【愛すべきマンネリ】第1話:マンネリはコツコツ貯めれば財産になる(山本ふみこさん)

ライター 藤沢あかり

マンネリって、なんでしょうか。

時間がない日の夕飯は、いつも同じようなメニューになってしまう。クローゼットを開けて選ぶのは、ついついワンパターンなコーディネート。掃除に洗濯、ゴミ出しに食事づくり、子どものおもちゃの片づけ……と、今日が昨日をコピーしたかのようなくり返しの毎日に飽き飽き……。

わたしたちが知っている「マンネリ」の顔は、どこかネガティブで後ろ向き。あまり仲良くなれそうにはありません。

かくいうわたしも、同じことのくり返しの日々に、このままじゃいけない、何か変えよう、変わろう。「マンネリ打破!」そう思っている気がします。

そんな中、わたしの目に飛び込んできたのは、随筆家・山本ふみこさんの言葉でした。

「ねえ、皆さん、マンネリでわるいでしょうか。マンネリは新鮮さには欠けるかもしれないけれど、だからこその安定があります」

山本ふみこ公式ブログ『ふみ虫、泣き虫、本の虫』2018年12月11日より

どうやら山本さんは、わたしたちがため息混じりにつぶやくマンネリを味方につけて暮らしている様子。それならば、と早速お話をうかがうことにしました。

 

私たちは迷いながら、揺れながら毎日の家事をしている

山本さんは、家事や子育て、家族とのちょっとした会話や生活の中で見つけたことなどをテーマに綴る随筆家です。

どの本もページをめくると、「たわしで、ごぼうやにんじんの皮をごしごしこすること」だったり、「毎朝のおみおつけのこと」だったり、誰の日常にもありそうな本当にささいなことばかり。でも、不思議と山本さんのフィルターで見渡すと、自分の前に広がる当たり前の景色が、ちょっといとおしくなるのです。

お会いして、開口一番、山本さんはこう話しました。

「生活って、マンネリこそ大事。そういうことをひとつひとつ増やしていくのが自分にとっての技となり、財産となるんだと思うんです」

私たちが邪魔者あつかいしてきたマンネリを、のっけから「財産」と言い切るなんて!

山本さん:
「以前、食育をテーマに講座をした際に、出席者の方たちに台所仕事の悩みを書き出してもらったんです。そうしたら、『メニューがマンネリです』『新鮮さがなくて飽き飽き』って、そんな意見がとても多くて。それも、40代から60代くらいの、主婦歴の長い人たちばかり。

あぁ、台所仕事ってどの世代も、みんな迷いながら、揺れながらやっているんだなぁと改めて感じた出来事でした。でも、マンネリこそが主婦の暮らしには大切だ、ってお伝えしたら、みなさんホッとして、明るい顔で帰っていかれたんですよ」

山本さん:
「レシピって、雑誌やテレビでいろいろ見ては、『あ、これおいしそう!』って思うじゃない? でも、ちょっと考えてみたら、私、去年一年間で自分のものにしたレシピ、つまりつくり続けているものって、ひとつだけだったんですよ。

朝の情報番組で見た、鮭ときのこをフライパンで炒めてチーズをのせるような、簡単なもの。身につけるって、そんなもんなんだなぁって。

でもね、年にひとつのレシピだとしても、それが自分のマンネリとしてたまっていけばすごいこと。それが、財産としてのマンネリだと思うんです」

「それにね、これ見て」と山本さんが開いてくれたのは、料理家・栗原はるみさんの代表作『ごちそうさまが、ききたくて』(文化出版局)。

山本さん:
「わたしがこの中で、これさえあれば、っていうのがこのメニュー、 “そばランチ”。

土鍋で、そばをしゃぶしゃぶしながら好きな薬味で食べるものなんだけど、簡単だし、そばやかき揚げ、三つ葉にきのこ……安いものばかりなのにごちそう感があるでしょう。家族で食べるのにも、お客さんが来たときにもいいし、昼でも夜でも楽しめて、アレンジも自由で……」

▲くったりとした表紙と、付箋や挟み込まれたメモ書きに、長年の「山本家のくり返し」が染み込んでいます。

20年以上大切にしてきたこのレシピ本。付箋の数だけいろいろ試してみたそうで、お気に入りレシピは数あれど、長年ずっとつくり続けているのは、これひとつだけだといいます。でも、そのたったひとつが、山本さんのこれまでのいろんなシーンを助けてくれていました。

 

マンネリが、お守りとなって安心感を連れてくる

さて、こちらは山本家の玄関です。

おじゃました際に、真っ先に目に飛び込んできたのは凛とした白百合の花でした。一年を通して、玄関に飾る花はこれと決めているのだそうで、これもマンネリかもね、と山本さん。

山本さん:
「白百合には浄化作用があると聞いたことがあって、玄関に飾るようになりました。以来、もう10年以上の定番。

もちろん、季節にあわせて楽しむことも、それはそれでいいとおもうの。でも決まっているとすごく楽だし、家に帰ってくるとホッとする。白百合は、この家のお守りのような存在でもあるのかな」

マンネリの生む景色が、お守りのような安心感をくれる。なんだかマンネリも悪くない気がしてきました。

 

定番をベースに、変わったことはやりたいときだけ

山本さん:
「ワンパターンとかマンネリって、ちょっと悪いものに言われがちですよね。

でも、わたしが担当しているエッセイの講座でもいつも言うんですよ。『きっちりワンパターンでいってください!』って。みんな、自分の文章はワンパターンだと悩んでいるから、最初はびっくりするんです。

でも、サザンオールスターズの曲って全部 “サザン” ってわかるでしょう。いつも定番の味わいがあって、もしも全然違う雰囲気になっちゃったら、それは誰も求めていないものになってしまうと思うの」

山本さん:
「家族のために用意している食事も、今日は和食で明日はイタリアン、その次は韓国風……って、名前をつけられるようなかっこいいメニューなんて、少なくともうちの家族は期待していないみたい。

洋服もね、私は着回しってほとんどしないんです。

ひとつの洋服を、いろいろな形で着こなせたらきっとすてきだけれど、本当に心の底からお気に入りで、自信をもって人前に出られる、いわば勝負服って実はひとつな気がする。『あの人また同じ服着てる』って思われそう? 大丈夫、私のことなんてまわりはそんなに見ていないから!(笑)」

山本さん:
「毎日同じような定番があって、自分が飽きたときや、ちょっと何かやりたいなと感じたときにだけ珍しいことをしてみたらいい。もし目新しいことをしょっちゅうやっていたら、その良さがわからないし、失敗の連続になってしまうかも」

お話をうかがううちに、「マンネリ」が、これまで自分が知っていたものとは表情を変えて、じわじわとわたしたちの懐に入り込んでくるのを感じてきました。続く2話目では、毎日の家事が “果てのない世界” に思えた時期もあったという山本さんの、新米主婦時代のお話からスタートします。

(つづく)

【写真】志鎌康平

 


もくじ

 

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山本ふみこ

随筆家。料理や子育て、片づけなど、暮らしにまつわるあらゆることを多方面から「おもしろがり」、独自の視点で日常を照らし出す。武蔵野市教育委員やエッセイ講座の講師としての活動も。著書に『忘れてはいけないことを、書きつけました。』(PHP研究所)、『家のしごと』(ミシマ社)など他多数。

ライター 藤沢あかり

編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。


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