【この手と一緒に】そのままを愛おしむ。手を使ってものづくりをする三人のおはなし

編集スタッフ 津田

北欧、暮らしの道具店のオリジナルブランドKURASHI&Trips PUBLISHINGからハンドクリームが発売になりました。

ハンドクリームを開発する中で、私たちが大切な拠り所としたのは「これまで頑張ってきた手を慈しみたい」という気持ち。

家事や仕事や子育てに忙しく、身だしなみを整える余裕がなくて、気づかぬうちに日焼け止めやクリームを塗るのも忘れてしまっていた手。日に焼けていたり、シミやシワが出てきたり、乾いてカサカサしていたり。

そんな手にいま声をかけるなら……? 「もっときれいになろう」より「ここまでよく頑張ってきたね」とそのままをいたわりたい。それが私たちの等身大で素直な気持ちでした。

お客さまにもこの機会に、それぞれの手に思いを馳せていただけたら。そんな思いで発売記念の読みものを作りました。手を使ってものづくりをされている三人の方を訪ね、お仕事のことや、いま手を眺めて思うことを伺います。

 

クッキー専門店「クル」店主 尾上由子(おのうえなおこ)さん

手から生まれるもので自分が形作られる

「もともとは美大を卒業してデザイナーとして就職したのですが、社会人になってからお菓子作りにハマって、これを自分の仕事にしたいなと、独学で地元にお店を開いたのが2010年11月のこと。もうすぐ丸12年になります。

定番のクッキー8種と、スコーン5種。そのほかに季節限定のお菓子も作っています。

幼い頃から絵を描いたり、ものづくりをするのが好きだったので、いまも手から生まれるもので自分が形作られているような感覚があります。手を動かすことでアイデアが生まれることも多いですし、言葉にできない微妙なところを形にしてくれる役割もあると思います」

「自分の楽しみでお菓子を作っていた頃と違うのは、手から生まれたもので先が決まっていくような責任や重みも感じるようになったこと。

なので、手はどんな立派な道具よりも信頼しています。すごく大事な存在です。使いすぎると震えてきたりしちゃうから、きちんとリセットしてゆるませておく方がいいのだろうと感じています。

とはいえ、ふだんはさほど意識していなくて……。気づいたときに好きな香りのオイルでマッサージするくらい。でも疲れをとること以上に『ちゃんと労ってあげた』『自分と向き合う時間がもてた』と満たされる感覚が大きいです。これからも使い続けていくものなので大切にできたらいいなと思います」

 

イラストレーター 谷山彩子(たにやまあやこ)さん

これからも、これまでのように無事に動いてください

「小さな仕事場ですけど、どうぞどうぞ。ここで普段は本や雑誌の挿絵を描いたり、絵本を作ったりしています。この机は大正生まれで陶芸家だった叔父が使っていたのを引き継ぎました。中学生の頃から使ってます。

手、すっかりほったらかしですね〜。吊り革を持った手を見てギョッとしたり、写真を見ておばあさんの手みたいになってきたなと思ったり。

仕事柄、紙を扱うからハンドクリームを塗っておけないんです。油分が染み込んじゃうのが良くないので。家では料理するから塗ったそばから落とさないといけないし、忘れなければ寝る前に保湿するくらいで、手は乾燥して常にガサガサです。

若い頃はマニキュアしないとお出かけできない!という感じだったけれど、すぐに剥げちゃうので、だんだんやらなくなっちゃいました。母や叔母たちはみんなおしゃれさんで、雑誌の『それいゆ』を愛読していたり、今もきれいに爪を伸ばしてマニキュアもしていてね。だから私もと思ったのですが、そこは踏襲できませんでした」

「絵を描くときは、割り箸の先にインクをつけて形を出していきます。下書きせずに、紙に直接。目と脳と手が、直結しているような感じで、ずっと描いているとスムーズなんだけど、あまり描いてないときはやっぱり感覚が鈍ってしまうんです。

精度が落ちるみたいで、仕事でポートレートや動物を描かなきゃいけないのに何度描いても『アレ?』となったり、『たまには下書きするか……』と思うことも。

だから手は本当にたいせつな相棒。仕事にも生活にも欠かせないですから。これからもよろしくねって思います。これまでのように、これからもどうか無事に動いてくださいね、って」

 

料理家 中川たまさん

使えば使うほど、心がやわらかくなる

「暑かったでしょう。庭で採れた梅のシロップを、炭酸で割ってほんのすこし梅酢も足しました。よかったら冷たいのどうぞ。

手は、私の中で一番の働き者だと思います。私ってぐうたらで……。そんなに行動派でもないんです。最近はコロナもあるから外出も減りましたし、電車にも乗らなくなっちゃって。だから足よりも、手を使って何かするほうが断然多いです。

手を使うのは昔から好きでした。絵を描いたり、縫い物をしたり。身体を洗うのもボディタオルじゃなくて手で撫でるように。指先って敏感ですよね。使い続けているとちょっとしたことでも気づけるのがいいなって」

「もう10年以上前ですが、娘の小学校の先生に『手を使えば使うほど、心が柔らかくなる』と言われたことがあって、すごくいい言葉だなぁと響きました。手を使うときは今でも、この言葉がどこかにあるような気がするんです。

でも保湿クリームや日焼け止めは塗るタイミングがほとんどなくて。レシピや料理を作るのが仕事なので、ずっと食材をさわって調理しているのと、しろこ(中川さんちの猫)がいるから成分が気になるので、もうそのままの自然にしてます。

50代になって体力が落ちたなって感じるけど、そんな中でも手は一番の働き者。あまりケアはできていないけど、どんな時も頑張ってくれてありがとうって思います

 

信頼している道具。大切な相棒。一番の働き者。

この手でずっと作り続けてきた人のお話を聞いた帰り道。電車に揺られながら、しみじみと自分の手を眺めてみました。

骨が太くてゴツゴツしているし、日焼けをして、ささくれもたくさん。いつだったか覚えていない虫刺されの痕まである。なんとも不恰好な我が手ですが、不思議なもので「愛おしいなあ」という気持ちが湧いてきました。

そこにあるのが当たり前。気にもとめていなかった存在だけど、ここまでの人生を一緒に歩んできた相棒なんだという感慨めいたものを、みなさんのお話を伺って感じたのです。

「日頃からケアできているわけじゃなくて……」「手を意識することってそんなになくて……」と、それぞれがありのままに話してくださった姿も印象的でした。

ツルツルピカピカになることは叶わなくても、これからもよろしくという気持ちをこめて。寝る前に5分くらいマッサージをしたり、ハンドクリームを塗り込んだり、そんなふうにしてあげたいかも。それは大切な道具や革靴を手入れするのと同じように、自分自身を愛おしむことになるのかもしれないなと思いました。

 

ハンドクリームの商品ページはこちら

 

 

【写真】衛藤キヨコ

 

尾上 由子(おのうえなおこ)

埼玉県北本市のクッキー専門店「クル」店主。 独学で焼き菓子を作り続け2010年にクッキー専門店「クル」をオープン。 レシピ本『さくほろっしゅわわな ゆかいなおやつ』(新星出版社)。 http://cle-cookie.com Instagram:@clecookie

 

谷山 彩子(たにやまあやこ)

イラストレーター。東京都出身。セツ・モードセミナー卒業。HBギャラリー勤務を経て、フリーのイラストレーターに。雑誌・書籍の挿画や広告の分野で幅広く活躍。近著に『文様えほん』『十二支えほん』(共にあすなろ書房)がある。 https://www.taniyama3.com/ Instagram:@a.taniyama3

 

中川 たま

料理家。神奈川・逗子に夫と娘と暮らす。季節の食材や果実を生かした、家庭でも作りやすいシンプルな料理を手掛ける。近著に『ふわふわカステラの本』(主婦と生活社)、『器は自由に おおらかに おいしく見える器の選び方、使い方』(家の光協会)、『つるんと、のどごしのいいおやつ』(文化出版局)。 Instagram:@tamanakagawa

 


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