【わたしの転機】第2話:今までやってきたことで、無駄なことはひとつもない。(お弁当uzura・前田潤子さん)

ライター 長谷川未緒

ターニングポイント=転機とは、生き方が変わるきっかけになった出来事のこと。このシリーズでは、そのひとの「いま」につながる転機について、伺います。

今回ご登場いただくのは、東京・代々木上原で「uzura(うずら)」というお弁当屋さんを営む、前田潤子(まえだじゅんこ)さんです。

第1話では、「愛していた」と語るジュエリーブランドのPRを辞め、お弁当屋さんを開こうと決意するまでを伺いました。続く第2話では、いよいよオープンしてからの赤字続きの日々、そして売り切れ続出になった現在と、これからについて、語っていただきます。

 

フレンチ料理店を「間借り」してオープン。最初は失敗の連続だった

お弁当屋さんを始めてみたいと思ったものの、何から手をつけていいのかわからなかったという前田さん。まずは、お弁当屋さん向けの物件探しをはじめました。

前田さん:
「好きだった代々木上原エリアで不動産屋さんを巡ったのですが、お家賃が高くて。

無理かなぁと悩んでいたときに、友人が『夜だけ営業しているお店に、ランチタイムを借してもらったら?』と言ってくれたんです。しかも、私もよく通っていた店に、話を通してくれました」

代々木上原で30年も続くフレンチのお店を、朝から昼のあいだ、手頃な家賃で「間借り」させてもらえることになったのでした。

前田さんがお弁当屋「uzura」をオープンしたのは、2013年の9月30日。中途半端な日付けだなと伺ってみると……。

前田さん:
「会社を辞めたあと、スペインにデザイナーを訪ねて旅したり、のんびりしていたんです。

そうしたら間借りする店のオーナーに、『やる気あるの?』と言われちゃったので、『あります!今週からはじめます!』と言って、オープンしました(笑)」

1週間で道具やお弁当箱などの資材を揃え、だしぬけにスタートを切ったものの、最初は失敗の連続でした。

 

「お弁当いかがですか」の声かけもむなしく

前田さん:
「お弁当をひとつふたつ作るのと、販売用にたくさん作るのはまったく違いました。おかずが足りなくて隙間が空いてしまいそれを埋めるのに必死になったり、逆に作りすぎて余らせてしまったり。

それに、精一杯がんばって、最初は15個くらいからスタートしたものの、あまり売れなくて。

立地がいいので人通りはあるんですけれど、なかなかお店の中にまで入ってきてくれるひとはいませんでした。友人とふたりで、お店の外で『お弁当いかがですか〜』って、道行く人に声をかけて販売を続ける日々でした。友人は無償でほぼ毎日手伝ってくれたんですよ」

売れ残っていることを聞きつけた元同僚が、買いにきてくれることもありました。

それでも余ってしまい、家に持ち帰った分は、同居している父親が買ってくれたと言います。

前田さん:
「父は、『がんばっているのを知っているから、ただでは食べられないよ』と言ってくれて。

私が朝4時起きで、父の食事の支度や家事を済ませ、6時半には家を出る生活を送っているのをわかっていて、新しく始めたことを、応援してくれました」

▲毎日15キロの野菜を入れて担いでいるリュックサック。

お弁当が売れないことに加え、心が折れそうになる出来事は、ほかにもありました。

前田さん:
「毎朝、お弁当数十個分なので15キロくらいになる採れたて野菜を、山登り用のリュックサックに詰めて、店まで運びます。

通勤電車で神奈川の自宅から都内に向かうので、『遊びに行くなら、通勤時間に乗るな』と罵声を浴びせられたり。

リュックサックごと扉の外に押し出されたことも、1度や2度ではありませんでした」

 

応援してくれる周りの期待に応えたい

赤字続きで貯金を取り崩す生活に加え、くじけそうな目にも逢いながら、やめようと思ったことは、なかったのでしょうか。

前田さん:
「途中で諦めるのはいやだったし、職人さんも10年続けて一人前というけれど、続けることが大切だと思っていました。父からも、3ヶ月続いたら半年続けられる、半年続いたら1年続けられるから、がんばれと言われていましたし。

間借りさせてもらったり、友人に手伝ってもらったりと、周りも巻き込んで始めたことだったから、応援してくれるひとの期待に答えたい、という気持ちもありました。

それに、お客様と話せて楽しかったですし、大変なことも一晩寝ると忘れちゃうんですよ(笑)」

粘り強く続けているうちに、徐々にお客さんが増えていきました。前職で培ったコミュニケーション力も役に立ちました。

前田さん:
「お客様の好みなどをそれとなく伺うようにして、好物のおかずのときには事前に連絡したり、お子さんがいる方には子どもが喜ぶレシピをお伝えしたり。

ジュエリーの販売やPRの経験が、お弁当屋さんに活かせるなんて考えもしませんでしたが、人生に無駄なことって、何ひとつないんだなと思います」

そうして赤字が黒字に転じたのは、オープンから1年半以上経ったころでした。

 

蓋を開けた瞬間のお客さんの顔を思い浮かべながら

▲ニンジンサラダは味を変えて、必ず入れるおかず。「アンチエイジングにいいので、おすすめなんです」と前田さん。

「uzura」は今年で7年目を迎えました。

あらためて、ジュエリーのPRという華やかなお仕事から転身したお弁当屋さんの魅力って、何なのでしょうか。

前田さん:
「買ってくれた人が蓋を開けた瞬間の顔を想像しながら、つくるんですよ。喜んでくれたらいいな、って。子どもは正直だから、『人参が嫌いなのに、uzuraさんのお弁当のおかずはおいしいって言って食べる』と聞くと、本当にうれしいです。

手を尽くせば、結果はついてくることもわかりました。楽しみながら頑張って働いて、作れば作るだけ売り上げにつながるのは、会社員時代には味わったことのないおもしろさでもあります」

▲前田さん愛用の調理道具。左からごま炒り器、菜切り包丁、ペティナイフ、木ベラ。

最近は、ギャラリーなどで行われるイベントで、ワンプレートを提供する機会も増えています。

前田さん:
「いつもはお弁当箱という限られたスペースにおかずを詰めているけれど、お皿の余白が料理を引き立ててくれるというおもしろさもあったり、勉強になります。

これから洋野菜のレパートリーも増やしたいし、ビーガン(卵や乳製品も摂らない菜食)用のお弁当もつくりたいし、やりたいことが次々と思い浮かんで、時間が足りないですね」

睡眠時間が2、3時間という日もあるくらい、多忙な日々を送る前田さん。年齢を重ねても、ずっとお弁当屋さんは続けながら、アトリエを構えて料理教室を開きたいなど、まだまだ目標がある様子です。

自分より少し年上の女性の、好きなことに向き合い、一度はじめたことを簡単には諦めない姿勢に、学ぶことがたくさんありました。

40代で新しい道を歩み始めた前田さんの話を伺い、明るい希望も感じることができました。

(おわり)

【写真】神ノ川智早

 


もくじ

 

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前田潤子

料理家。幼少期より大好きな台所で祖母や母の隣に立ち、丁寧で愛情のこもった料理を覚える。セツ・モードセミナーを経て、ジュエリーブランドの広報として働く。退職後、人の笑顔を見られる仕事をしたいと一念発起し、2013年代々木上原に手作りお弁当「uzura」を開店。新鮮かつ旬の食材にこだわり、彩り豊かで滋味に富んだ日替わりの「野菜いっぱいお弁当」を提供する。毎回、蓋を開けるのが楽しみなお弁当として評判。ファンが多い手作りドレッシングはセレクトショップのイベントなどで出品中。スケジュールなどは、インスタグラム@uzura01で。

 

ライター 長谷川未緒

東京外国語大学卒。出版社勤務を経て、フリーランスに。おもに、暮らしまわりの雑誌、書籍のほか、児童書の編集・執筆を手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

 


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