【40歳の、前とあと】ダンスコ荒井博子さん 前編:毎日は楽しかったのに、どこかで「これでいいの?」とモヤモヤ

ライター 一田憲子

おしゃれな人たちが集まると、その足元でよく見かけるのが「ダンスコ」の靴です。

アメリカ、ペンシルバニア州で生まれたブランドで、一度足を入れると病みつきになるほど履き心地がよく、長く立ったり歩いたりしても疲れません。アメリカでは、レストランや医療系で働く人も多く愛用しているのだとか。

しかも、シンプルで、パンツにもスカートにも合わせやすく、おしゃれの名脇役になってくれる靴なのです。

私が、初めて「ダンスコ」を知ったのは、ガラス作家の辻和美さんが履いていらしたから。「これね〜、いいのよ〜。ラクだし、ちょっといい感じでしょう?」と教えてもらいました。

そして、しばらくすると、あちこちで感度のいいおしゃれピープルが履いている姿を見かけるようになったのです。何だ、何だ?ダンスコって?と興味津々になったことを覚えています。

この「ダンスコ」を日本に初めて紹介したのが、荒井博子さんです。このとき、荒井さんは38歳。まさに、40歳の「ちょっと前」だったというわけです。

 

このままでいいの? 何か楽しいことはないかな?

アパレル会社でデザイナーとして働いた後、「どうしても海外で暮らしてみたい」というご主人の後を追って渡米したのが28歳の頃。アメリカでの日々は、それは楽しかったのだと言います。

ご主人は寿司屋さんで働き、荒井さんは専業主婦に。レストランでちょっと働いたり、アメリカ人の知人の家の掃除やベビーシッターをしたり。

荒井さん:
「カルチャーの違いが面白かったんですよね。家が広くて、キッチンも伸び伸びした空間。大きなオーブンを使ってケーキを焼いたり、いろんな国の人たちが集まっているので、料理を教えてもらったり、ポットラックパーティー(持ち寄り式のホームパーティー)を開いたり。

最初の頃は、夫のお給料も少なくて、1週間に100ドル(約1万円)しか使わない生活をしていたけれど、それはそれで楽しかったなあ。節約するためのサイトを見て工夫したりと、ゲーム感覚で面白がっていたんです。

ただ、自分が一体何者になっていくのがか全く見えなくて、モヤモヤしていましたね。毎日愉快で楽しいけれど、何か物足りない……。そんな感じでした」

ちょうどその頃、グリーンカードを取得。アメリカに永住するつもりで、二人でレストランを開くか、家でも買おうか、と話し合っていたそう。

初めて「ダンスコ」を意識したのは、定期検診で病院に行く際についてきてもらっていた通訳の女性が履いていたのを見たとき。

「私も真似して1足買ってみました。そうしたら、脱ぎ着しやすいし、長時間立っていてもラクだし。周りを見渡したら、レストランで働いていた友人たちもみんな履いていて」と荒井さん。

さらに、病院の担当医も、「ダンスコ」を履いていたのだと言います。「先生に、『私、今、何をやりたいのかわからないんですよ』なんて世間話をしていたんです。『アメリカにいるのは楽しいけれど、何のために生きているのかな?』とか……。そうしたら、その先生が『そんなこと言ってるなら、ダンスコを日本で売ればいいじゃない』ってさらっと言ってくれたんですよね」

そんな言葉がきっかけになり、「ダンスコ」本社にメールを送ってみたら、何とすぐ本社へ行くことになった、と言いますから驚きです。色々ありましたが、あっという間に事が進み、帰国して、販売を始めることになりました。

▲シアトルにあるダンスコ本社にて。ロングヘアの荒井さんが初々しい。

▲こちらもダンスコ本社。日本で総代理店を始めるために、何と1000足近くの靴を買い取った。

 

ダンスコの靴をバッグに入れて営業へ

ところがそれからが大変!最初の1年間はほぼ売れず、売り上げはトホホ。アメリカで家を買うために貯めていたお金が、残り少なくなってしまったのだと言います。

荒井さんは、靴を2〜3足バッグに入れて営業に回りました。その中の一軒、表参道のセレクトショップ「QUICO」での取り扱いが決まった頃から少しずつみんなに知ってもらえるようになったそう。

「スタイリストさんが雑誌で紹介してくれたり、私自身が『大人になったら着たい服』(主婦と生活社刊)で取材をしていただいて、『ダンスコ』の靴を履いて誌面に掲載されたり。

手持ちのお金がどんどん減っていったときには、本当にドキドキしたけれど、自分自身で『ダンスコ』を履いて、これはいい靴だ、と言う確信はあったので、どこか自信と言うか、必ずわかってもらえるという確信があったんですよね」

ようやく「これは大丈夫かも」と思えるようになったのが、ちょうど40歳になった頃。

荒井さんは、誰かが雑誌で「ダンスコ」の靴を紹介してくれる度に、会える方にはお礼の気持ちを伝えるために、わざわざ出かけたそうです。

「スタイリストの岡尾美代子さんが、雑誌で紹介してくださったときには、岡尾さんが立ち上げた鎌倉のデリカテッセンのショップ『ロングトラックフーズ』まで行きました。そうしたら、ちょうどお店にいらして……。『今日、初めてお店に立ったんですよ』と聞いてその偶然にびっくりしました。それから少しずつ仲良くなって、一緒にご飯に連れて行っていただいたり、コラボで靴を作ったり」

初めて行ったアメリカで、全く英語がしゃべれなかったにも関わらず、どんどん友達を作り、楽しい毎日を送ったように、「ダンスコ」の靴を持って、大好きな人の元へ出かけて行ったのが荒井さんのすごいところ。心を開いて、誰かと繋がれば、自分の力以上のことを成し遂げられるのかもしれません。

私も表参道を歩いていたら、「一田さ〜ん!」と道の反対側から声をかけてもらったことがあります。いつもニコニコと笑顔で、オープンマインド。だから、みんなが荒井さんのことが大好きになってしまうのです。

ところが、やっと会社が起動に乗り始めた40歳という年齢は、荒井さんにとって新たな試練が始まる年でもありました。

【写真】木村文平


もくじ

 

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荒井博子

「ダンスコ」のブランドディレクター。ファッションセンスにも支持が高い荒井さんが、アメリカ・ペンシルバニア州で生まれた「ダンスコ」を日本で初めて紹介したのが2008年。その履き心地の良さと、独特なデザイン性が、おしゃれ好きの間で話題となり、人気を呼んでいる。全国に取り扱いがある他、表参道、鎌倉、名古屋に店舗を構える。http://www.dansko.jp/index.html

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ライター 一田憲子

編集者、ライター フリーライターとして女性誌や単行本の執筆などで活躍。「暮らしのおへそ」「大人になったら着たい服」(共に主婦と生活社)では企画から編集、執筆までを手がける。全国を飛び回り、著名人から一般人まで、多くの取材を行っている。ウェブサイト「外の音、内の香」http://ichidanoriko.com/


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