【お坊さんのお悩み相談室】第11回:いろんなものに手をつけてしまい、どれも中途半端になってしまいます
編集スタッフ 松浦
家事や子育て、日々の仕事。私たちのくらしには、小さなことから大きなことまで「悩み」がつきものです。
「お坊さんに聞く、くらしの悩み相談室」は、仕事や子育てなど、日々のモヤモヤを、お坊さんに答えていただく連載。 クラシコムのオフィスに「くらしのお悩み箱」なるものを設置し、スタッフのくらしの悩みを集めました。
お答えいただくのは、著書『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)なども人気の、浅草・湯島山緑泉寺 僧侶の青江覚峰さん。青江さん自身も、3児の父として、子育てにも奮闘中ということもあり、お坊さん目線、そしてひとりの親目線でお話ししていただきます。
常にいろんな「やりたいこと」が頭にあって、ひとつにしぼれず、どれもちょっとずつ手をつけて中途半端になりがちです。青江さんは、イベントを開催したり、本を出版されたり、幅広く活動しつつもちゃんと形にしている気がして……そのスマートなこなし方や気持ちの持ち方を知りたいです。(スタッフK)
私のお話が出たので、今回は僧侶としてではなく、私という個人の立場からお話しさせていただきます。
こんな事を言っては残念に感じるかもしれませんが、私自身は、実は何も形作っていないと普段考えています。
世の中の全てはそもそも中途半端。どの時代を切り取っても、過去から未来へ進んでいく途中でしかありません。映画や音楽のように、明らかなはじめと終りがあるわけではなく、クライマックスがあるとも限りません。長い時間をかけて歴史となったとき、これはこうだった、あれはこうだったとなるのがせいぜいでしょう。
「人間万事塞翁(さいおう)が馬」という言葉があります。
昔、中国で、ある老人の馬が逃げてしまいました。しかしその老人は、数ヶ月たって素晴らしい馬を連れてきました。そこで老人の子がその馬に乗っていたところ、なんと落馬して足を折ってしまいます。ところが、そのおかげで兵役を免れて命が助かったという故事から生まれた言葉です。つまりこれは、物事の幸不幸は転々として予測できるものではないよという意味。
質問者さんの目には、私が様々なことに関わりながら、それらを形に残しているように見えているかもしれません。けれど、一瞬だけを切り取れば結果を残しているように見えても、それが将来どんなかたちに決着していくかは誰にもわかりません。
私の行っている活動はいずれも、多くの人に仏教に親しんでいただきたいという思いが根底にあります。概ねそれらは一定の成果を挙げ、評価を得ているように思われるかもしれません。けれどこの先もしかしたら、後ろ指を指される可能性だってあります。
それでも、「やりたい」「やるべき」と思うことが目の前にある。だから、する。それだけです。あれこれ考えている間に少しでも頭を動かし手足を動かせば、そのうちのいくつかは形になるかもしれない、なるといいなと思っています。スマートなんていうカッコいいものではなく、案外そんな単純なものなんですよ。
青江覚峰
もくじ
僧侶 青江覚峰
浄土真宗東本願寺派 湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー
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