【上手に伝えたくて】第1話:コミュニケーションは、能力じゃなくてモチベーション。

ライター 嶌陽子

 「うまく伝わらない」のは、何が原因?

「伝えたいことが、思い通りに伝わらない」 というモヤモヤ、感じたことはありませんか。

たとえば職場で。チームのメンバーに作ってほしい資料の内容やイメージを伝えたところ、自分が考えていたことと違うものが出来上がってきた。

あるいは家で。家事や子育てについて「こんなことに困ってる」「こうしてほしい」を伝えたつもりが、どこか的外れな言動が返ってきた。

話す順番や使う言葉など、自分の伝え方に問題があるのだろうか。余計なことを言い過ぎているから? そもそも、“相手に伝わる” ってどういうことなんだろう?

伝えることに苦手意識を持っていた頃、一冊の本に出合い、少し肩の力が抜けたような気がしました。

 

「伝わらない」経験が、「伝える」意欲を育てる。

その本には、こんなことが書かれています。

<……「伝えたい」という気持ちはどこから来るのだろう。私は、それは「伝わらない」という経験からしか来ないのではないかと思う。>

– 平田オリザ『わかりあえないことから』(講談社現代新書)p.25

「わかりあえない」「伝わらない」という事実を肯定することから出発する、その考察に、希望のようなものを感じたのです。

この本を書いたのは、日本を代表する劇作家・演出家の平田オリザさん。劇団「青年団」を主宰し、国内外で精力的に公演を続けています。平田さんが提唱した「現代口語演劇」は、演劇界に大きな影響を与えました。

取材冒頭、コミュニケーションに苦手意識があると告げると、平田さんはこんな話をしてくれました。

平田さん:
「今、会社の合併や統廃合など、組織の再編がどんどん起こっています。これまでの長く続いていた共同体、つまり  “わかりあう”  文化を築いてきた人たちの中に、新しく  “わかりあえない”  人たちがどんどん入ってくるわけです。

昔と比べて、価値観やライフスタイルもすごく多様化している。職場だけでなく、ママ友グループや趣味のグループ、どんなコミュニティでも“わかりあえない”人たちが集まるという現象があちこちで起きていると思います。

そんな中、どうコミュニケーションをとっていくかという問題はとても難しい。日本人が一番苦手とするところだし、組織ではリーダーシップがすごく問われる問題でもあるんです」

 

コミュニケーションは、能力ではなくモチベーション。

平田さんは、20年ほど前から全国の小中学校などをまわり、演劇を通じたコミュニケーション教育にも携わっています。そこから見えてくるものもあるのだとか。

平田さん:
「少子化の影響もあって、いまの子どもたちは、自分とはライフスタイルや価値観が違う他者と触れ合う機会が少ないんです。

全国をまわっていると、小学校一年生から中学校三年生まで1クラス30人、ずっとクラス替えなしという地域にもたくさん出合います。そうなると、子どもたちはお互いのことをいやというほど知っている。

しかも、まわりの大人はやさしくて  “わかってくれる” 人ばかり。学校では先生が子どもの気持ちを察して指導してくれるし、家では気持ちを文で伝えなくても、たとえば『お茶』と単語を言うだけでお母さんがお茶を出してくれたりする。

そんな環境だと、どうしても ”伝えたい” 意欲や必要性は低下していきますよね。僕はコミュニケーションは能力ではなく、モチベーションの問題だと思っているんです」

本来、自分以外の人間は全員、自分とは違う価値観や感じ方を持った他者。「わかりあっている」のではなく、「わかりあえない」ことが前提。それを知るためにも「伝わらない」というもどかしさは、私たちに必要なものなのかもしれません。

 

今、必要とされているのは「対話」の力。

▲取材が行なわれたのは平田さんが芸術監督を務める「こまばアゴラ劇場」。東京・駒場は、平田さんが生まれ育った土地でもあります。

これからの私たちに必要なのは、価値観の異なる人との「対話」の力だと平田さんは言います。

平田さん:
「『会話』は、ライフスタイルや価値観が近い、親しい人同士でのおしゃべり、いわゆる日常会話。それに対して『対話』とは、あまり親しくない人同士の価値観や情報の交換、もしくは親しい人同士でも、価値観が異なるときに起こるそのすり合わせ。これが僕の定義です。

つまり、『わかりあっている』人とは会話ですむけれど、『わかりあっていない』『伝わらない』人同士だと対話になる。この対話において『伝える』という力がすごく必要になってきます。

対話は自分の主張を相手に納得させる『対論』=ディベートとも違います。AとBの論理がすり合わさり、Cという新しい概念を生み出すのが対話。つまり、対話の後には自分も相手も意見が変わるということが前提なんです。変わることは決してネガティブなことではなく、むしろ新しい発見や出会いがあります」

価値観や考え方の違う相手同士、お互いの違いを大切にし、それをすり合わせて発展させることが「対話」。では、その中でどのように「伝える」ことをしていけばいいのでしょうか。

第2話では、平田さんが日頃実践している「伝え方」を中心に、うまく伝えるための極意や考え方を紹介します。

(つづく)

【写真】安川結子(1、2枚目を除く)


もくじ

第1話(3月13日)
コミュニケーションは、能力じゃなくてモチベーション。

第2話(3月14日)
失恋の悲しさは人それぞれ。でもプリンを落とした悲しさなら……?

第3話(3月15日)
「キャラ変」より「キャラ増」の方がいい。重層性が気持ちをラクにする。

平田オリザ

劇作家・演出家・青年団主宰。こまばアゴラ劇場芸術総監督・城崎国際アートセンター芸術監督。1962年、東京生まれ。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞。1998年『月の岬』で第5回読売演劇大賞優秀演出家賞、最優秀作品賞受賞。2002年『上野動物園再々々襲撃』(脚本・構成・演出)で第9回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。2002年『芸術立国論』(集英社新書)で、AICT評論家賞受賞。2003年『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス文化通信省より芸術文化勲章シュヴァリエ受勲。2019年『日本文学盛衰史』で第22回鶴屋南北戯曲賞受賞。

▼平田オリザさんの著書はこちら。

 


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