【あのひとの子育て】アン・サリーさん〈後編〉「子どもを大事に育てることが、あらかじめ組み込まれていると思うんです」
ライター 片田理恵
歌手として、医師として、生きることの喜びや楽しさ、時に悲しみとも向き合いながら活動を続ける、アン・サリーさん。前編では子育ての中で歌が果たしてきたもの、自らの中に生まれた歌うことの変化についてお聞きしました。
続く後編では、医師だったお父さんからアンさんへ、そしてアンさんからふたりの娘さんたちへとつながっていくもの、子どもを育てることへの思いを伺います。
レッスンはイヤだけど、ピアノを弾くのは好き
アンさんの夫はトランペット奏者。ともにステージを作り上げるバンドのメンバーでもあり、公私を共にするパートナーです。両親がともにミュージシャンという家に生まれた娘たちは今、16歳と14歳。ピアノを弾いたり、吹奏楽部ではトロンボーンを担当するなど、自らも音楽に親しんでいるそう。
アンさん:
「まだ娘たちが小学校に上がる前、長女がピアノを習っていたので、次女も同じところに通わせようと一緒に連れて行ったことがあったんです。
レッスンを受けさせようとしたらその場で『イヤ』と一言。教わったことをその通りにやらなくちゃいけないのがイヤだったみたいで、結局その日はピアノを弾きませんでした」
アンさん:
「以来、一度も習ったことはないですが、ピアノを弾くことそのものは好きなんですよね。独学で指運びを覚えてからは、家で好きな曲を好きなように弾いています。
その姿を見ていて『同じだなぁ』と思いましたね。だって、私もひとつのメロディーを同じように繰り返し歌うのは好きじゃないから。ああ、こんなところが似るんだって。
彼女はまだ3つか4つの頃、その場で思いついたメロディーに即興で歌詞をのせて歌うことがよくあったんですよ。桜が咲いている下を通れば、桜の歌。私はそれがすごく好きでした。自分の曲にもらおうかと思ったこともあったくらい」
元気で健康なら、細かいことはいいじゃない
自由に音楽を奏でることができる。それはどんなに気持ちがいいことでしょうか。
娘さんの中で音楽を楽しむための自分なりの方法が育っていった背景には、きっとアンさんが歌う姿がある。私はそんなふうに思いました。家族のドライブでも、華やかなステージでも、いつだって楽しく歌う母の姿があったから。
アンさん:
「でも最近は、私がピアノを弾いていると『うるさい』っていったりするんです。そこでひるんじゃいけないと思うから、構わずにうるさくし続けてますけどね(笑)。
『うるさい』と口に出すのは一種の甘え。自立って、親をひとりの人間として尊重できるようになることでしょう。だからひるまずにダメなことはダメというし、主張すべきことは主張する。それが親として大事なことでもあるのかなって」
アンさん:
「夜更かしが過ぎるのはダメだとか、あまりにも部屋が散らかっているのはどうなのとか、けっこう小言も言っています。だけどそういう日々のこまごまとしたことに目を向けすぎるのも、ちょっと息苦しい感じがするんですよね。だからもう少し視野を広げて、おおらかに見守る姿勢も大事にしたい。
要は『ごはんがおいしくて元気で健康なら、細かいことはいいじゃない』っていう気持ちですよね。それは医師として勤務する中で、病や不調を抱える患者さんたちが教えてくれたこと。
生活の小さな部分ばかりじゃなく、意識して俯瞰からも見るようにする。両方の視点を持ちながら、必要に応じて行き来できるといいなと思っています」
ぞんざいに扱っていい人間なんてひとりもいない
医師として得た学びが、母としての気持ちを支えていく。そういわれてみれば確かに、「母」である以外の自分が「私」にもたらしてくれるものってたくさんあるような気がします。私の中にいるたくさんの私。「妻」「友達」「同僚」「姉」「妹」、そして「娘」。
アンさん:
「年を重ねたからなのか、折に触れ、亡くなった父を思い出すことが増えました。父は私くらいの年齢の頃、何を考えて生きていたんだろうって、ふと思うんです。実際に聞いたわけじゃないので本当のところはわからないけれど、父の思いに触れようとする時間が今の私には必要なんだなって。
そういう、自分の内側から自然に湧き出てくる思いを自由に歌えることが、とても幸せだと感じます。
道ゆく人がみな、誰しも母から生まれた存在だと思うと、ぞんざいに扱っていい人間なんてひとりもいないんだって気持ちになるんですよね。だからきっと人間には、子どもを大事に育てるってことがあらかじめ組み込まれているんじゃないかと思うんです」
みんなすこやかに大きくなりますように
アンさんの子育ての話、いかがでしたか。
私たち人間には子どもを大事に育てることがあらかじめ組み込まれている。そんな仮説に、なんだかワクワクする気持ちを覚えました。小さな赤ん坊が泣き、笑い、眠る姿を幸せな気持ちで見つめることができるのは、ひょっとしたらそのせいかもしれません。
かつての子どもたちが、今の子どもたちが、そしてこれからの子どもたちが、みんなすこやかに大きくなるように。そしてはるか昔からずっと繰り返されてきた人間の営み、そのつながりを、いつもあたたかく思い出せるように。
歌はきっと、その手助けをしてくれる存在なのだと思います。
(おわり)
【写真】神ノ川智早
アン・サリー
歌手、医師。大学時代からバンド活動を始め、医師として働いていた2001年に「Voyage」でアルバムデビュー。医学留学のため訪れていたニューオリンズからの一時帰国時に録音した「Day Dream」「MoonDance」がロングセラーとなり、現在までに多数作品を発表。2月3日には最新アルバム「はじまりのとき」が発売となる。ふたりの娘の母。
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