【愛すべきマンネリ】前編:仕事ってマンネリなものだから(うつわ作家・志村和晃さん)
ライター 藤沢あかり
夕飯のメニューも、週末のお出かけ先も、自分のメイクやファッションも。なんだか、いつも同じでつまらなく感じてしまうこと、ありませんか?
とりわけ、わたしが「マンネリ」を実感するのはSNSを見ているときかもしれません。色とりどりの食卓に、旬のお出かけスポット、個性的でハッとするようなカラーのリップ。魅力たっぷりのトピックスの連なりに、「あぁこのままじゃいけない、わたしっていつも同じだな」と思うこともあるのです。
ふと寄せるそんな気持ちを、わたしたちは「マンネリ」と呼んだりします。そう、マンネリは、できることなら避けたい、遠ざけたい、そんな存在かもしれません。
でも、変化の多い時代を生きながらも、変わらず自分に添い続けているものだけが、「マンネリ」となる。そこにはきっと、ポジティブな理由があるはずです。
日々、同じ作業と向き合い、それを生業とする人もたくさんいます。ものづくりにたずさわる人たちも、そのひとり。彼らの日常に、「マンネリ」がよぎることはあるのでしょうか。
今回は、千葉・館山で暮らしのうつわをつくる、志村和晃(しむら かずあき)さんにお話をうかがいました。
毎日同じことをする。仕事ってそういうものかもしれない
朝8時半、ラジオのスイッチとともに、志村さんの仕事が始まります。
工房は自宅からもほど近い、自身が生まれ育った実家の一角。いずれは自宅の敷地内に工房と窯を移転させ、職住一体とするのが目標なんだそう。
とはいえ、今は車で走る10分の通勤時間が、ほどよくオンとオフを切り替える時間にもなっているといいます。
この日は素焼きを終えたお皿を前に、絵付の作業の真っ最中。
志村さんの手がけるうつわには、いくつかの作風がありますが、この染付もそのひとつです。
▲染付の藍色の文様は、呉須(ごす)と呼ばれるコバルトが入った染料を水に溶いて絵を描きます。鉛筆書きのラフを頼りに、筆先に気持ちをのせていく作業は、見ているこちらも思わず息を止めてしまいそうな凛とした空気。
このあと透明の釉薬をかけて焼き上げると、赤茶色だった絵が、上にあるようなやわらかな藍色に変わります。線の濃淡や強弱が一層際立ち、ひとつひとつ異なる景色となるのも味わいです。
毎日ここで、朝の8時半から夕方は18時頃まで。志村さんは、ずっとひとりでうつわと向き合い作業を進めています。納品時期や個展などが近づくと、夕飯を食べに一度自宅へ帰ったあと、また工房に戻って作業をするという日も少なくありません。
志村さん:
「毎日同じことを繰り返していますが、実は、マンネリってあまり感じていないんですよ。むしろ、仕事ってそういうものだなと思っている気がするんです」
自分の仕事は、日々淡々と同じ作業を繰り返し、うつわを作り続けること。そこには「マンネリ」や「飽き」といった思いとはかけはなれた、志村さんの覚悟のような軸がありました。
▲お客さんからの要望で生まれたというどんぶり鉢が絵付けを待って並んでいます。
芸術家や陶芸家より、毎日の「食器」を作る人でいたい
志村さん:
「そもそも、陶芸家やうつわ作家の作品に心を打たれて今の道をこころざしたわけではないんです。僕は陶芸家ではないので、日々のお皿やお茶碗、あくまでも『食器』を作っているという気持ちの方が強いです。
小さいころから絵を描いたり何かを作ったりすることが好きで、二十歳でデザイン系の専門学校を出たあとは、特に何をするでもなくバイトをしながら、気ままに過ごしていました。
そんな中で、母が病気で他界したんです。25歳のときでした」
実家の千葉を離れ、東京であてもなく過ごしていた志村さん。初めて、自分の人生と真剣に向き合う覚悟ができました。
自分はこのままでいいのかな、本当にやりたいことってなんだろう、と。
志村さん:
「そのときに浮かんだ答えが、陶芸だったんです。
専門学校ではガラスや木工、金工などひと通りを広く経験させてもらいましたが、一番楽しいと感じたのが陶芸の授業でした。陶芸を仕事にしてみたい。そう思って、専門的に学べる京都の学校に入りました。
京焼きの職人を育てるための学校でしたから、生地(土で形をつくった焼成前の状態)づくりも、いちから叩き込まれました。ミリ単位で狂いのない同じ大きさに揃えることを求められるんです。それを時間内に何十個もつくる、というようなこともやりましたよ」
手指にしみ込むほどに、くりかえし同じものをつくり続ける。まさに、マンネリにならないのですか?と聞きたくなるような作業ですが、志村さんの答えは違っていました。
志村さん:
「職人って、ずっと同じものをつくり続けますよね。そもそも仕事ってそういうものだと思っているとお話しましたが、それはこのときの思いがあるからだと思います。もちろん手で作っているものは、同じように見えてひとつひとつ違うというのもありますが、僕にとっては同じことをずっと繰り返していくことが、仕事なのかもしれません」
▲トンボと呼ばれる、ろくろをひくときにうつわの大きさを揃えるための道具。うつわの種類や大きさによって違うため、並んだ数は志村さんのこれまでが積み重なった軌跡でもあります。
マンネリを経て見えた、新しい可能性
京都で基礎を学び、同じ大きさ、かたちの揃ったものをつくる技術を身につけた志村さんに、その後、転機が訪れました。縁あって、石川県加賀市で九谷焼きを手がける陶芸家・正木春蔵(まさき しゅんぞう)さんの工房で働き始めることになったのです。
志村さん:
「うつわは個体差があっていい、というのが正木さんの考えでした。
磁器に染付や色絵を施すのが正木さんの作風ですが、その線は均一でなくていいと、そこで教えてもらいました。筆で描く線はかすれたり、揺らいだりします。形の揃った美しさも表現のひとつですが、それは言いかえたら機械でつくるのと変わらないとも言えます。個体差があるからこそ、手でつくるよさがあると知りました。うつわ作家としての興味が芽生えたのは、このときかもしれませんね」
精巧なろくろ技術に、情感ある筆致が織りなす志村さんの個性は、こうして花開いていきました。
▲左は、割れたうつわの破片を集めたパネル。3・11の震災で益子が甚大な被害を受けた際に、作家たちが立ち上げたグループ「リビルド益子」の活動のひとつ。
その後、志村さんは場所を移し益子でも修行を重ね、独立の道を歩みました。
後編では、工房からご自宅へと場所を変えて、さらにお話しをうかがいます。
独立し、さらにうつわと深く向き合う中で、行き詰まったり、単調に感じることはないのでしょうか。マンネリをマンネリと考えず、どんと構えて製作に向き合う志村さんの日々に、スパイスとなっているものも、実はあるようです。趣味でもありうつわの世界とは切っても切れない、料理の話についてもうかがいます。
(つづく)
【写真】神ノ川智早
もくじ
志村和晃
皿や茶碗など、暮らしのうつわを手がける。京都、石川・加賀、栃木・益子で修行を重ね、現在は故郷の千葉・館山に工房を構えて作陶。各地で学んだ特色を生かし、染付磁器や粉引の土物、鮮やかな色絵など、幅広い作風を持ち味に、食卓に豊かな時間を提案し続けている。
ライター 藤沢あかり
編集者、ライター。大学卒業後、文房具や雑貨の商品企画を経て、雑貨・インテリア誌の編集者に。出産を機にフリーとなり、現在はインテリアや雑貨、子育てや食など暮らしまわりの記事やインタビューを中心に編集・執筆を手がける。
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