【チカラの抜き方】後編:20年前の自分とは、できることも違うけれど。

編集スタッフ 松浦 編集スタッフ 松浦

「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」となんだか気忙しい季節。

つい力が入ってしまう時期だからこそ、肩の力が抜けた素敵な女性に会いに行きました。前編に引き続き、お話を伺ったのは、東京・青山で「ごはんやパロル」を営む、桜井莞子(さくらい・えみこ)さん。

前編では、「先のことは考えない」という、桜井さんの様々な挑戦を、後編では、そんな桜井さんが「居直る」までの話を伺います。

 

私は何がしたいの? 人生で一番悩んだ60代

桜井さんが、初めて年齢を意識したのが60歳のときでした。

40代ではじめたケータリングとお店で、働きづめの日々を送っていた桜井さん。しかし60歳を迎え、これまでのすべてを捨てて、伊豆高原へ引っ越します。

桜井さん:
当時は60歳となれば定年退職があたりまえ。みんな仕事を離れて落ち着いてたから、私もそろそろゆっくりした方がいいのかなって思ったの。

でも結果、できなかった(笑)もちろん、はじめの数年は庭いじりしたり、のんびりお茶したり、いままでと全く違う日々で、なんでも楽しかった。でも、すぐに飽きてしまったんです」

「貯金なんかするもんじゃない!自分で稼いだお金でいろんなものを経験しろ」そんな父親に育てられた桜井さんは、伊豆高原に家を建て、大好きな旅行やお洒落と豪快に貯金を使ったと言います。

そして気づけば、貯金は0円。あっという間に底をついてしまいました。

桜井さん:
「あの時は、心の底からどうしようって思ったわ。自分でもびっくりするけど、この60代が人生で一番悩んでた時期だったかもしれないわね。

こじんまりと料理教室をやっていたけど、どこか昔と違うなって思ってた。散歩も運動も嫌いで、何も趣味がなくて、私、何がしたいのかしら?ってモヤモヤしてたの」

「60歳になったから、落ち着こう」60歳をひとつの区切りとし、一度は現役を引退した桜井さん。「人生を逆算なんてしたことない!」そう言っていた桜井さんが、はじめて年齢をただの数字ではなく、人生の尺として意識した時だったのかもしれません。

 

「私たち、まだまだこれからよ!」の一言に背中をおされて

そんな時、現役で活躍する同い年の友人からこんなことを言われます。

私たち、まだまだこれからよ!」この言葉が、桜井さんをまたこの世界に引き戻しました。

桜井さん:
「体は元気だったの。もしかしたら、また働きたいと、どこかで思っていたのかもしれないですね。そんな時に、友人にこんなこと言われて、『そうよね!これからよね!』って、なんだか急に力が湧いて」

2014年5月。桜井さんは東京に戻り、71歳で「ごはんやパロル」を東京・青山にオープンします。

開店から3年たった今、お店には、”同じ舌を持つ人たち” の大きな輪ができていました。復活を楽しみにしていた前からのお客さん、ふらりと立ち寄ってすっかり常連になったお客さん、そして、そんなお客さんが連れてきた新たなお客さん。

桜井さんにまた、忙しくも楽しい日々が戻ってきました。

 

20年前とはできることも違う、でもそれでいい。

桜井さん:
「でも実際お店を再開してみたら、やっぱり20年前と同じようにはいかなくて、大変。物忘れもするし、目も見えなくなって、腰も痛くなる。若い頃は普通にできたことがどんどんできなくなるの」

これまでとのギャップに戸惑っていた桜井さん。そんな時、「それでいいのよ」と気付かせてくれたのが、一緒に働く、パロルのサービス担当、出村明美さんでした。

出村さん:
「歳をとれば、なんてことない作業にも時間がかかるもの。でもそれは仕方ないって思う。歳を重ねるってそういうことよね、えみちゃん?」

桜井さん:
「そうね、お店をはじめた頃は、お互いのミスばかり気になって、毎日のようにあみちゃんと喧嘩してた。でも、あみちゃんと話し合っていくうちに、『あ、これはこれでいいんだ』って思えるようになったんです」

20年前のパロルでできたことが、今のパロルではできないかもしれない。でもそれはそれでいい。

ランチの営業はしない。土曜から月曜は、しっかり休む。程よく肩の力の抜けたお店のスタイルは、今の自分たちを受け入れることで生まれたものでした。

桜井さん:
「失敗を責めるんじゃなくて、『やあね、私たちって』って笑い飛ばす方がよっぽどいいですよね」

 

成るように成る。だから大丈夫。

桜井さん:
「先のことは考えない。とりあえずやってみる!って言ってみたけど、あ〜ダメだったなって反省も、もちろんあるのよ。しっかり先を見通して、考えていれば、あんなことにならなかったかもって。

でもね、何か悲しいことがあっても、歳をとって振り返れば、ほんの小さなことかもしれない。それに、その出来事があって、いまがあるの。いまが良ければ、それでいいのよ。

歳をとったからかもしれないけれど、いい方向に全部捉えられちゃうの。「あ、これでいいんだ」って。居直るって楽よ。

どうしたって、成るように成る。若い頃にはわからないけれど、きっとそうなのよ。だから大丈夫」

二人三脚でお店を切り盛りする、「パロル」のサービス担当・出村明美さんと。

なんだか忙しない年末。「年が変わるまでに…」「○○歳になるまでに…」と、どこかで人生を “尺” に置き換えて、私は焦っていたのかもしれません。

でも、そもそも人生なんて、計画通りにいかないもの。今年が思うようにいかなくても、失敗だらけでも、いつか桜井さんのように「これでよかったのよ」と笑える日がくるかもしれない。

桜井さんが繰り返し言っていた「居直る」ということ。その正体が、ほんの少しだけ、わかったような気がしました。

(おしまい)

 【写真】原田教正

もくじ

第1話(12月21日)
人生は逆算なんてできない。「居直る」ことの意味

第2話(12月22日)
20年前の自分とは、できることも違うけれど。

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桜井莞子(さくらい・えみこ)

東京・青山「ごはんやパロル」店主。デザイン会社などを経て、1988年にケータリングの会社を設立。1994年、西麻布に最初のお店をオープンする。その後、2004年に伊豆高原に拠点を移し、料理教室をはじめるが、2014年、71歳の時に再び「ごはんやパロル」を開く。

 

桜井さんの密着ドキュメンタリー映像もご覧ください。

*スマートフォンでご視聴の場合、再生後、縦向きのまま、右下の全画面表示を押してご覧ください。

*Youtubeでチャンネルを登録していただくと、最新話のお知らせが受け取れるようになります。

 


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