【訪ねたい部屋】第2話:部屋づくりはダイニングテーブルから。家づくりで諦めたこと、譲らなかったこと
おしゃれな部屋作り・インテリアをダイニングテーブルから考えたというイラストレーターの大森木綿子さんにインタビュー。大きくアンティークなダイニングテーブルがあるお部屋には、ソファやテレビも置いてありません。家づくりで諦めたこと、譲らなかったことなどを伺いました。
ライター 藤沢あかり
友人の部屋を訪れたときの、わくわくするような気持ち。そこには、「その人らしさ」を知る嬉しさや楽しさがあるのかもしれません。
お宅を訪問し、インテリアを拝見しながら「その人らしさ」を紐解く特集「訪ねたい部屋」を全3話でお届けしています。
第1話は、イラストレーターの大森木綿子さんのお宅へ。
2話目となる今回は、キッチン&ダイニングと寝室の、お気に入りの家具選びと、その配置の秘密を伺います。
飾るものも、使うものも一緒に。シームレスな空間づくり
大森さんの暮らしの中心は、3階のキッチン&ダイニング。南側にある一面の大きな窓から、さんさんと陽が注ぐ、明るく暖かな空間です。
およそ15畳の、このスペース。壁付けのキッチンには、大森さんの好きなものが並びます。
▲古いものに加え、民藝品や手しごとの作品なども大好きだという大森さん。竹細工のなべ敷きは九州で作られているもの。
▲雰囲気たっぷりのお釜は、リサイクルアイテムを扱うショップ「PASS THE BATON(パスザバトン)」で見つけました。ごはんは毎日これで炊いています。
大森さんにとっては、インテリアを彩るアート作品やアンティーク雑貨、そしてキッチンのやかんやお釜、食器……、どれも等しく「お気に入り」であり「大切な暮らしの相棒」です。
さらには、仕事道具である画材も同様。
飾るものと使うものが、同じ雰囲気をまといながら部屋にある様子は、キッチン、ダイニング、アトリエとがそれぞれが混じり合い、暮らしと仕事、さらには日常と非日常がひと続きであることをうかがわせるようです。
幅2メートルのダイニングテーブルが、部屋づくりのスタート
この空間での主役は、なんといってもこの大きなダイニングテーブル。
どんと部屋の中心に構える重厚なつくりに、誰もが目を奪われます。
大森さん:
「食事や仕事、すべてをまかなえるよう、大きなテーブルを置きたかったんです。
思い切って、お気に入りのアンティークショップ「jipenquo(ジーペンクオ)」でオーダーしたお気に入りです。まだ建築中だったこの部屋の図面を見ながら、考え抜いてサイズを決めました」
▲どっしりとしたアイアンの脚と、使い込まれたチーク材のヘリンボーン床。どこかヨーロッパの古い家を思わせます。
なんと、長さ2メートルという大型サイズ。無骨な風合いの古木とアイアンを組み合わせたこのテーブルを主役に置いたことで、おのずとインテリアの方向性も定まっていきました。
まずはこのテーブルに似合うかどうか。
それがこの先の住まいにおいての夫婦共通の指針ともなるからです。
2人のお気に入りとなった主役の家具は、二人三脚の住まいづくりを、気持ちの重なる方向へ導いてくれたのかもしれません。
この空間に一番必要なものを考え、ダイニングテーブルを選んだ大森さん。しかし、大きなテーブルは部屋の大半を埋め尽くします。
憧れの大きなダイニングテーブルを叶える代わりに、大森さんには諦めたことがありました。
暮らしの優先順位で、あきらめたもの
壁付けのキッチンがある、長方形のスペース。
こんな間取りを見たら、キッチン側にダイニングテーブルを置いて、反対側に側にソファとテレビを置いてリビング空間に……と、考える人も多いかもしれません。
大森さん:
「ソファへの憧れは、もちろんありました。
でも、この部屋で食事、創作活動、友人との時間など、すべてを叶えるためには大きいテーブルが何より必要だと思ったんです」
▲大きなソファが置けないかわりに選んだのは、1人がけのコンパクトなソファ。
そこでソファがあるリビング空間をあきらめ、ダイニングとして使うことをメインにしました。
さらに、この部屋にはもうひとつ、他のお宅と比べて「ない」ものがあります。それはテレビです。
大森さん:
「テレビは、この家には置かないと決めていました。もともと観る機会も少なかったし、最近は好きなものだけを選んでパソコンで観ることもできるので」
テレビの要不要は各家庭でそれぞれですが、実は、テレビは間取り選びを大きく左右するアイテムのひとつ。
どの場所からも見える位置にと考えると、自然とテレビの位置が決まり、そこからソファやダイニングテーブルの配置を考えるというのが一般的だからです。
ダイニングテーブル、ソファ、カフェテーブル……という概念から一旦離れることで、住まいのレイアウトは一気に自由度が上がります。
「この家は狭すぎる」と決め込みすぎず、こんなふうに発想を変えれば、住み心地のよい部屋へと変わるかもしれません。
北向きの部屋は「白」で明るく、すがすがしい場所に
▲シンプルなベッドは「無印良品」で購入。
場所を移して、こちらは2階の寝室です。
南向きの暖かな3階に対して、こちらは北側に位置しています。
大森さん:
「寝室は、白のシーツやカーテンにと決めていました。アンティークの家具や雑貨に似合う空間にしたかったんです。
立派すぎるカーテンだと浮いてしまいそうだったので、自分で塗ったシーチング地に何度も洗いをかけて素朴な風合いにしました」
▲窓辺のカーテンは、わずかにトーンの異なる白がレイヤーのように重なり合います。
大森さん:
「ここは寝るところ、と役割を決めました。こまごまとした収納家具などを並べたくなりますが、ベッド以外のものはあまり置かないようにしています」
▲実用度よりも、目に触れるお気に入りを大切にしたベッド脇の小さなチェスト。
▲衣装ラックは、ダイニングテーブルと同じアンティークショップ「jipenquo(ジーペンクオ)」でオーダーしたもの。
ベッドを置く時は、ヘッドボードを壁に沿わせる形で置き、できるだけ部屋を効率的に、広く使おうとしがちです。
でも、ダイニング同様、部屋の主役を「ベッド」に決め、多くを望まないことが結果として居心地の良さの確保につながったようです。
「白い布」一枚が叶える収納術
ほとんどものを置いていないように見える寝室ですが、実はヘッドボード裏や脇に、衣装ケースや仕事道具をしまった箱が置いてありました。
大森さん:
「イラストの商品など、ここに一時的に置いたりするんですが、なるべく目立たないように布をかけているんです」
ふわりとかけた、白い布一枚。
この部屋のテーマカラーであるシーツやカーテンと同じ白をまとわせることで、不思議と部屋の一部のようになじんでいました。
目隠しというと、つい、かわいらしい布を選びたくなりますが、選び方しだいで、こんなふうに背景に溶け込ませることも可能なようです。
▲壁が少しさみしいから、と手近にあった布をくるりと巻いてディスプレイに。布一枚、それだけで無機質なモルタルの壁に表情が加わります。
主役の家具と、それを引き立たせる空間づくり。
大森さんのインテリア術は、物件を選ぶときだけでなく部屋の模様替えにも今すぐ役立ちそうです。
最終回である3話目では、10年を経て感じる我が家への思い、そして現在進行形で楽しむ住まいづくりの秘訣を伺います。
(つづく)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
大森木綿子
「心に浮かんだことや身近なもの」をテーマに、柔らかさと透明感に満ちたタッチで描くイラストレーター。紙雑貨やテキスタイル、書籍の装丁、パッケージデザインなど、暮らしをそっと彩る作品を生み出している。2018年11月20〜30日まで、千葉県習志野市のギャラリー『and R』にて企画展を予定。
ライター 藤沢あかり
編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。
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