【佐藤友子×土門蘭の『なんとか暮らしてます』】インテリア編〈後編〉:私にとっての「部屋」が、あなたにとっての「原稿用紙」。
文筆家 土門蘭
常にちょっとした生きづらさを抱えながらも「なんとか暮らして」いる、『北欧、暮らしの道具店』店長の佐藤さんと、小説家である私。
『なんとか暮らしてます』はそんなふたりが「暮らし」にまつわるさまざまなテーマについて語り合う対談です。
今回のテーマはインテリア。
前編では、インテリアが大の苦手である私が、インテリアを仕事にしている佐藤さんに、まずどのように自分の空間と向き合ったら良いのかを教えてもらいました。
後編は「自分のシンボル」を見つけたあとについてです。どのように空間を作っていくか、センスはどうやって身につけるのか……。その方法論を話しているうちに、お互いの「作品」の共通点も見えてきました。
あなたのお部屋は、どんなインテリアですか?
読みながら、一緒に振り返ってみていただけると嬉しいです。
壊れたら悲しくなるほど好きなものを、まずは買ってみる
土門:佐藤さんの話を聞いて、私は物を買うときに、「好き」とか「心地よい」よりも「汚れてもいい」「壊れてもいい」を基準に選んでいるかもしれないなと気づきました。自分が好きだと思うよりも、使い勝手を重視しているのかな。雑に扱っても構わないものっていうか……すみません、言ってて悲しくなってきてしまったんですけど……。
佐藤:(笑)。お子さんがまだ小さいからっていうのもあるのかも。下の子3歳でしたよね? うちはもう小3ですから、壊されたり汚されたりっていうのがなくなったし。
土門:佐藤さんの部屋には、雑に扱えるものがほとんどないように見えます。
佐藤:そんなことないですよ、ありますあります。だけど壊れたら悲しい物も、言われてみればいっぱいありますね。
とは言え、選び取るもの全部が「雑に扱っても構わないもの」ってことはないんじゃないですか? 土門さんにとっても、自分が心から「好きだ!」って思って選び取るものがあると思うけど。
土門:そうですねえ……。あっ、化粧品とか下着とか、肌に直接触れるものは選び取っているような気がします。特に高価なものでもないんですけど、肌が割と敏感な方なので、信用できる物しか買わないですね。
でもインテリアってなると、急に手に負えないように感じるんです。私は肌に触れるものまではなんとか選べるけど、インテリアって広いじゃないですか。自分の肌から離れて、急に話が大きくなる。それを統一して創出できるってすごいなって思うんですよね。創造の神みたい。友子神。
佐藤:あはははは! 友子神!
土門:もう、それくらいの認識でいます。
佐藤:ははあ、そういうことを考えているんですね。インテリアは自分から離れているものなんだ。
土門:私が管理できるのはデスクトップまでですね。近いし、平面だし、でもそれ以上行くと手に負えない。だって3Dじゃないですか。
佐藤:確かに3Dだけど(笑)。
土門:だからずっと何から手をつけたらいいのかなって思っていたんですが、さっき佐藤さんの話を聞いて、小物から始めようと思いました。食器とか雑貨とか。「これだ!」と思うものを探してみようと思います。
佐藤:そうですね。さっきの土門さんの言葉を借りれば、「壊れたらすごく悲しい」って思うほど好きなものを、まずは勇気を出して買ってみるところからだと思います。たとえ壊れても、後悔しなくていいんですよ。勇気を出して買って、家のなかに迎え入れたっていうのが第一歩として残れば。それが小さなスタートだと思う。
土門:自分との対話の始まりなんですね。
佐藤:そうそう。
自分のテーマに変換して真似をしてみよう
佐藤:インテリアが円的な考え方だとすると、それが点が生まれる瞬間、「土門蘭のシンボル」ができたということです。その中心点を軸にして、円を描くのが理想的。最終的にはその円が、自分が身を置く「家」になっていきます。
じゃあどういうふうに円を描くのか。それが見えたら、中心点から進むべき方向がわかるんですけど……。
土門:はい、はい。私には、それがまったくわからないんです。
佐藤:その説明が、結構難しいんですよね。私自身も手繰り寄せるようにやってきたので。
でも、次は大きい面を構成する部分の好みを、点から目線を飛ばして考えてみるといいと思います。壁、床、家具、テキスタイルなんかですよね。
たとえば家具の色をとっても、自分はモノトーンが好きなのか、カラフルなのが好きなのか。素材をとっても、ウール系が好きなのか、リネン系が好きなのか。カーテンひとつでも、柄があるのが好きなのか、無地がいいのか……。
家って、大きな面積を有しているもので印象ががらっと変わるので、次を考えるとしたらこれじゃないでしょうか。
ちなみに土門さん家は、今どんな感じなんですか?
土門:白い壁に、ナチュラル系のフローリングですね。家具は、無印良品の濃い茶色の大きな棚を、どんと壁沿いに置いています。ダイニングテーブルも濃い茶色で、脚は黒の鉄。あとは黒い革張りのソファが置いてあります。
佐藤:なるほどー。割と家具の色は渋めなんですね。結構、モダン系が好きなのかな。ナチュラル系よりも、大人っぽいっていうか。うちはナチュラル系だから、やっぱりさっきうちが好きって言ってくれたのも嘘なんじゃないですか?
土門:いやいや、嘘じゃないですよ!(笑)
佐藤:私は白の家具が好きなんです。でもそれだと甘くなりすぎてしまうから、濃い色を差し色にしたりしますね。
土門:私は家具を選ぶとき、濃い色を選びがちな気がします。何でだろう、落ち着くからかな……。
佐藤:土門さんはダーク系の落ち着いたインテリアが好き。だとすると、それを貫けばいいんじゃないですかね。そのテーマを崩さないで、「いいな」と思うインテリアを見て真似ていったらいいと思う。
土門:なるほど。今わかったんですけど、私はたとえば佐藤さんの家に行ったら行ったで、「ああ、おしゃれな部屋っていうのはこういう白い棚を置くんだな」って思ってしまいがちだったんですよ。それを鵜呑みにするから、テーマがブレブレになってしまっていたんですね。
佐藤:そうそう。土門さんだって、実はちゃんと統一性をもって選んでいるんです。その軸を自覚することがまず大事。
だから「佐藤さんの家に間接照明があったな、うちも欲しいな」と思っても、うちと同じ間接照明を買ったらだめなんです。自分の家のテーマに合う間接照明を探して買うべき。たとえば土門さんだったら、脚が黒くて自立するやつ、とかね。自分のテーマに一度変換して真似をするっていうのが、おすすめです。
土門:同じアイテムでも、自分のテーマに沿ったものを選ぶってことですね。
佐藤:はい。で、中心点ができて、大きな面積をとる家具のテーマ性が見えたら、あとはその基本形に何を足して何を引いていけばいいのか、計算するだけだと思います。
土門:計算……。
佐藤:たとえば「このカゴ、あの家具に合わないな」って思ったら処分していく。そういうノイズを省いていくのが、引き算ですよね。一回そのノイズをすべて省き終わって、きれいなベースができたら、間接照明をつけてみようとか、植物を置いてみようとか、絵を飾ってみようとか足し算していくんです。
それらを一通りやり終わると、すごい大満足できる空間になっていると思いますよ。夜、仕事や家事が終わったあとに、自分の家のソファでお酒でも飲みながら悦に浸れる日が必ず来ます。
土門:なんだか、私もいつかそうなれそうな気がしてきました。もう、今すぐにでも帰って、できることからやりたい!(笑)
センスは想像力で養われる
土門:佐藤さんは読者さんからもよくインテリアの質問をされると思うんですが、その中ではどういう質問が多いですか?
佐藤:「どうやったらセンスが良くなりますか?」とかでしょうか。私もまだまだ修行中なので、同じように悩むひとりなのですが……。
土門:ああ、それは私も聞きたいです。どう答えていらっしゃるんですか?
佐藤:私は、センスって「想像力」だと思っています。だからそれを磨くには、知識と経験を積んでいくのがいいんじゃないかなって。
土門:センスは「想像力」ですか。
佐藤:そう。想像力のたくましさがセンスだと思うんですね。たとえば「これを言うと相手はどう思うだろうな」って考えるのも、想像力ですよね。それを想像できる人は、コミュニケーションセンスのある人だと思う。
インテリアにおいても、「これとこれを組み合わせるとどうなるだろう」って想像できるようになればセンスって上がると思うんです。
土門:なるほどー。
佐藤:じゃあ想像だけしていればいいのか、というとそうじゃなくて。そのためには知識を吸収することと、いっぱい失敗を積み重ねることが大事だと思います。あのときああしたらこうなったっていう経験を蓄えている人のほうが、次はこうしようって思えるじゃないですか。
土門:それが次の想像力に繋がるんですね。
佐藤:そうそう。
だから最初の点は自分の「好き」を知ること。これを自分でわかっていれば、他人がどう思うかは別として、「センス」の種はあると思うんです。
そこから先は、知識と経験を積み重ねて、想像力をたくましくしていくことで、客観的にも「センスいいね」ってなっていくと思う。そうしていくうちに、あるセオリーが見えてくるから。
土門:なるほど。知識と経験で、あるひとつの「型」が身についていくんですね。
私はまずは自分との対話から始めて、そのあとに知識を得て型を知っていけばいいんだな……。道筋が見えたような気がします。
インテリアも小説も、わたしたちの「作品」
佐藤:でも、実は私がこの先いつかたどり着きたいと思っているのは、セオリーを超えた先のセンスなんです。セオリーを守ることで整ったセンスを発揮することは勉強してきたけど、セオリーにとらわれないセンスというのにすごく憧れているんですよ。
土門:セオリーを超えたセンス。それは……「創造」になるんでしょうか?
佐藤:きっとそうだと思います。セオリーを無視しているのにすごくかっこいい人っているじゃないですか。そこまでいけたらすごくおもしろいだろうなって思います。たとえばもっと年を重ねたときに、岡本太郎みたいな……。
土門:「芸術は爆発」?
佐藤:そう! 枠を凌駕している人は憧れちゃう。
土門:それって、枠を知っているからこそできることなんですかね?
佐藤:どうなんだろう。そういう人は若い時からそうなのかもしれないけど……。私は決まったセオリーを学ぶことをずっとやってきたから、その先に何か新しい展開があるのかなって思うんです。
……でも土門さんも、小説っていう分野で「セオリーを超えた領域」に向かおうとしていますよね。そうじゃないと書けないと思うんですけど。
土門:えっ、小説?
佐藤:そう。私が土門さんにインテリアの話をするのって、土門さんが私に小説の書き方を話すようなものなんですよ。私が土門さんに「小説ってどうしたら書けますか?」って聞いているようなもので……。
私だって「書けたらいいだろうなあ」と思う気持ちはあるし、土門さんに憧れているんですよ?
土門:わあ……ありがとうございます。
そう言えば、この間村上春樹さんの『職業としての小説家』*っていう本を読んでいたんですよ。その中に、よく若い人たちから「小説家になるためにどんな訓練なり習慣が必要だと思うか?」という質問をされると書かれている箇所があったんですね。その質問に対して彼は「小説家になろうという人にとって重要なのは、とりあえず本をたくさん読むこと」「少しでも多くの物語に身体を通過させていくこと」という答えを出していました。「小説を書くためには、小説というのがどういう成り立ちのものなのか、それを基本から体感として理解しなくてはなりません」と。
ここで言う「小説というのがどういう成り立ちのものなのか」って、佐藤さんのおっしゃっていたセオリーですよね。インテリアのパターンをいっぱい見たり、真似したりしながら、「インテリアってこういう成り立ちでできているのか」を体感的に理解し、いずれ自分でもテーマ性を持って作れるようになるっていう。
*出典:『職業としての小説家』村上春樹(2015年9月17日第1刷、スイッチ・パブリッシング発行)
佐藤:すごく似ていると思います。影響を受けて真似をするのが大事だって話をしましたけど、それって一度フィジカルにくぐらせるっていう行為なんですよ。
土門:そうですよね。なるほど、ここでインテリアと小説が繋がるとは。
佐藤:だから土門さん、本当はインテリアに興味ないんじゃない?って思っているんです。実は。
土門:ええ!?(笑)
佐藤:人間って、体にくぐらせて型を習得して到達できる分野なんて、いくつも抱えることってできないと思うから……。
私から見たら、土門さんは同じことを別の領域でされているんですよ。自分の作品を作り出して誰かを魅了する。その中心点を見つけるのってすごく大変だったでしょうし、たくさんトレースもされたと思います。
人によって、その分野って違いますよね。ある人には写真だったり、ファッションだったり、料理だったり。だから土門さんはインテリアにそんなに興味持たなくてもいいんじゃないかな?
土門:そうか……。これでいいんですかね。
佐藤:私にとっては、インテリアが作品なんです。今現在、最大限できることをやっている作品。
土門:佐藤さんにとっては、インテリアが一番大事なものですか。
佐藤:大事です。インテリアっていうか、暮らしが一番大事。土門さんは「書く」ことが一番大事でしょう? 身を削って書いてる。私もいくら疲れて帰ってきても、いそいそと物の配置を直すもん(笑)。
土門:そうですね、大事です。なんでそこまでやるのかって言うと……そうしないといけないからなんですよね。書くことで、自分が生きやすくなるんです。小説の中で世界を再構築して、自分と世界の関係性を捉え直しているのかなって思います。それって、私にとって居心地のいい空間、自由でいられる空間を作っているってことかもしれない。
佐藤:だから、私にとっての「部屋」が、土門さんにとっての「原稿用紙」なんじゃないでしょうか。
お互いすでにその領域を持っているのだから、私が「小説を書いてみたい」と言ったり、土門さんが「インテリアをがんばってみたい」っていうのも、少し違うのかなって。
土門:ただやっぱり、佐藤さんからインテリアの話を聞いていて、すごく気持ちが明るくなったんですよね。「自分の生活が、もっと自分のものになりそうだな」って嬉しい予感がしたんです。
ある小説家のインタビュー記事を前に読んだんですが、その方は精神的に不安定なときに、書くことですごく救われたらしいんですね。その経験があるから、他の人にも「文章書いてみたら」って勧めていると。私にはそれが意外だったんです。それこそ身を削るような文章を書く方だから、自分にとってのそういう領域を人に勧めたりするんだなって。
でもそれって、「あなたもそういうふうに書け」ってことじゃないんですよね。「書く」ってこんな効能があるんだよって、伝えているように感じたんです。その一部だけでも試してみたらっていうのが、すごくいいなって思ったんですよね。
だから佐藤さんの話を聞いたときに、「ああ、インテリアって『自分との対話』なんだな」ってわかって、やってみたいなって思った。そうしたらもっと暮らしが心地よいものになりそうだなって明るい気持ちになれたんです。
佐藤:ああ、なるほどね。そうかー。
土門:ひとつの領域に真剣に取り組むってなると、なかなか他の領域には手を出しにくくなるけれど。でも、「そっか。インテリアって、文章を書くことって、こういう楽しみ方があるんだな」っていうのがわかってもらえたり教えてもらえたら、それってすごく素敵ですよね。
佐藤:本当にそうですね。自分が大事にしている領域でのことを、他の人に勧めてみるっていいのかもしれないなあ……。初めて今、そう思いました。
前回の『なんとか暮らしてます』で、こんな話をしたのを思い出しました。
佐藤:最近、いろんな人の過剰で世界ってできているんだなって思っていて。他人から見たら『どっちでもいいじゃん』ってことが、その人にとってはどっちでも良くない。それを認め合うことから始まるなっていう。
土門:誰かの不足を誰かの過剰が埋めているみたいな、そうやって世界はまわっているんですよね、たぶん。
ここで言う「過剰」を今の私たちに当てはめると、佐藤さんにとっては「インテリア」、私にとっては「書くこと」にあたります。なぜ「過剰」になるのかというと、自分が心地よく生きていくために必要だから。自由に彩れるキャンバスが、佐藤さんにとっては部屋であり、私にとっては原稿用紙。だからこそ、熱心にこだわっているのだと思います。
今回佐藤さんと話したことで、自分の中にはまだ手にとったことのない「インテリア」という自由に彩れるキャンバスがあることに気づきました。それはまだ知らない自分の存在に気づいた、わくわくする瞬間でもありました。たとえば佐藤さんが「小説を書いてみようかな」と思ったとしたら、同じ気持ちになるのかもしれません。
佐藤さんの「過剰」を分けてもらった今回の対談。
おかげで、「自分の生活が、もっと自分のものになりそうだな」という希望がわきました。
いつか私も、佐藤さんに「過剰」を分けてあげられる日が来るといいなと思います。
誰かと話していてそう思えるのって、なんて素敵なことなんでしょう。
『なんとか暮らしてます』がそういう連載になればいいなと、心から思っています。
あなたの「シンボル」は、何でしょうか?
【写真】濱津和貫
もくじ
土門蘭
1985年広島生。小説家。京都在住。ウェブ制作会社でライター・ディレクターとして勤務後、2017年、出版業・執筆業を行う合同会社文鳥社を設立。小説・短歌等の文芸作品を執筆する傍ら、インタビュー記事のライティングやコピーライティングなどを行う。共著に『100年後あなたもわたしもいない日に』(京都文鳥社)。2019年、『経営者の孤独。』(ポプラ社)と『戦争と五人の女』(京都文鳥社)を刊行。
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