【台所道具のいろは】鉄フライパン&行平鍋編: どうして良いの?お手入れは大変? 憧れ道具の、ホントのところを聞きました
憧れの鉄フライパンの手入れ方法、焦げや錆びの対処法、サイズ選びのコツやおすすめ料理を聞きました。大事に育てるため、使い始めに行う「油ならし」の簡単なコツも伺いましたよ。また、同じく憧れ道具の雪平鍋のお手入れ方法も。行平鍋を使うメリットや用途、素材別のポイントもお届けします。
編集スタッフ 小林
「ちゃんと大切にできていないかも」なんて、うっすらと後ろめたさを感じながらも、使い続けていた台所道具たち。
けれどその道具たちを、長く、大切に使うことができたなら。もっと自信をもって、毎日の料理を楽しめるかも。
そんな想いから、プロ御用達の料理道具専門店である「釜浅商店」に「台所道具のいろは」について、教えもらう本特集。
私たちは道具の味方です!と台所道具への愛情たっぷりの、スタッフ百合岡さんにお話を伺っています。
第1話では、料理の必需品「包丁」、第2話では相棒の「まな板」のいろはを伺いました。
第3話では、小林にとって憧れの台所道具である「鉄フライパン」と「行平鍋」のいろはについて、教えていただきます。
雑誌で料理家さんが持っているのを見かけて、その佇まいの素敵さに憧れていたけれど、実際のところ「どんな風にいいの?」「お手入れは大変?」など知らないことだらけ。
それぞれの良さや選び方、お手入れに至るまで、まるっと質問してきました。
憧れ道具の代表格
「鉄フライパン」のいろは
鉄フライパンって、何がいいの?
百合岡さん:
「鉄フライパンならではの魅力は『長く使うことでより価値がでる』という点でしょうか。
買ったときの状態が一番良く、だんだん使いづらくなっていく道具もある一方、鉄のフライパンは使えば使うほど、油が馴染んでどんどん使いやすくなっていく道具。そして使い方に慣れることで、錆びにくく、焦げにくくなるコツも掴めるようになります。
使い込んだフライパンはビンテージ品、と言う方もいるほど。穴があくまで、長く使える頼もしい相棒です!」
どんな料理に向いている?
百合岡さん:
「厚みのあるものは重さがあるので、餃子やお好み焼き、チキンソテーなど、フライパンを振るのではなく、食材を置いて焼く料理に向いています。
菜箸やヘラを使ってもコンロの上でガタつきにくいので、炒め物も十分できますよ。
蓄熱性が高いので、フライパンをよく温めてから使えば、ごく弱火でもきちんと食材の中まで火を入れることができますし、一気に仕上げたいときの高温調理も可能。強火でさっと仕上げたい、野菜炒めも美味しくできます」
サイズ選びのポイントは?
百合岡さん:
「鉄フライパンは本当に長く使えるもの。だからこそ『自分の家では何をどのくらい作りたいか』のイメージを明確にしてから、サイズ選びをしたほうがいいと思います。
例えば、毎朝の目玉焼きとウインナーを焼くのに使いたい、チキンソテーを2つ焼きたい、ハンバーグを4つ並べたい、餃子をたくさん焼きたい……など、フライパンに置く食材と量を具体的に考えると、使う時のギャップが少なくていいと思います。
あとは人数。今は2人暮らしだけど人数が増えるかも、平日はあまり料理をしないけど週末に友達が家に来るから4人分は焼ける方がいいな、など生活スタイルによっても変わってくるかと思います」
▲試しに北京鍋を持ってみると「むむっ、フライパンよりも大きいのに軽い!」と驚きました。同じ鉄でも、厚みで重さは結構変わります。
百合岡さん:
「また鉄は鉄でも厚みで重さが全然違うので、ぜひ手にとってみてください。例えばこの北京鍋は振ることを前提にして薄めに作られているので、同じ鉄でも、もっと軽いですよ。
それでも迷うときは、まずはひとつ試しに、メインで使える少し大きめを買って使ってみても。小ぶりのものは、本当に欲しくなったら買い足せばいいですから」
買って最初に行う「油慣らし」って、大変?
▲使うのは捨ててしまう野菜の皮、芯などでOK。ネギの青い部分など香味野菜を入れると、鉄臭さをとる効果も。側面にも野菜をつかって、油をまんべんなく塗り混みます。
百合岡さん:
「油慣らしとは、買ったばかりの鉄フライパンを、お料理しやすい状態に下準備してあげること。基本は買った一番最初のみで大丈夫ですよ。
やり方はとても簡単! 多めの油と野菜くずを、フライパン鍋全体に油がいきわたるようになじませながら、野菜が小さくなるまで5~10分程度炒めるだけ。
油慣らしをしたあとは、使い終わっても基本的に洗剤や重曹を使わず、たわしで水洗い・湯洗いをしてください。馴染ませた油分が落ちてしまうと、サビがでやすくなります。
また鉄フライパンにはあらかじめニスが塗られているものと、そうでないものがあります。
ニスが塗られている場合は、初めにフライパンを空焼きし、ニスを焼き切ってから油慣らし。ニスが塗られていない場合は、洗剤を使ってよく洗い、水気を拭き取った後、油慣らしをしてください」
普段のお手入れは?
百合岡さん:
「普段はこの一連の流れを習慣化するだけで、お手入れは十分です!
(1)料理が出来上がったらすぐに食材を取り出す
(2)なるべく熱いうちにたわしで洗う
(3)そのまま火にかけて水気を飛ばす
食材を入れっぱなしにするとサビの原因になり、熱いうちだと汚れも落ちやすいので、使ったらすぐ洗いましょう。また、水気があるとサビの原因になるので、火にかけるところまでがワンセットです。
ちなみに油は毎回塗らなくても大丈夫。ただ、料理によってはどうしても洗剤を使いたい場合もあると思いますので、そのときは水気を飛ばした後に油を薄くひいてください」
もし「焦げ&錆び」が出てしまったら?
百合岡さん:
「焦げてしまったら『水・お湯につけてしっかりふやかし、たわしで落とす』。これで大体の焦げは落とせます。
それでも落ちない時は、焼き切る、という技もあります。ガスコンロであれば空焚きができるので、焦げたフライパンを火にかけ、汚れを炭化させてから木べらでこすって落としてください。
本当にどうしても落ちない……。となったときのみ、最小限の部分を、金たわしで削りましょう。ただし馴染んだ油ごと削れてしまうので、必ず油慣らしをもう一回するべし!です」
百合岡さん:
「錆びた部分には、クレンザーを少しつけて削ります。包丁と同様、ワインコルクや錆び落とし消しゴムを使うと、最小限で落とせるので便利ですよ。
けれど、まずはできるだけ錆びないように、日々使ってあげてください。
そして錆びてしまってもケアはできますし、削って色が変わってしまったところも、使っていくうちにまた黒く艶が出て、変わっていくもの。
失敗も含めたその思い出ごと、大事に抱えてあげてくださいね」
昔ながらの名品
「行平鍋」のいろは
行平鍋って、何がいいの?
百合岡さん:
「行平鍋とは、いわゆる注ぎ口のついた片手鍋のこと。とにかく使い勝手のいい、万能選手です。
片手で持てるくらいに軽く、注ぎ口がついているという機能の良さに加え、値段もお手頃なものが揃っています。
この表面の模様は本来飾りではなく、表面積を増やし熱伝導率をよくしてくれるもの。手打ちの場合、金属を叩いて引き締めることで、丈夫になるという効果もあります。
ひとつは持っていたい、まず買い揃えたい料理道具とも言えますし、昔から愛されてきた、スタンダードでずっと使える道具です」
どんな料理に向いている?
百合岡さん:
「行平鍋は、まずお湯を沸かすのに便利です。片手で持てるので作業がしやすく、例えば下茹でなどの下ごしらえや、インスタントラーメンを作るなど、ちょっとしたときこそ手に取りやすい。
注ぎ口がついているので、茹でこぼす作業にも向いています。味噌汁やあんかけなどの、汁気があるものを作るのにもぴったり。深さもきちんとあるので、煮物も作れますよ」
買うときに見るべきポイントは?
▲左から時計回りに、アルミ、銅、ステンレス(アルミと銅素材はIHで使用ができません)
百合岡さん:
「素材によって特徴があるので、好みのものを選ぶといいと思います。一般的に行平鍋というと、アルミのものを想像されることが多いですね。
アルミはとにかく軽く、そしてお手入れが楽です。厚みがあるものであれば熱を蓄える力があるので、煮物に向いていますね。
銅はアルミに比べると少し重いのですが、熱伝導率が非常に良く、均一に早く熱が伝わるのでプロの方が使うことも多いです。ただし外側は緑青(ろくしょう)という錆びが出ることも。
ステンレスはこの中だと一番重さがあり、温まるのにも時間がかかります。けれどお手入れが非常に楽で、食器洗浄器やIHの使用が可能です」
▲左が21cm、右が18cm。どちらも軽〜い!
百合岡さん:
「大きさの目安は、ホウレンソウなど葉物を茹でるなら21cm以上、味噌汁づくりやちょっとしたものを茹でるなら18cm以下のものが使い勝手がいいと思います。
素材の違いや大きさだけでなく、手打ちのものか工業製品かによっても値段に幅がありますが、高ければいいかというと、そうとも限りません。自分にとってフィットするものを選ぶことが大切です」
普段のお手入れは何をすればいい?
百合岡さん:
「洗うときは洗剤を使って大丈夫です。特別なケアは必要ありません。
ただアルミの場合、使っていくうちに黒ずみが出るもの。例えばゆで卵やこんにゃくを茹でたり、重曹をつかうと出てきます。
けれど体に害はないので、そのまま気にせず使って大丈夫ですよ。
気になる方はクレンザーでこするか、レモンやりんごの皮を入れて煮立たせるなどの対処法があります。また使いはじめに、お米のとぎ汁を火にかけてあげると、表面に膜ができて予防になります。
ですが、そもそも水に含まれるミネラル分でも黒ずみは出てしまうもの。長く使っていけば自然と変化していくものなので、おおらかに使ってください」
もし焦がしてしまったら……
百合岡さん:
「焦がしてしまったときは鉄フライパンと同じく、煮立たせてふやかし、たわしでこすりましょう。
鍋底からはみ出るくらい、大きな強火を当ててしまうと、持ち手の内側に伝わって、取っ手が傷んでしまうことがあります。そんなときは、作っているメーカーによって形状が異なるので、買ったメーカーに直接問い合わせてくださいね」
「自分には使いこなせなさそうだし、買っても勿体無いかも」なんて思っていたから、憧れはあれど、購入には踏み切れなかった道具たち。
けれど意外とおおらかに使って大丈夫だし、失敗して変化していく様子も含めて愛してあげたらいいよ、と背中を押されたら、少し勇気がでてきました。
自分はどんな料理をつくってみたいのか、楽しく妄想しながら、改めていろいろと見てみたいと思います。
最終話である第4話では、なかなか注目を浴びないけれど、縁の下の力持ちである「キッチンツールたち」のいろはを教えていただきます。
(つづく)
【写真】木村文平
もくじ
釜浅商店
明治41年に合羽橋にて創業。「良い道具には良い理(ことわり)がある」を信念とし、100年以上もの間、プロの料理人や道具と向き合ってきた「良理道具(りょうりどうぐ)」専門店。包丁・まな板・鉄鍋などをはじめとした、数多くのこだわりの道具を取り扱っている。2018年5月にはパリのサン=ジェルマンにも店舗を、2019年10月にはサンフランシスコにインショップもオープンし、海外でも愛されている。
営業時間:10:00~17:30
定休日:年中無休(年末年始を除く)
Web:http://www.kama-asa.co.jp/
住所:東京都台東区松が谷2-24-1
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