【ボーダーの似合うひと】前編:「定位置」を見つけて。60代で始めた、第二の人生(徳田民子さん)
ライター 小野民
何歳になっても「チャーミング」な人って、憧れる
近頃、雑誌で見かけるたびに気になる人がいます。わたしよりずっと歳上、母親よりも上の世代なのに、カラフルなボーダー柄をさらりと着こなし、とてもチャーミングな佇まい。
意中の方の名前は、徳田民子(とくだ たみこ)さん。老舗のファッション誌『装苑』の編集長などとして都心で働いた後、定年を機に「縁もゆかりもなかった」という長野の安曇野へ越し、暮らしています。
73歳の徳田さん。あんな風に歳を重ねられたらきっとすてきだけれど、どうしたらあんなに軽やかにいられるんだろう。
ぜひお会いしてみたいと、初夏の安曇野へお邪魔しました。
ボーダーをさらりと着こなす、徳田さんを訪ねました
徳田さん:
「お会いできるのを楽しみにしているわね。時間?私はいつでも構わないのよ」
取材の1ヶ月前。家を訪ねてお話を聞きたいと伝えると、電話口の徳田さんは弾むような声で言いました。
当日はあいにくの雨でしたが、迎えてくれた徳田さんの笑顔は晴れやか。家の周りはしっとりと濡れた木々の緑が濃く、思いきり深呼吸したくなるマイナスイオンたっぷりの空気をまとっています。
徳田さん:
「まずはお庭を案内するわね。元は雑木林や田んぼだったところに芝を張り、夫と2人で作りました。2人とも草取りが好きでね、暇なときはずーっとしているの。
鳥が来るから、さえずりを聞いたり姿を見たりするのが楽しみなのよ。最近はほら、あそこに巣を作ったみたいで」
▲「ほら、あそこよ、あそこ」と一生懸命指差す徳田さん
安曇野へ引っ越してやりたかったことのひとつが、庭いじり。手入れが行き届いた庭は、9年前に越して来てから夫婦でコツコツ作り上げ、現在進行形でアップデート中です。
初夏にはたくさんのベリーがなるのも楽しみのひとつ。たとえば、ジューンベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、ラズベリー……色とりどりの実が顔をのぞかせます。
ハーブ類もたくさん植えられています。「お茶を淹れるわね」と言ったかと思えば、徳田さん、ささっと着替えて庭のハーブを摘みに出ました。
徳田さん:
「花がきれいなこれは、ベルガモット。ミントは何種類か植えているのよ。うん、いい匂い」
▲「庭仕事用に」と着替えたトップスもボーダーでした
庭のあちこちを軽やかに移動しながら、その日の気分に合うハーブを摘んでブレンドティーに。お茶の時間は、庭仕事や家事の合間の楽しみです。
ジャムにクッキー、食いしん坊だから、手作りが楽しいの
自称食いしん坊の徳田さん。庭に実ったベリーや栗は、摘んでは冷凍庫に入れておき、時間のあるときにジャムにしています。
徳田さん:
「ジャムでもクッキーでも、安曇野に来てからは自分で作るのが楽しいの。移住でだいぶ物を手放したから、調理器具も少なくて、オーブントースターでクッキーも焼いちゃうのよ」
▲昼食はそば粉のガレット。できたてのジャムを添えて
徳田さん:
「今日のジャムはいい出来! この間作ったのは、ちょっと甘すぎちゃって。いつも材料は目分量だから、失敗することもあるけど、次はこうしてみようかなって工夫するのも楽しいじゃない?」
東京にいた頃は週末しか一緒に食べられていなかったという食事も、いまは毎日、夫婦揃って。外が気持ちのいい時期は、バルコニーでの食事がお気に入りです。
足りないものも、買うよりまずは作ってみたくて
▲お気に入りのミシンスペース。ミシンカバーのアップリケもお手製
引っ越しを機に、新しい住まいには、必要最小限のものしか置かないと決めたという徳田さん。不便を感じることもありますが、そんな時こそ、趣味の裁縫の出番なのだとか。
徳田さん:
「作るのは簡単なものばかりなのよ。こういうものがあったらいいなと思ったら、すぐ使いたいから、すぐ作るの。
布やリボンが好きでどんどん集めちゃうから、カゴ3つ分までって決めて、あふれるくらいなら手放すようにしているの」
お茶の際に出てきたコースターも、お手製のもの。大好きなボーダーの布に、頂き物の包装に使われていたリボンをあしらって。すっきりとしたインテリアのあちこちに、遊び心のある手芸がキラリと光ります。
「定位置に戻す」ゆるいルールで、整える
「使うものだけを持ってきた」という現在の住まいにあるものは、手に取りやすいようにと、あえてしまわず、オープンに配置されています。そのすっきりシンプルなインテリアは、なんだか徳田さんの人柄そのもののよう。
徳田さん:
「シンプルに暮らすって、『定位置』に戻すってことだと思うの。わたしは几帳面な性格じゃないから、ものの置く場所を決めておけば、散らからないし、無駄なものを増やさずに済んで、結果的に楽チンなのよ。
自分が楽チンでいられることが、きっとシンプルに生きる秘けつなんじゃないかしら」
10年前、安曇野への引越しを機に「自分にとって大切なこと」を考え、人生の荷下ろしをしたという徳田さん。後編では、「歳を重ねたからたどり着いた」という、いまの心持ちを伺います。
(つづく)
【写真】原田教正
もくじ
徳田民子
1945年生まれ。文化服装学院デザイン科を卒業後、文化出版局『装苑』などの雑誌編集長を務める。退職後は2008年よりフリーランスのファッションコーディネーターに。2009年長野・安曇野に生活の拠点を移す。7月14日に『大人のおしゃれ手帖特別編集 徳田民子さんのファッションルール』(宝島社)が発売予定。元広告ディレクターの夫・裕二さんと2人暮らし。
ライター 小野民
編集者、ライター。大学卒業後、出版社にて農山村を行脚する営業ののち、編集業務に携わる。2012年よりフリーランスになり、主に地方・農業・食などの分野で、雑誌や書籍の編集・執筆を行う。現在、夫、子、猫3匹と山梨県在住。
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