【台所道具のいろは】包丁編: 毎日のケアから、研ぎ方まで。知りたかったお手入れをプロに聞きました!

包丁をシャープナーや研石を使って研ぐ時のコツ、錆びた時の対処法、日々のお手入れのコツについて、料理道具専門店「釜浅商店」に聞きました。

編集スタッフ 小林

料理は好きなのですが、その道具のお手入れには、正直なところ自信がありません。

まな板の傷が黒ずんでいたり、切れない包丁を見過ごしたままにしていたり……。ちゃんとしなきゃと思いながらも、そのままにしている自分に、うっすらとした罪悪感を感じていました。

けれど、できることなら、やっぱり長く大切に使いたい。そして何より道具に自信を持てたなら、もっと気持ちよく、毎日の台所仕事に向き合えるような気がして。

▲お話を伺うのは、目をキラキラさせながらお話してくださる姿が印象的な、スタッフの百合岡さんです。

そんな想いから今回の特集では、合羽橋にある老舗の料理道具専門店「釜浅商店」に伺い、「台所道具のいろは」について教えてもらいました。

第1話では、台所道具の代名詞「包丁」のいろはについてお聞きしています。

小林が自宅で長年使っている包丁は、一般的なステンレスの三徳包丁。なんとなく買って、なんとなく使ってきたけれど、本当のところ、お手入れはどうしたらいいのでしょうか。

 

毎日できる、簡単なお手入れ方法を教えてください!

──まずはズボラな私でも「これならできる!」という、日々のお手入れ方法を知りたいです。

百合岡さん:
「とにかく錆びさせないことが大事です! なので毎日できることは、『洗ったらすぐに、さっと水気を拭いてしまうこと』。一連の流れをセットにして、癖をつけましょう。

洗った後水気をきったとしても、洗いかごに置いておくと、食器とぶつかって欠けたり、水が跳ねて錆びの原因になることもあります。

まずは洗う、ふく、しまう。慣れれば意外と負担に感じなくなりますよ。

また、シンク下は湿気がたまりやすい場所なので、包丁刺しに入れてるだけで錆びてしまうことがあります。

滅多に使わない包丁は、湿気の少ない所にしまうようにしてくださいね。私はキッチンの引き出しに、買ったときの箱をセットして、そこにしまっています。

くるむときはラップだと湿気がこもってしまうので、新聞紙をおすすめしています」

 

もし錆びてしまったら、どうすればいい?

▲一番右は、サビ消しゴム/貝印株式会社

──恥ずかしながらお見せしますと、これは私が自宅で長年使っている包丁なのですが、茶色い部分は「錆び」でしょうか?

百合岡さん:
「これは錆びではなく、野菜などから出る『アク汚れ』でしょう。長年使っていると出てくるものですね。

このアク汚れも錆びも、落とし方は一緒で『ワインコルクに、クレンザーを少しつけて磨く』。これで簡単に落とすことができますよ。

ほかにも市販品で『サビ落し用の消しゴム』もあります。これは水だけで落とせて、フライパンの錆びなどにも使えるので便利ですよ」

▲洗っても落ちなかった汚れが、みるみるキレイに!

百合岡さん:
「ただし鋼(はがね)の包丁の場合、『赤い錆び』は落とした方がいいのですが、長年使うことで表面にできる『黒い錆び』は皮膜効果があるため、落とさない方がいいもの。

不安なときは、購入した店舗に問い合わせてみてくださいね」

 

やっぱり、毎日研がなきゃダメですか?

──研ぐのが大切だとは思うのですが、ちゃんとやらなきゃと思うとハードル高く感じてしまって。やはり毎日、使った後は研いだ方がいいのでしょうか?

百合岡さん:
「研ぐというのは、すなわち刃を削ること。だから研げば研ぐほど、どんどん包丁は減ってしまうので、それは勿体無い! なので毎日研がなくても大丈夫です。

ただ、いい包丁であればあるほど、研ぎながら長く使うことを前提につくられているものが多いので、切れ味が落ちてきたな、と思ったときや、欠けてしまったときに研ぐようにしてください」

──切れ味が落ちてきたとき、というのに気づける自信がありません……。

百合岡さん:
「たとえば『皮の薄い野菜、トマトやナスに、すっと刃が入らなくなったとき』など、自分なりの目安を持っておくといいですよ。

料理人さんだと少なくとも1ヶ月に1回、わたしの場合は半年に1回、研いでいると思います。

ただ、切る食材や包丁を使う頻度、まな板の種類などによって変わるので、こればかりは人それぞれ。

それでも気付いたときに研いでいれば、1回の研ぎ時間も短くなるので、結果的には楽になりますよ」

 

市販のシャープナーでうまく研げているか、不安です

──我が家では、この市販のロールシャープナーを使っているのですが、これってちゃんと研げているのかな?と不安で。

百合岡さん:
「普段のお手入れは、これで全然OKですよ。シャープナーを使って研ぐときは、端から端まで、全体を研ぎましょう。

先端や根元を意識しながら、大体10回ほど研いでください。シャープナーによって濡らしてから使うものなどの違いもあるので、取扱説明書をよく読んでくださいね。

終わったらしっかり洗って、水気を拭き取ってから、しまいましょう」

▲ちゃんと意識をしないと、意外と先端まで研げないものだな〜と実感しました

百合岡さん:
「ただシャープナーには弱点もあって。中をよく見るとわかるのですが、研ぐ部分にはタイヤが二つありますよね。

シャープナーで研ぐとき実際に刃が当たるのは、この溝にはまる、ほんの数ミリの部分だけ。

使い始めたばかりの包丁であれば刃が鋭角だから研げますが、使っていくうちに磨耗して刃が丸くなってくると、この溝の奥まで刃が届かず、研げなくなってくるんです」

百合岡さん:
「だからシャープナーは、あくまで簡易的なもの。包丁全体が研げないので、切れ味の回復力には限界がきます。

きちんとケアをするためにも、切れ味が戻らなくなってきたら、砥石(といし)で研いだほうがいいですね」

 

自分でも「砥石」で研げますか?

▲奥から順に、荒砥・中砥・仕上げ砥。それぞれ手触りが全然違いましたよ!

百合岡さん:
「研ぎに出すのも選択肢のひとつですが、砥石がひとつあれば自分でもお手入れができますよ。

砥石の種類ですが、大まかにわけると3つあります。

荒砥(あらと)一番削る力が大きい。包丁が欠けたときなどに使う
中砥(なかと)切れ味が落ちたときや、荒砥のあとに使う
仕上げ砥(しあげと)切り口をさらに美しくしたいときや、仕上げに使う

一般的な家庭で使うものであれば、『中砥』ひとつで十分。お店では中砥ください!と言えば伝わると思います」

 


砥石で包丁を研いでみよう!


(準備)はじめに砥石を30分ほど水につけておく

[1]固く絞った濡れ布巾の上に砥石を置く
[2]包丁を砥石に対して斜めに置く
[3]砥石と包丁の間に10〜15度ほど角度をつける(10円玉を2枚分挟むくらい)
[4]そのまま力を入れずに上下に動かし、表と裏それぞれ同じ回数を研ぐ
[5]使い終わった砥石はよく洗い、1週間くらい陰干し

百合岡さん:
「ポイントは一回で全部の面を研ごうとしないこと。先端・真ん中・下部分の3箇所くらいに分けて研いでください。

また、研いでいくと黒い汁が出てきますが、これは砥石の粉と削れた金属が混ざったもの。研磨剤の役割を果たすので、流さずにそのまま研ぐと、早くキレイに仕上がりますよ。

研ぎ終わった包丁にはバリという削れた金属のカスがくっつくので、新聞紙などにこすってバリをとったら、よく洗って完成です!」

百合岡さん:
「使い終わった砥石は、よく洗って、1週間くらい陰干ししておきましょう。しっかり乾かさないとカビが生えてしまいます。

また、砥石は使っていくうちに、だんだん削れて真ん中が凹んできますが、そのまま研ぐと包丁に研ぎムラができてしまいます。定期的に表面を硬いもので削って、平らな状態をキープするようにしてください。コンクリートブロックなどでも大丈夫です」

 

包丁を新調するときのコツって?

──お手入れの方法を知ると、改めて、しっかりと選んだ包丁を手に入れたい気持ちも湧いてきました。新しく包丁を買うときに、大切にすべきポイントがあれば教えてください!

百合岡さん:
「ポイントは以下の3つです。

1:実際に持ってみる
2:研げるものを選ぶ
3:メンテナンスをしてもらえるか確認する

1つめについて。重さ・握りやすさ・大きさなどは、包丁によってさまざま。できるかぎり手にとってみて、自分の手に合うと思えるものを選びましょう。

2つめについて。材質によって、研げないもの、研げてもすごく時間がかかるものなどあります。もし長く使えるものが欲しいのなら、研げるものを。ただ見た目だけでは判断できないので、相談しながら買うのが安心です。

3つめについて。ここまでお話してきたように、包丁にとって、メンテナンスは切っても切れない関係。もし欠けてしまったり、錆びてしまったりしても、メンテナンスをしてもらえるところであれば相談ができます。自分で研ぐのが大変だと感じる方でも、しっかりケアができるのでオススメです」

第1話では、普段何気なく手に取っていた包丁のことを、しっかり基礎から教えていただきました。

とにかく研いでいないことに後ろめたさを感じていましたが、毎日研ぐ必要がないことがわかって、ちょっとだけ安心しました。けれど、まずは第一段階の「きちんと洗って、ふいて、すぐしまう」習慣をしっかり身につけたいと思います……!

第2話では包丁の相棒である「まな板のいろは」について、お話を伺っていきます。

(つづく)

【写真】木村文平

 


もくじ

 

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釜浅商店

明治41年に合羽橋にて創業。「良い道具には良い理(ことわり)がある」を信念とし、100年以上もの間、プロの料理人や道具と向き合ってきた「良理道具(りょうりどうぐ)」専門店。包丁・まな板・鉄鍋などをはじめとした、数多くのこだわりの道具を取り扱っている。2018年5月にはパリのサン=ジェルマンにも店舗を、2019年10月にはサンフランシスコにインショップもオープンし、海外でも愛されている。

営業時間:10:00~17:30
定休日:年中無休(年末年始を除く)
Web:http://www.kama-asa.co.jp/
住所:東京都台東区松が谷2-24-1


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