【あのひとの子育て】石原文子さん〈後編〉得意かと聞かれればやっぱり苦手。でも、子育てって本当におもしろい。

ライター 片田理恵

東京・上町で民芸の器屋「工芸喜頓」を営む石原文子(いしはらふみこ)さんにお話を伺っています。システムエンジニアの夫と小学4年生の善蔵くん、2年生の菊ちゃんの4人暮らし。

前編ではご自宅を子どもたちの遊び場として開放していること、親として、そして地域の大人のひとりとして子どもとつきあう姿勢についてお話いただきました。

続く後編では、ご主人との関係やふたりの役割分担について、そして子どもたちひとりひとりとの今の関わり方について、伺います。

前編はこちら>>

 

「やりたくないときに無理してやるのはやめてね」

取材を依頼した際、「子育ては夫がしているので」と話してくださった石原さん。その言葉の真意が知りたくて、ご主人との協力体制やおふたりの役割分担を伺いたいと思いました。ご主人はどんなふうに子育てをされているんでしょうか。

石原さん:
「いわゆる育児書に書かれていること全般、なんでもやりますよ。乳幼児の頃はオムツ替えやお風呂、離乳食、寝かしつけ。今もだいたい同じで、子どもたちと一緒にサッカーをして、その後夕食作りと洗い物、お風呂に入れてから寝る前の読み聞かせまで、一通りすべてできますね。

家事育児はその都度ふたりで分担していますが、夫には『やりたくないときに無理してやるのはやめてね』とつねづねいわれてます。私の機嫌が悪くなって家の中の空気が悪くなるくらいなら、やりたくないことはやらなくていいよと。ごはんは外に食べに行けばいいんだから、って」

基本的には家事も育児も夫婦平等という石原家。楽しく暮らすというモットーを何よりも大事にしているおふたりらしく、「無理するよりも楽をする」ことは意識して気をつけているといいます。

この考え方が、石原さんの子育てのキーワード。つい「お母さんなんだからやらなくちゃ」に引っ張られてしまいがちなところを「お母さんが楽しむことが、家族全体のために大事」だと思えたら、体も、そして心も、リラックスして充実した日々を過ごせるのかもしれません。

さらに夫妻は、お互いにゆずれない家事のこだわりを持っているため、そこは尊重しあって分担しているのだといいます。たとえば、掃除と片付けは石原さんの担当。今朝も「掃除機かけておこうか?」というご主人の言葉を、ありがたいと思いつつ、自分でやるからと辞退したそう。

こうしたちょっと言いにくいことでも自分の気持ちを正直に伝えることで、気まずくなることもなく、一緒にいられる。それが夫婦の自然な在り方なんですね。

 

子どもたちの意志を尊重しつつ、ルールも作る

リビングから続く子ども部屋には、ふたつの机と二段ベッドが並んでいます。小学校に通うふたりの子どもたちはともにサッカーに夢中。自宅から通えるクラブチームに入り、毎日のように練習に汗を流す日々を送っているそう。

石原さん:
「先に始めた長男の影響で、長女もサッカーをやっています。朝6時から練習に行って、そのあと学校。夕飯のあとでまた公園にサッカーしに行ったりと、本当にサッカー漬けですね。

娘は男の子みたいな感じで、スカートやお姫様は好きじゃない。だから洋服ひとつ選ぶのも、私だけで判断はせず一緒に決めます。やっぱり自分で選んだものは彼女らしいし、似合うんですよ。

私がサルエルパンツなんかをどう?って渡してみても、『それはママが好きなものでしょ。ママには似合うと思うけど、私は別のがいい』ってしっかり言うんです。最初にこちらを認めてから主張するというところは、その通りだなと思って。だから私も彼女の意志を尊重するようにしています」

4年生のお兄ちゃんは、まわりの友だちが中学受験に向けて塾通いを始めたことが気になっているそう。受験はしないかもしれないけれど塾には行きたいと、現在、学習塾探しに奔走しています。

石原さん:
「受験する同級生が多いので、やっぱり影響は大きく受けますね。今、一番気がかりなことかもしれません。

学校以外に朝夕のサッカー練習があって、公文(くもん)もある。毎日、宿題だってやらなきゃいけない。友だちとゲームをやる時間もほしいわけだから、週に1日くらいは習い事が何もない日を作りたい。そうなると、どこにどう通わせるのがいいんだろう、って。親が送り迎えをしなくても自分で通えるところを探しています。

息子とは、やっぱりゲームの時間でもめることが多いですね。やることをやってからと言ったのにやってないとか、決めた時間を過ぎてもやってるとか。

最初、午後6時以降は禁止としか決めてなかったんですよ。そうしたら早朝から起きだして朝練の前にやっているのを見つけて。睡眠は大事だから朝もダメだと話して、今の形になりました」

 

ダメなところもあるけど、でも、ダメじゃない

石原さんは、この連載のこれまでのバックナンバーを読んでくださったそう。そしてヨシタケシンスケさんの「自分にないものを子どもにさせようとしても無理」という考え方に、大きく共感したといいます。

石原さん:
「私の母も片付け好きで、よく怒る人なんですよね。そして私がこれまた、言うことを聞かない子どもだった(笑)。親がしてくれたことを私もしてるなぁという認識はあります。

だから、私ができないのに子どもたちにはできるようになってほしいと思うのはお門違い。そのかわり自分で決めたことは絶対やるという気持ちを持ってほしいと思っています。

とか言っているわりには、長男の勉強に関しては私がレールを敷いちゃったところがあるんじゃないかなと、実はいまだにやきもきしてるんですよね……。
子育てって本当におもしろいけど、同時に本当に迷うし、困るし、悩む。そして得意かと聞かれればやっぱり苦手。日々、うろたえてばっかりです」

大きな笑顔でそんなふうに語ってくれた石原さん。自分には親としてダメなところもあるだろうけれど、でも、絶対、ダメじゃない。心からそう思えるのは、自分以上に、そう信じてくれる家族がいるからだといいます。

最後に、長男の善蔵くんがいつか言ってくれたという言葉を、すべてのお母さんへ。
「ママはすぐ怒るからダメだけどさ、ママが笑ってると家の中に太陽があるみたいなんだよ」

(おわり)

【写真】神ノ川智早

 

石原文子

アパレル業界でのマーケティング職を経て、民芸の器の店「工芸喜頓」およびオンラインショップ「日々の暮らし」をオープン。夫と二人三脚で仕事と子育てを切り盛りしつつ、小学生のふたりの子どもたちとの毎日を楽しんでいる。

ライター 片田理恵

編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。


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