【エールのかたち】第2話:感謝されたくて、相手のためにしてあげていた頃
編集スタッフ 糸井
「頑張って!応援してる! 」そんな言葉に励まされ、これまでいくつか修羅場をくぐり抜けてきました。
でも今、応援する側になってわかるのが、「相手をサポートするのって、難しい」ということ。応援したいと湧き出る気持ちは、心から純粋なものなのに、相手のためをと思った言動が空振りに終わることもしばしばです……。
そこで、「応援スキルをアップしたい!」と、講談社・漫画編集長の助宗佑美さんにお話を聞く本特集。今回は、助宗さんが漫画編集者の駆け出しだった頃のお話をうかがいます。
ここで改めて、応援につまずく理由を考えてみました。そもそも、なぜ「頑張れ! 」の一言でさえ、誤解されるのが怖い……と言えなくなってしまうのでしょう。
それは、せっかく「あなたのために」と応援したのに「感謝されなかった」と、そう凹んだ経験の蓄積が原因である気がしました。
もっと相手のためになりたい、相手に好かれたい。そんな気持ちを原動力にしているから、私はダメなんだろうか……
そう打ち明けてみると、助宗さんにも、そんな時期があったといいます。
あれ、私ただの便利な人になってる……?
▲7歳の息子、夫と3人で暮らす、助宗さん。
「私、会社に入ったときに、『なんで講談社に受かったんでしょうか? 』って聞いたら『丸顔で道が聞きやすそうだから』って言われて」、と笑いながら話しはじめる助宗さん。そんな駆け出しの20代は暗かったんです、と言います。
助宗さん:
「私自身、仕事ではすごく相手に合わせています。まず先に『相手の望むであろう関係』を考えています。
たとえば編集担当者と友達のように付き合いたい漫画家さんなら、友達のポジションをとり、『ニュースのあのタレントさ、ああじゃない? 』のような他愛のない話を増やします。
一方で、漫画の才能はすさまじいけれど、その分空腹も忘れて倒れるまでのめり込む先生には、『食べてる? 』とお姉さんやお母さんのような連絡をする……という具合に」
助宗さん:
「でも、ともすると私はただの『便利な人』になってしまっているのでは?と疲れてしまったこともありました。
当たり前だけど、相手に合わせ続けていると向こうからは、私の個性が見えない=個性がないと思われるんです。『あの子便利だけど芯がなくてつまんないよね』という声が聞こえたこともあって。
自分のことが相手に伝わる機会がないのだから仕方がないとはいえ、一生懸命サポートしたのに……と愕然としました」
助宗さん:
「今思えば、昔はきっと『相手に合わせにいってあげている』という意識が強かったんです。『ギブしてるんだからテイクしてよ! 』と。若い時は相手のことをもっともっとわかりたかったし、自分の努力も、わかって欲しかったんですきっと」
深夜、友人に長文のLINEを送っては、翌日「昨日はごめんね……」と連絡し直したり、付き合っていた彼に「辛い」と吐き出したりしながら、凹む気分から抜け出していたといいます。
でもそれも、一時しのぎ。誰もこの状況を救えないし、これは誰にも頼れない。ならば考えるべきは、どうしたら自力で自分を楽にできるか? というものでした。
「あ、助宗さんって本当はこういう人なんだ」と知ってもらえたら
助宗さん:
「尽くしすぎることは、意外と相手にとってもよくない。相手がどんどん王様になっちゃうのも当然ですよね。だったら主従関係を解消して、お互いが対等な関係に戻るしかなさそうだなと」
そうして30代になった頃、ようやくたどり着いた方法が、「サポートする相手に、自分の好きを表明する」ということでした。
助宗さん:
「『ただの便利な人』から抜け出すために、私という人間を、好きなものを通して認識してもらおう、と思ったんです。
好きを表明するといっても、些細なもので。『この映画をみてこう思った』『こういうことをされてしょんぼりした』『夫がこういうことを言っててかわいいと思った』みたいなことです。
一見大した情報には見えませんよね。でも、そんな他愛のない感情の切れ端を積み重ねる。すると先方に『助宗さんって、心のうちではこういう価値観を持っている人なんだ』『私の前ではあえて、こういうキャラをとってくれているんだ』と気が付いてもらえる。この人は、便利な透明人間じゃなく、自我を持った人間なんだと」
「私の好き、これです」と、相手に認識してもらう、そのベストな場所になったのが、助宗さんの場合Twitterのようです。
助宗さん:
「フォロワーが凄く多いわけではないけれど、関係している漫画家さんは、きっと私のつぶやきを見ているはず。
そうすると、相手のなかに『あ、助宗さんってこういう人間なんだ』という芽生えが生まれます(しかも直接のやりとりなしで! )」
たとえ相手に感謝されなくても
何かを「ギブしてあげている」という感覚ではなくなったから、そもそも「感謝されたい」と思うことがなくなった、そう助宗さんはいいます。
助宗さん:
「その頃からでしょうか。自分が好きなものはこれだ、という核が自他共にはっきりしたことで、少しくらい誰かから『あの言い方は傷ついたよ』とか『そのやり方間違ってない? 』と否定されても、素直にごめんと思うだけで、不必要に落ち込まなくなりました」
▲部員へのサポートも業務のひとつ。月に1回設定する1on1ミーティングでは、仕事のことから日常生活の些細なことまで気兼ねなく話す場を大切にしているといいます。
助宗さん:
「とはいえ、今でもうっかり、『私の努力をもっとわかってほしい』と思うときもあります。
でも、他者承認をエネルギー源にしちゃうと、自分がきつくなるなと。もともと強くて自信家なわけじゃないので、家で泣きべそをかいている時もありますが、そんな時は『欲しがらない、欲しがらない』と心のなかで唱えています」
それでも、「相手に感謝されたい」という気持ちが抑えきれなくなったときは、「なんのためにこの人をサポートしたいのか」という「目的意識」を見つけ出すことを大切にしているようです。3話目では、そのことについて聞きました。
(つづく)
【写真】鍵岡龍門
もくじ
助宗 佑美
静岡県出身。2006年に、講談社入社。少女漫画の編集者として『東京タラレバ娘』『海月姫』(ともに東村アキコ作)、『コミンカビヨリ』(高須賀由枝作)、『カカフカカ』(石田拓実作)など数々の人気作品を担当。「Kiss」編集部を経て、2019年2月、漫画アプリ「Palcy(パルシィ)」編集長に就任。
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