【すいとん、だんご、うどん。あったか汁物めしあがれ】 第3話:ピリッと効かせた辛さがやみつき「地獄うどん」

ライター 片田理恵

温かな汁物に粉や芋を丸めて入れ、野菜や肉、魚と一緒によく煮込む。寒い日に恋しくなる「あったか汁物」の作り方を、料理家・minokamoさんに教えていただく特集です。第3回は岐阜県の山あいの村で生まれたという「地獄うどん」。缶詰と乾麺を使っているので作り方はとびきり簡単、材料もどこのスーパーでも揃えられるものばかりです。

 

辛い、熱い、おいしい。芯から温もる家庭の味

うどんを釜で茹でた時にぐつぐつ煮えたぎる姿が地獄の釜の様だというところからその名がついたとされる「地獄うどん」。インパクトのある名前に驚いた方もいらっしゃるかもしれません。

発祥の地は、徳山ダムの建設のためダム湖に沈んでしまった岐阜県の旧徳山村。同県出身のminokamoさんが地元を取材する中で出会った家庭料理です。かつての村民を訪ねて教わったという食べ方を、今回、レシピにまとめてくれました。

minokamoさん:
「一昨年、郷土史家の大牧富士夫さんとフサヱさんご夫妻にお話を聞く機会があったんです。フサヱさんは本を出版するほどの料理好き。寒さの厳しい土地柄、地獄うどんは囲炉裏にかけた大きな釜でゆで、みんなで火を囲んで食べた思い出深い味だそうです。家庭によって食べ方に差はあるようですが、熱々を豪快にいただいたのが本当においしくて」

 

村の思いと味を受け継ぐ「徳山唐辛子」

▲ピーマンのように丸い形をした徳山唐辛子。なんとも鮮やかな赤色です。特徴は「辛い」こと。普通の唐辛子の1.6倍といわれ、パッケージには激辛の文字も

この記事を作るにあたり、地獄うどんを調べてみると、おぼろげながらその特徴が見えてきました。まずひとつめは、旧徳山村でしか栽培されていなかった「徳山唐辛子」が使われていた地域があったということ。

minokamoさん:
「フサヱさんは、唐辛子はそれぞれの好みで、一味でも七味でも入れたらいいよとおっしゃっていました。囲炉裏を囲んで唐辛子を入れたうどんをすすったら、さぞ体が温まっただろうなと思います。私が伺った時はすでに閉村から何十年も経っていましたが、当時は家庭によってさまざまな食べ方があったのでしょうね。

そして今回(2020年9月)、徳山唐辛子の現状を岐阜県に問い合わせたところ、種をかつての住人から受け継ぎ、育てておられる方がいらっしゃるとわかったんです。村はなくなっても、味と思いが今もつながっていることに感激しました」

ふたつめは、うどんは乾麺を使うこと。これは富士夫さんが子どもの頃、家に現金収入があると、お父さんが木の箱に入った乾物のうどんを買ってきてくれたというエピソードに基づいています。

この特徴はしっかり生かしつつ、どの地域でも楽しめる地獄うどんをとminokamoさんが考えたレシピがこちら。

 


家の一番大きな鍋で、ぐらぐらゆでながら食べたい

地獄うどん


minokamoさん:
「寒さが厳しい山あいの村で昔から作られてきた家庭の味。うどんの乾麺と魚の缶詰、それに好みの薬味と、家にある材料で手軽に作れるのがうれしいですね。おいしさのポイントは唐辛子のピリッとした辛さ。ゆでたての熱々をほおばると、冷えた体がポカポカになります」

 

材料(2人分)

・乾燥うどん 2~4束(食べたい量をお好みで)
・白ねぎ 適量
・おろし生姜 適量
・さばの水煮缶 1缶
・白いりごま 適量
・醤油 適量
・一味か七味とうがらし 適量

 

作り方

1. 鍋にたっぷりの湯をわかし、うどんをゆでる。ゆで時間は袋の表記の通りに。

 

2. 白ねぎは小口切り、生姜はすりおろし、鯖の缶詰はほぐして、それぞれ器に盛る。

 

3. ゆであがったうどんを箸ですくい上げて椀にとり、鯖、醤油、薬味を入れる。最後に唐辛子をふりかけ、混ぜながら熱々をいただく。ゆで汁を加えて汁うどんにしても。

※徳山唐辛子を使う場合
水に丸ごとの唐辛子と煮干しを入れて火にかけ、その出汁でうどんをゆでて食べる。徳山唐辛子ではなくても、乾燥ではない生の唐辛子が丸ごと手に入ったら、こちらのやり方で食べてみるのもおすすめ。

minokamoさん:
「鯖の缶詰を使うようになったのは近年になってから。ツナ缶を入れる人もいるそうです。それより以前はネギとかつお節、唐辛子だけで食べていたようで、フサヱさんはそちらが好みだと話してくれました。あっさりと食べたい時には缶詰なしでどうぞ」

 

寒い日ほどおいしい。あったか汁物で心もポカポカ

手に入りやすい材料で、どこでも簡単に作れること。体をしっかり温め、バランスよく食べられること。日本各地の郷土料理を生かした「あったか汁物」特集、いかがでしたか。鍋から立ち上る熱々の湯気を想像するだけで、なんだか寒い日が待ち遠しくなるくらい。

それぞれの土地で暮らす人たちが、自分たちの舌と体調に合った方法で受け継いできたものを、私たちも味わってみたい。それもこの特集を考えたきっかけのひとつでした。出かけていって食べるのが難しい今だからこそ、自宅で手軽にできるやり方で、ぜひ楽しんでみてくださいね。

(終わり)

【写真】minokamo


もくじ

 

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minokamo

料理家、写真家。岐阜県美濃加茂市出身。祖母と一緒に料理したことが料理活動のはじ まり。日本各地の郷土食の取材にも力を入れている。近著に『料理旅から、ただいま』 (風土社)がある。http://minokamo.info

 

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ライター 片田理恵

編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスに。暮らし、食、子育て、地域などをテーマに取材・執筆に取り組む。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。


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