【57577の宝箱】朝ごはん食べたら今日を始めよう 降っても晴れてもただの一日

小説家 土門蘭


まったくやる気が出なくなることが、時々ある。

わたしは1日のうちで朝がいちばん苦手だ。夜になると気分が落ち込むという話はよく聞くけど、わたしは朝のほうが気が塞いでいる。パッと目が冷めた瞬間、「起きなきゃ」「あれしなきゃ」「これしなきゃ」と1日のタスクが頭の中を駆け巡る。そのタスクをベッドの中でぐるぐる考えているうちに、からだも心も重たくなってしまうのだ。

以前なら、そんな朝にはベッドの中で思う存分ぐずぐずすることができた。でも今はふたりの小さな子供がいるので、着替えを手伝ったりご飯を用意したり保育園に送って行ったりしないといけない。だから、どんなときでものろのろとベッドから這い出ている。

どうしてもやらないといけないことがあると、人は動くことができるんだな……そんなことを思いながら、台所の窓ガラスに映る自分の姿を横目に見る。まだ眠たそうな顔をした自分が、子供たちの朝食のために卵を割っている。

§

お味噌汁、おにぎり、卵焼き、ウインナー、それから何か野菜ものを一品。
それが、わたしが作るいつもの朝食だ。子供たちはそれを食べたあと、いつも「デザートちょうだい」と言うので、りんごやクッキーやヨーグルトなどを出している。

そんな話を同じく子育て中の友人にしたら、彼女は目を丸くして、
「理想の朝ごはんやん!」
と言った。「朝からそんながんばってすごいなぁ。うちなんて、コーンフレークだけとか、パンとバナナだけとかざらやもん」と。火すら使わへん、と笑いながら。

「ほんまは蘭ちゃんみたいにしっかり食べさせてやりたいけど、朝弱くてなかなかできひんからなぁ。まあ、食べさせへんよりはいいかなって、めっちゃ手抜いてる」

友人はそう言いながら、「蘭ちゃんはえらい」と褒めてくれた。だけどわたしは、「あなたのほうがえらいよ」と思った。理想の朝ごはん(と言うほどのものでもないが)を追って朝からくたくたのわたしよりも、できないことは素直に諦める彼女のほうがすごい、と。だって彼女は、そうやって自分の笑顔を守っているんだから。

「ママー」と、彼女の娘さんが呼ぶ声がする。友人は「はーい」と、明るく返事した。そんな友人の背中に、娘さんが思い切り抱きついた。

§

「理想の朝ごはん」
彼女と話したあと、もしかしたらわたしは、そんな自分が掲げる「理想」に苦しめられていたのかもしれないなと思った。

朝起きたときに頭の中をぐるぐる回るタスクの数々。「起きなきゃ」「あれしなきゃ」「これしなきゃ」は、言い換えれば理想の自分だったんだろう。きちんと起きる自分、きちんとあれやこれやをこなす自分。その理想像と、起きたばかりの自分のギャップがひどすぎて、わたしはいつも悲観的になっていたのかもしれない。今の自分よりも理想を優先して、できないことをしようとするから、しんどくなっていたんだろう。

友人は、理想よりも自分を大事にしているようだった。「めっちゃ手抜いてる」と笑いながらも、できないことを無理にやろうとするのではなく、できることを機嫌よくやろうとする姿がとてもいいなと思った。

「やる気」なんてなくてもいい。今できることだけをやろう。
そんなふうに思うようになってから、朝起きるのが少しずつ楽になっていった。

§

「ごめん、今日の朝ごはん、手抜き」
時間も元気もなかったある朝、そう言いながら、パンとインスタントスープの朝ごはんを子供たちに出した。
すると小学生の長男が、「え、全然いいよ! スープにパンひたして食べるの、おれ大好きやし」と言った。次男も真似して「スープとパン、いれる!」と喜んでいる。

彼らがニコニコしながら食べているのを眺めていたら、ふと長男がこんなことを言った。
「おれ、お母さんのこと尊敬してんねん」
突然の言葉に驚いて、聞き返す。
「えっ、なんで?」
「だって、ちゃんとしてるもん。やらなくちゃいけないことを、ちゃんとコツコツやろうとするから」
「そうかなぁ」
「そうやで」

彼が気を遣って、朝から疲れているわたしを慰めてくれているのがわかった。理想を追う姿を、見てくれている人は見てくれているのだ。無理してがんばってきた自分すら否定しようとしていたのに、そのとき全部肯定されたような気になった。

がんばれる日、がんばれない日。笑える日、笑えない日。きっと、そのどちらもあっていいんだろう。友人もわたしも、どっちもえらい。1日1日、暮らしていてえらい。温かなスープにパンをひたし、おいしそうに食べる彼らの顔を見ながらそんなことを思った。

とりあえず朝ごはんを食べて、今日という日を暮らしていこう。
晴れでも雨でも曇りでも、できることしかできないのだから。

 

“ 朝ごはん食べたら今日を始めよう降っても晴れてもただの一日 ”

 

1985年広島生まれ。小説家。京都在住。小説、短歌、エッセイなどの文芸作品や、インタビュー記事を執筆する。著書に歌画集『100年後あなたもわたしもいない日に』、インタビュー集『経営者の孤独。』、小説『戦争と五人の女』がある。

 

1981年神奈川県生まれ。東京造形大学卒。千葉県在住。35歳の時、グラフィックデザイナーから写真家へ転身。日常や旅先で写真撮影をする傍ら、雑誌や広告などの撮影を行う。

 

私たちの日々には、どんな言葉が溢れているでしょう。美しい景色をそっとカメラにおさめるように。ハッとする言葉を手帳に書き留めるように。この連載で「大切な言葉」に出会えたら、それをスマホのスクリーンショットに残してみませんか。

 


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