【まめまめしい暮らし】第1話:わざわざ買い物に行かなくても、いちいち包丁で切らなくても、豆があれば大丈夫

ライター 片田理恵

「まめまめしい暮らし」はできないって、あきらめていました

いつか豆料理の話がしてみたいと思っていました。それは、私たちがふだん食べ慣れている家庭料理とは少し違うものだから。大人になって、自分で選んで好きになったものだからです。

豆のサラダに豆のカレー、豆の煮込み、豆のコロッケ。子どもの頃は想像もしなかった外国の食事を、私たちは今、身近に楽しむことができます。目新しくて見た目もかわいい、食欲をそそられるさまざまな豆料理は、実に魅力的。

とはいえ、豆を自分の台所に持ち込む機会はなかなかありませんでした。確かにおいしいけれどどことなく難しそうだし、手間ひまがかかりそう。そんな「まめまめしい暮らし」はできないって、どこかであきらめてしまっていたから。

 

豆があれば、そのつど献立を考えて買い物をしなくてもいい

でもその考えは、按田優子さんと出会って変わります。按田さんは、東京・代々木上原で「按田餃子」というお店を営む料理家。食べることは点ではなく、線でつながっている。それが按田さんの基本の考え方でした。

今夜の夕飯のために、そのつど献立を考えて買い物をするのは大変だから、冷蔵庫にあるものを生かしたい。乾物や缶詰などの定番食材で、ボリュームや栄養バランスを整え、次の食事を「食べつなぐ」。そこで重宝するのが豆だといいます。

按田さん:
「豆は頼れる相棒。時間がある時にふやかしたりゆでたりして、料理のパーツにしておくんです。食べる時は、冷蔵庫にあるほかの食材と組み合わせて味付けをするだけ。時間短縮になるのはもちろん、食べる分だけ作るから余らせることもないんです」

 

豆を「じゃがいもの角切り」だととらえてみる

按田さん:
「野菜をたっぷり食べたくても、一人暮らしだとたくさんの種類の野菜は買えません。食べきれないし、コストもかかるし。そういう時に豆があるとすごく楽ですね。じゃがいもの代わりとしてスープにもサラダにもできるし、おまけに包丁で切る必要もない」

ここでいう「豆」は、いわゆる乾物。水で戻して使う豆のことを指します。水と豆を計量したり、それを一晩置いたりと、細かな決まりや準備が難しそうでつい敬遠してしまっていたんですが……。

按田さん:
「一袋丸ごとを一度に使わなきゃいけないと思うと大変に感じるかもしれません。使いたいだけ、スプーン1杯だけゆでるなら気が楽じゃないですか? 食事では豆だけを食べるわけじゃない。私が食べてちょうどいいのは、1食分だと大さじ1杯くらいです。

水の量も決まりはありません。じゃがいもをゆでる時と同じ。最初はたっぷり入れて、もし多ければあとで減らせばいいし、少なくなれば足せば大丈夫。豆をゆでたり蒸す時間を作るのではなくて、ほかの食材と一緒に、何かのついでに加熱しておくような気持ちで」

 


すぐ食べても、食べなくてもOK
豆を2週間もたせる下ごしらえ


おすすめは、一番頼りになる「白いんげん豆」

数ある豆の中でも、按田さんがその使いやすさに太鼓判を押すのが「白いんげん豆」です。理由は「味にクセがないから」だとか。料理次第で味付けを変えられて、食べ飽きることがないといいます。思い立ったらすぐに使える下ごしらえの方法を教えてもらいました。

 

(STEP1)ふやかす

豆をたっぷりの水で6時間以上ふやかす。大さじ1杯の豆をホーローか陶器のカップでふやかせば、そのまま蒸し器に入れられる。

ふやかした豆は冷蔵庫で1週間くらい日持ちする。気分が変わったらすぐ料理に使わなくても問題なし。その場合は皿やラップでフタをして水ごと保管し、時々水をとりかえること。

 

(STEP2)蒸す・ゆでる

▲夕飯用の食材を蒸すついでに豆も蒸しておく

戻し始めに寄っていたしわがピンと張ってきたら調理を始めてOK。

ふやかした豆を必要な分だけ蒸す。もしくは鍋でゆでる。蒸す場合は耐熱容器を使い、ひたひたくらいの水を入れること。サラダは硬めで15分、煮込みは柔らかめで30分が加熱時間の目安。

好みの硬さになるまで加熱したら下ごしらえ終了。加熱した豆を保存する場合は、水気を切って熱いうちにややしょっぱめに塩をまぶしておくと、冷蔵庫で1週間くらい日持ちする。

ふやかして7日目の豆をゆでて塩をまぶせば、最長で2週間、豆をもたせることができる。これで「食べつなぐ」のが按田さん流。

▲数種の豆をせいろで一度に蒸せば、ミックスビーンズもカンタン

豆によって火通り時間が違うため、指でつまんで確認しつつ、ゆであがったものから引き上げるとよい

 

その日食べないものを作るということ

食べつなぎは、例えるならパズルです。豆もまた、両隣のピースをつなぐ役割を果たす重要な1片。昨日と明日の食卓を、のこりもののトマトと鶏肉を、豆がつないでくれる。そう思うと、豆をゆでる甲斐があるように感じませんか?

豆のための献立を考え、「豆をゆでる」という新たなひと手間を加えるのではなく、今夜、明日、来週の私を楽にするために、空いた時間で「豆をゆでておく」という考え方。その日に食べても食べなくてもよいものを作る(といっても、ゆでるだけですが)という自由さこそが、私たちにとっての「まめまめしい暮らし」ではないかと思いました。

明日からの2日間は、ゆでた白いんげん豆を使った具体的なレシピをご紹介。引き続き按田さんに、食べつなぎのための知恵も伺います。

(つづく)

【写真】馬場わかな

 


もくじ

 

按田優子

料理家、『按田餃子』店主。1976年東京生まれ。菓子・パン製造、乾物料理店などを経て独立。土地の気候を生かした保存食についての探求がライフワークで、その土地独自の食品開発の仕事でペルーのアマゾンに通ったこともある。著書に『たすかる料理』(リトルモア)、『冷蔵庫いらずのレシピ』(ワニブックス)など。

 

ライター 片田理恵

編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。

 


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