【あのひとの子育て】藤田あみいさん〈前編〉 記録する。憶えていたいことを、ちゃんと憶えていられるように。

ライター 片田理恵

子育てに正解はないといいます。でも新米のお父さんお母さんにとって、不安はまさにそこ。自分を形作ってきたものを子どもにどう伝えるのか。正直、わかりませんよね、だって正解がないんですから。

だから私たちはさまざまなお仕事をされているお父さんお母さんに聞いてみることにしました。誰かのようにではなく、自分らしい子育てを楽しんでいる “あのひと” に。

連載第9回は、エッセイスト・漫画家の藤田あみいさんをお迎えして前後編でお届けします。

 

『ぜんぶ、無印良品で暮らしています。』

5万7千組の応募者の中から無印良品の家に当選し、2年間モニターとして暮らした藤田あみいさん。

夫とともに「三鷹の家大使」として生活した様子をつづったブログが人気を呼び、『ぜんぶ、無印良品で暮らしています。』(KADOKAWA、2016年)という本も出版しました。

無印良品の家の住み心地は? 「ぜんぶ」ってどこまで? など、聞いてみたいことは数あれど、それは藤田さんの本とブログに詳しく、かつおもしろく書かれているのでおまかせすることにして……。

私たちが衝撃を受けたのは、そんな藤田さんの2冊目の著書でした。

今春発売になったばかりで、タイトルは『懺悔日記』(マガジンハウス、2018年)。自身が苦しんだ産後うつの体験を率直かつ赤裸々に描いたこの記録は、Hanakoママwebでの連載時から大きな話題と多くの共感を呼んでいます。

藤田さんが夫と3歳の長女・てーたん、愛犬・みみ子とともに暮らすご自宅にお邪魔して、お話を伺いました。

 

娘に、もし障害があったら

藤田さん:
「私が産後うつを発症したのは、娘の発達障害を疑ったことがきっかけでした。

『この子、人見知りしないのね』と何気なくいわれたひと言が気になって、ネットで調べてみたんです。そうしたら『発達障害』という言葉がヒットした。

発達障害って、なに?から始まって、発達障害だったらどうしよう、という不安がどんどん大きくなり、心も体もがんじがらめになっていったんです。

発達障害があろうがなかろうが、娘を愛する気持ちに変わりはない。そう確信しているのに、それでも無性に不安で、胸をかきむしられるような焦燥感が消えませんでした」

「産後うつ」は決して特別な病ではない、そう藤田さんはいいます。赤ちゃんを生んだ女性が誰でも罹患する可能性のある、私たちみんなに近しいもの。

母が子をいとしく思う。その大切な気持ちが、時として苦しみに形を変えてしまうという悲しさを知り、なんともやりきれない思いになりました。

 

うつの間もやめなかった「記録する」こと

当時の気持ちが、著書には克明に記されています。大きなうねりに飲み込まれたように何もかもコントロールが利かなくなり、生活が破綻していくさま。娘に対してどんな気持ちを抱き、自分がどんな行動をとり、夫がどんなふうに言葉をかけてくれたか。

藤田さんは、どうしてこれほどまでに、リアルな会話のやり取りや自分と家族の様子を覚えていたのでしょうか。

その理由は、幼少期からつけている日記にありました。子どもの頃から自然に、呼吸をするように、日々のことを書き留めてきたそう。「記録する」ことが好きだったといいます。

藤田さん:
「小学生の頃、宿題に絵日記がありますよね。

嫌がっている友達もいたけど、私は全然苦痛じゃなかった。むしろ喜んでやっていたと思います。あまりに昔のものはもう残っていないけど、中学生になったあたり、思春期以降のものはとってありますよ。さすがにお見せできないですけどね(笑)」

これまで、日記のほかにも手帳やブログ、mixiなど、その時代に合った記録メディアの活用を楽しんできました。

藤田さん:
「律儀とかマメな性格というわけではなくって。何も書いていない時期もあるんですよ。1カ月とか半年空いて、また書き始めたり。

でもそれはそれでいいと思っているんです。書かなきゃと思うと続かない。この頃は書きたくなかったんだなぁっていうことは、記録として残っているわけだし」

 

憶えていたい大切な日常があるから、書く

今つけているという3年日記は今年が3年目。見せていただいたページの一番上の枠には、うつで苦しんでいた2016年の記述もありました。内容はその日の出来事が中心ですが、話題の多くはやはり、てーたんのこと。

「少し風邪気味みたい。気をつけようね」「買い物で『こっちだよ』と教えてくれた。すごい!」「初めての雪。遊ぶ姿がめちゃくちゃかわいい」など、温かな愛情にあふれた言葉が並びます。うつで苦しいときも日記をつけ続けることができたのはどうしてでしょうか。

藤田さん:
「うーん……忘れちゃうから、ですかね。すごく嬉しかったことも、悲しかったことも、絶対に一生忘れないと思ったことさえ、案外コロッと忘れちゃう。憶えていたいことを、ちゃんと憶えていたいから書いているんだと思います。

一行でも、ひと言でもいいから記録を残しておくと、一瞬でその時の気持ちに戻れる感じがするんですよね。『今日から消費税8%』って記述を見るだけで、当時の娘の姿や我が家の日常がすごく細かな部分まで思い出せたり。

娘の成長に関してもそうです。もちろん写真もたくさん撮っているけど、自分の言葉で残しておくことで、それが記憶につながるキーワードになっている気がして」

 

無理するのをやめたら、娘がよく笑うようになりました

現在、藤田さんのうつ症状は改善。家事、仕事、子育てに自分のペースで取り組みながら、家族の日々を穏やかに楽しんでいます。深い悩みと苦しみを超え、日常を取り戻した今の気持ちを聞かせてください。

藤田さん:
「家事も、仕事も、子育てもできるって、なんて大きな喜びだろうと思います。うつの時は何ひとつ満足にできませんでした。誰よりも大切な娘と一緒に過ごすのが苦しいって、本当に辛い。

今は、とにかく無理をしないようにと心がけています。しんどい時は『しんどい』と伝えて、寝る。私が無理するのをやめたら、娘がよく笑うようになりました。それがすごくうれしいです」

無理しない……。頭ではわかっていても、実際にはなかなかできないことですよね。

でも、それでも。ほかのことを多少犠牲にしてでも、お母さんは無理をしすぎてはいけない。

それが子育てにおいては時として何より大切なのだと、藤田さんの経験は私たちに教えてくれているのかもしれません。

日記という自分のための記録が、いつしか誰かと分かち合うツールになってゆく。後編では、藤田さんが病を経て抱いた「誰かのために書きたい」という思いについて伺います。

(つづく)

【写真】神ノ川智早

 

藤田あみいさん

エッセイスト・漫画家。女性誌やwebにてコミックエッセイを連載中。2014年1月に「無印良品」三鷹の家大使に就任。著書に『ぜんぶ、無印良品で暮らしています。』(KADOKAWA)『懺悔日記』(マガジンハウス)がある。夫と娘が生き甲斐。

ライター 片田理恵

編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。

 


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