、「書く」プロ354年目の、東京鳩居堂さん。

1663年に京都で創業してから今日までつづく、お香と和文具の老舗専門店です。

前編では、自分の字を見て手書きをためらってしまうという方に試してほしい、くせ字と相性のいいペンを教えていただきましたよ。

 


くせ字がコンプレックス…。
どうすれば見栄えがよくなる?


自分のくせ字が、どうしても気になってしまうんです、と相談すると、頼もしい答えが返ってきました。

鳩居堂 高橋良平さん(以下 高橋さん)
「そのくせが表れることこそ、手書きの良さではないでしょうか。くせを直すのではなく、活かす。そのためには、ペンと紙選びがポイントです。

くせ字との相性から、味や深みが表現しやすいものを選んでみました。ひとつの例として、ぜひ参考にしてくださいね」

今回は当店スタッフからじっさいに声が上がった、右上がり丸文字大きさがばらばらといった、3パターンのくせ字に注目しました。

 

きつい印象になりやすい、右上がりの文字には?

「細字のゲルインキボールペン」と「罫線入りの紙」で、実直さを引き立てる!

鳩居堂 高橋さん:
「独特の趣がある右上がりの文字。実直さが表れているその字を引き立たせるには、ゲルインキのペンがいいと思います。

書き慣れたボールペンのなかでも、油性に比べてインクの出がよく、水性に比べるとにじみにくいのが特徴。

さらに細字を選べば、凛とした印象が強まるのではないでしょうか」

鳩居堂 高橋さん:
「用紙には、罫線が入ったものを選びました。すっとのびるラインが美しく、列を揃えて書けるため、仕上がりがきれいに。

白地にグレーや茶の罫線などシックなものを選べば、凛々しさがぐっと増しますよ」

 

幼く見えてしまう、丸文字には?

「中字の万年筆」と「和紙」で、味わい深さの演出を。

鳩居堂 高橋さん:
「幼さが気になるという悩みが多い、丸文字。あえて太めの筆記具を選んで、丸文字の持ち味を思い切り表現してみてはいかがでしょうか。

万年筆と聞くと敷居が高いと思われるかもしれませんが、筆先がしなるのですごく書きやすいペンなんです。

いつもと違うするするとした書き心地で、ペンの運びがスムーズに。使っていくと先端がなじんで、その人のくせをとらえた形になるのも楽しみのひとつですよ。

高価なイメージの万年筆にも、200円前後の「使い切りタイプ」など手頃なものもあるので、まずはそこから手にとって、日常使いしてみるのもおすすめです」

鳩居堂 高橋さん:
「便せんやハガキを和紙製にすることで、手紙全体の印象がより味わい深くなる気がします。

インクのにじみも、雰囲気のある手紙を演出するポイントに。受け取ったとき、書いた人の顔が浮かぶような1枚になりました」

 

ゆがんで見えやすい、大きさがばらばらな字には?

「手紙ペン(水性)と「絵柄入り便せん」で、もっと大胆に!

鳩居堂 高橋さん:
「字のばらつきを揃えようと思わず、あえてそのちがいをもっと大胆に書いてみてはいかがでしょうか。

手紙ペンのなかには、ねかせると太く、立たせると細く書けるものもあります。字ごとに大きさ・太さが変わり、コントラストが強くなると、アートな雰囲気が漂う1枚に。

見た目で記憶に残る手紙は、きっと書き手の気分も高めてくれますよ」

鳩居堂 高橋さん:
「罫線がなく、大ぶりな絵柄が入ったものを選ぶと、絵はがきのような仕上がりになります。

コツは列を揃えること。罫線入りのものだと大きさや太さがちがう字の魅力が伝わりにくいので、透かし罫線付きのものを選ぶとよさそうですね」

 

“しっくりペン”がすぐわかる、試し書きのコツ

鳩居堂 高橋さん:
「たとえばゲルインキボールペンと一言で言っても、売り場にはたくさんのメーカーのものが置いてあります。

そのなかからベストな1本を選ぶためには、試し書きが重要なんです。

書くのは適当な文字でもいいのですが、できれば一度ご自分の名前を書いてみてください。ふだんから書き慣れていて、筆記具の違いを感じやすいからです。

ペンごとに異なる、持ちやすさや滑らかさを見極めてくださいね」

▲くせ字を活かした手紙に合う小技として、一文字ハンコが使えるのだそう。じっさいに書き上げた手紙のさいごに押してみると、一段と味わいが増したように感じます。

つい、くせ字を直さなくちゃ、と努めていたこれまで。

高橋さんの言葉を聞いて、なんだか気がラクになりました。「手書き」に対してすこし力が入りすぎていたのかもしれません。

なんだかくせ字っていいかも。

字に対する気持ちのひっかかりがとれたところで、次回は言葉選びのコツについてお届けします。

(つづく)

【写真】岩田貴樹(2枚目以外)


もくじ

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東京鳩居堂

1663年・京都にて創業、今年で354年目を迎える老舗文具店。お香・書画用品など、伝統的な商品から時代に合わせたものまで、さまざまな商品を扱っている。

▽鳩居堂が監修した著書はこちら


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