【器と暮らす】前編:プロに教わる、作家ものの器の扱い方
編集スタッフ 寿山
丈夫でがしがし洗えるプロダクトの器も、味わいのある作家ものの器も、どちらも大好きです。
とくに旅先で買った作家ものは思い入れがあるのですが、扱い方が悪いのか欠けてしまったり、変色してしまったり。ちゃんと扱いきれていない自分に、がっかりすることがあります。
なるべく手間は省きたいけれど、大切なものを、慈しむように手入れできる人になりたい。
そこで本特集では、器の店「夏椿」店主の恵藤文(えとうあや)さんに、陶磁器に木工やガラスなどの器の扱いについて、全2話で教わります。
器を扱って二十数年。プロの使い方
恵藤さんは、かれこれ20年以上も器を扱う仕事に携わってきました。12年前にご自身の店「夏椿」を構えてからは、作家さんとコラボしたオリジナルの器も沢山つくっています。
お店で扱う器はどれも自分で使ってみて、使い勝手や、無理のない扱い方を模索してきたそう。
そんな器のプロに、さっそく私の疑問をなげかけてみました。
大切な器、割らないための工夫とは
大事な器ほど、割ってしまい泣きそうに悔しい。数々の苦い思い出があるわたし。恵藤さんは、割らないために何か工夫されているのでしょうか?
恵藤さん:
「作家ものの器は、洗いカゴに入れると欠けやすいので、シンク脇のスペースにキッチンクロスを敷いて、自然乾燥させています。夫婦ふたり分だと、クロス1枚にちょうど置ききれるくらいの量。
乾いたら棚にしまうか、また使うかして。敷いてあったクロスでグラスを拭き上げたら洗濯機へ。
とはいえ毎日使っていたら、割れたり欠けたり、ある程度は仕方ないことだと思いますよ」
割れてしまったら、金継ぎしますか?
わたしは割れた器のカケラを保管していて、金継ぎに頼みたいと思いつつ踏み込めずにいます。恵藤さんは、割れた器はどうしているのでしょうか?
恵藤さん:
「金継ぎは費用も時間もかかりますからね。正直、買い替えた方が安いです。
ただ、作家ものの器を見てきて思うのは、同じ物は2度と手に入らないのだなあということ。
たとえ作り手は同じでも、手法や雰囲気は自然と変わっていくものです。それを目の当たりにしているので、好きで買った器はなおさら手放せません。
恵藤さん:
「割れたカケラはセロテープにのせて器にくっつけて、袋へ入れて保管し、まとめて黒田雪子さんという金継ぎ師にお願いしています。
元の姿より魅力的になって帰ってくるのも嬉しくて。いつも想像を超える仕上がりだから、また金継ぎしようと思うのかもしれないです。
どこに頼めばいいか分からないときは、買った店で誰か紹介してもらうのもいいと思います」
色や匂い移りをなんとかしたい!
とくに陶器は使っていくうちに色が沈着したり、匂いがついたり。正しい扱い方はあるのでしょうか?
恵藤さん:
「陶器は焼くときに目に見えないヒビ(貫入)が入るため、料理の色や匂いが移ることがあるんです。
個人的には、少しずつ色が深みを増すのは好きです。使いながら変化を楽しむと考えれば、あまり気になりません。
毎日使うカップなどの茶渋が気になったときは、メラミンスポンジで軽くこすれば表面の汚れは落ちますよ。陶器は吸水性があるので、漂白はしない方がいいです」
恵藤さん:
「もし購入したときの色合いが好きで、あまり変化させたくないときは、使う前に米の研ぎ汁(小麦粉を水に溶いたものでも)に一晩つけてから使ってください。でんぷんの膜ができて、色や匂いが移るのを和らげることができます。
味や匂いに敏感な方は、カップやティーポットなどは、これはコーヒー用これはハーブティー用などと、用途を決めるのもおすすめ。
正解の使い方があるというよりも、自分の好みに合った使い方をするのが一番な気がします」
変化が苦手な人には、磁器がおすすめ
恵藤さん:
「磁器は吸水性がないので、色がしみたり変わったりすることはありません。電子レンジにも入れられますし、扱いやすいと思います。
原料が石で高い温度で焼いているから、丈夫でもあって、気を遣うポイントが少ないかもしれません。
ただ、薄いものや繊細なデザインのものは、割れや欠けに注意した方がいいです」
電子レンジは、やっぱりNG?
作家ものの器は、電子レンジには入れない方がいいのでしょうか?
恵藤さん:
「陶器は、急激な温度の変化が割れの原因になることもあるので、基本的には使わない方がいいと思います。とくに銀彩(器に銀を焼き付けたもの)の器は、電子レンジに入れると金属とマイクロウェーブがバチバチっと反応して、器の破損やレンジの故障の原因にも。
磁器は大丈夫ですけど、絵付けのあるものは剥がれてしまうこともあるので、入れない方がいいです。
作家の作り方によって気を付ける点が違うので、買ったお店で確認するのが一番安心だと思います」
いろいろなお話を伺うなかで「何が正解というわけでなく、自分がどう使いたいかで決めたらいい」という一言がとても印象的でした。
私は正解を求めすぎて勝手にモヤついていたのかもしれません。「色が変化しても、自分が気にならなければ、好きと思えたらそれでいいんですよ」と言われて、視界が晴れた気がしました。
つづく2話では、木工や漆、ガラスのお手入れについて教わります。
【写真】神ノ川智早
もくじ
恵藤文
東京生まれ。青山のインテリアショップで雑貨仕入れを担当。作家と共同でつくるオリジナルグッズなどを手がけた。器と雑貨の店「KOHORO」の店舗立ち上げを経て、2009年には自身の店「夏椿」をオープン。2018年には鎌倉へ店舗を移し、月ごとに企画展やイベントを開催している。http://www.natsutsubaki.com
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