【隣の芝が青くても】前編:人と比べて、落ち込むクセをどうにかしたかった

編集スタッフ 田中

仕事でも、プライベートでも。ちょっと落ち込むことがあると、「ああ、私はもうだめだ! あの人と比べたら全然できてない」と、思ってしまう性格です。

小さな頃から、私・田中が抱えていた、隣の芝が青く見える現象。同僚と比べて仕事のスピードが遅かったり、思い切ってチャレンジしたことの成果がよくなかったりすると気を揉んでしまいます。

大人になり、周りの人だって似たような状況に陥っているし、なんとかやり過ごして生きていると知っても、私は時折自分の内側にこもって、じーっと負の感情が去るのを待つことがありました。

今は「等身大の自分でいいんだよ」と競争一辺倒ではない世相です。しかし、そう言われても一社会人として、ありのままの自分でいることなんて難しい…….と心の中で屁理屈をこねてしまうこともあります。

隣の芝が青く見えたとき、実際みんなはどうしてるんだろう? これから先も続く日々を少しでも明るいものにしたいと迎えた取材当日。

東京・町田市にある「しぜんの国保育園」園長の齋藤美和(さいとう みわ)さんを訪ねました。

 

隣の芝が青くても、ネガティブにならない方法

事前にこのテーマでインタビューのお願いをしたとき、美和さんは、「とっても面白いテーマですね」と反応してくれました。

「面白いってどういうこと?」と疑問に思いつつ、インタビューを始めると出てきたのは予想外の言葉でした。

美和さん:
「このテーマって、ネガティブに聞こえるけれど、実はそうじゃない捉え方もできると思います。

私は隣の芝が青く見えたとき『羨ましい、どこか真似できるところないかな?』と、探してしまう性分です。

たとえば『北欧、暮らしの道具店』のサイトもよく見ていて、ある商品が欲しいと思ったときに、なぜこんなに心が動かされたのか、自分なりに分析してみるんです。

仕事で執筆や発言をするシーンで真似できる要素はないかなと、いいなと感じたキャッチコピーや言葉づかいをメモしています」

この話を聞いて、びっくりしてしまいました。なんて明るい物の見方なんだろう。

私は隣の芝が青く見えたら「だって私とは、ここもあそこも違うから、同じようにはできないよ……」と、その場にうずくまっているだけだったからです。

 

どうして私はこうなの?暗い時期もあった

でも、美和さんだって元からこんな考え方じゃなかったと言います。たとえば、学生のときに経験した大失恋。周りの目にもはっきりわかるほどに落ち込んで、その期間が長すぎて友人たちにからかわれるほどだったのだとか。

そんな美和さんに大学の先生が勧めたのが短歌でした。

大失恋のあと、とにかく何か新しいことをしようと始めた短歌に、思いの丈をぶつけます。

美和さん:
「この時期は短歌にのめりこみました。100首書いたら応募できる賞があったので、そのために作り続けて、小さな賞をもらったことも。

でも、当時通っていたワークショップで美術作家の永井宏さんに短歌を見てもらったときの一言が、けっこうグサッときたんです。

『あなた、もう暗い歌書くのやめなさい』って、言われました。詳しく覚えてないけれど、暗く、切ない、胸がきゅーっとなるような歌ばかり書いていたんだと思います」

 

人と比較して、落ち込んだことも

その後編集者になりたいと、ある編集プロダクションでアルバイトをしていたときも、人と比較して落ち込むことはあったよう。

仕事として割り振られたものだから、当然自分が望んだ分野以外の企画もありました。

美和さん:
「同世代の友人がすてきな企画を実現しているのを見て、嫉妬していました。自分の担当している仕事と比べて『どうして私はこれで、あの子はあれができるの?』と思っていたんです」

自信もなくて、卑屈にもなることもあった。そんな自分が変わる兆しが見えたのが、22歳で夫となる齋藤紘良(こうりょう)さんとの出会いです。

取材を通して出会ったという夫・紘良さんとは、当時からよく話しあったと言います。良いところも直してほしいところも含めて、コミュニケーションを取り、自分ときちんと向き合ってくれる人と出会ったことで自信も徐々についてきて、ジメジメした気持ちはもう手放そうという思いが芽生えてきたそう。

 

モヤっとした気持ちを吐きだせば、前に進める?

とはいえ「ジメジメした気持ち」を手放そうと思っても、そう簡単に切り替えられないこともあります。美和さんは、どうやって暗い気持ちに対峙していたのでしょうか?

美和さん:
「時にはイラっとすることもあるじゃないですか。そうしたら車の中とかで『あー、今日はむかついちゃった』とか『疲れちゃったなー』って独りごとを言ってます(笑)。あと、隣の芝が青いなと思ったら、周囲の人に『あの人って、あんなすごいことができて羨ましい』と、伝えてしまうんです。

言葉にして吐き出すと、自分の感情を認める作業が終わるから、次のことへ向かえる。

家事をして、家族との時間も過ごしたあとで、あの人の何を真似できるかな?、あんなことしてみたいなーと想像します。気持ちを切り替えるきっかけになるんです」

美和さん:
「それから、誰かにアドバイスをもらったらスマートフォンのメモ機能に書き込むようにしています。

仕事のパートナーでもある夫や、人生の先輩である義母、一緒に働く同僚にもらった言葉を夜に見返して、『さてどこから手をつけようか?』と考えるんです。

言われたままにしておくと、気持ちがモヤモヤしたままだったり、悪く捉えたりしてしまうことも、メモに書き留めておくことで、心を冷静な状態に戻せるように思います」

私もメモのように短い日記をつけているけれど、その日起こった出来事だけで、感情を吐き出してはいなかったことに気がつきました。

とは言え、暗い気持ちから抜け出す方法があっても、もう悩まないなんてことはないのでは。悩んだときは、どうしているのでしょう? 後編では、美和さんにその疑問をぶつけてみました。

 

(つづく)

【写真】鍵岡龍門

齋藤美和

しぜんの国保育園smallvillage園長。夫は、社会福祉法人東香会理事長、音楽家の齋藤紘良。夫と10歳の息子の3人暮らし。書籍や雑誌の編集、執筆の仕事を経て、2005年より「しぜんの国保育園」で働きはじめる。また保育実践を重ねていくと共に『保育の友』『遊育』『edu』などで「こども」をテーマにした執筆やインタビューを行う。2015年には初の翻訳絵本『自然のとびら』(アノニマスタジオ)が第5回「街の本屋さんが選んだ絵本大賞」第2位、第7回ようちえん絵本大賞を受賞。山崎小学校スクールボード理事。インスタグラムアカウント:@saitocno_m しぜんの国保育園:https://sizen-no-kuni.net/


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