【ご機嫌に暮らすあの人に会いに】島根県で見つけた「自分の暮らし」を楽しむヒント
ライター 藤沢あかり
「もっと広い家なら、すっきり片づくのに」「もっと自然豊かな場所なら、親も子どもものびのび、おおらかでいられるのかな」
そんなふうに、いまとは別のなにか、ここではないどこかに理想の暮らしを探してしまうことがあります。でも、等身大の自分の暮らしをそのまま好きでいられたら。それこそがご機嫌に、楽しく生きる一歩になるのかもしれません。
そんなことを考えるきっかけとなったのは、ライフスタイルブランド「石見銀山 群言堂」とのお取組みでした。衣食住美を通じて、誰もがいまの場所でしあわせに生きる「根のある暮らし」を提案しています。
「根のある暮らし」とは、どんなものでしょうか。わたしも、いまの暮らしをもっと好きになれるかもしれない。そんな予感を携えて、島根県の大森町に向かいました。
(この記事は、群言堂の提供でお送りする広告コンテンツです)
島根県大森町。「根のある暮らし」のふるさとを訪ねました
島根県大田市大森町。世界遺産「石見銀山」でも知られるこの町が、群言堂の発信地です。創業1988年、松場登美(まつば・とみ)さんが夫の大吉さんと共に、はぎれを使った手作りの小物を売り始めたことからスタートしました。
今回おじゃましたのは、群言堂が運営する宿泊施設「他郷阿部家」。築230年を超える武家屋敷で、登美さんが実際に暮らしながら、十数年かけて修復をしてきた場所です。お会いしたのは登美さんと、その娘の峰山由紀子(みねやま・ゆきこ)さん。毎日をご機嫌に暮らす2人にお話を伺いました。
過疎化をたどる小さな町で生きる決意をし、「根のある暮らし」を体現し伝えてきた登美さん。一方、大森町で育った由紀子さんは、東京の群言堂の店舗に勤務し、本社への異動を機に、この町に戻ってきたそうです。いまは7歳と5歳の双子、3人の子育てをしながら仕事を続けています。
由紀子さん:
「10代の頃は、なにかおもしろいイベントや遊びを生み出さないと、なにもない大森町では自分は沈んでしまうという危機感がありました。それに比べて東京は、きっとドラマや雑誌で見るような華やかさがあって、大きなステージのような場所なんだろうと想像していたんです。
東京で働き始めた当時は独身で、好きな仕事が最優先。だから一日がんばって働いて、家に帰ってご飯を食べる。そんな毎日が続くうちに、あれ? 島根にいても東京にいても、自分自身がやっていることって、あまり変わらないのかな? と思うようになりました。意外ですよね。
もちろん小さな違いはありますが、東京だから楽しいとか、田舎だから豊かだとかは感じなかったんです。たまに、道端で見つけた猫じゃらしを見つけて部屋に飾ったりして。そんなふうに、根本的なところでは自分自身のやっていることは変わらない、というのが実感でした」
▲「花が散った後のガクもかわいいのよね」と、咲き終えたアベリアを活ける登美さん。
登美さん:
「わたしたちが伝えている『根のある暮らし』というのは、自分自身に根を持ちましょうということ。植物は枯れたように見えても、根さえ張っていれば、また芽を出し花を咲かせ、美しい循環ができるでしょう?
人間も同じで、自分自身に根を下ろす力を持てば、どこにいても美しい花を咲かせられます。それでは、根とは何なのか。わたしは生きる力そのものだと思っています。
どこにいても、自分の好きなものって見つかるものなんですよ」
「これでいく!」と覚悟を決めれば、根っこが生えてくる
由紀子さん:
「生きる力と言われると難しいかもしれませんが、『よし、これでいく!』ってことなのだと思っています。わたしはもっとしあわせになれるかも、と別の場所に目を向けてしまっては根は育ちにくいものなんですよね。
1ヶ月、今の状況を受け入れて『これをやるぞ!』って決めてみる。それが3ヶ月になり、1年、3年と経つうちに、自然と根が張っているんじゃないかな。自分に根を下ろす力が育てば、きっとどこへ行ってもやっていけると思います」
▲割れてしまった古いものや、家を壊すときに頂いたガラスを集めたパッチワークのような阿部家のガラス戸。あるものを生かしたオリジナルの景色です。
登美さん:
「ありのままの自分を受け入れるのよね。良いことも悪いことも、わたしはさずかりものだと考えています。いいことをさずかったらお返しをして、悪いことをさずかったら、乗り越える力があるのだと信じてがんばってみる。そうやって繰り返していくうちに、ちっちゃな根がちょろちょろ出てくるのだと思いますよ」
手を動かして、おもしろさをキャッチする
由紀子さん:
「住む場所も、『この地でやっていくぞ!』って決めると、そこで人や社会とのつながりを求めて、自分から動いて、何かをつかもうとしますよね」
登美さん:
「自分の手で、って大事よね。いまは世の中が豊かで、なんでも手に入るから、自分で手に入れるおもしろさを見つけにくいのかもしれないですね。
買うのがあたりまえだと思っているものも、気が向いたら作ってみるの。おはぎだって、簡単に買えるけれど作ってみたら楽しいし、おいしいと言ってもらえるとうれしいものですよ」
▲わたしたちが到着したとき、登美さんはまさにおはぎ作りの真っ最中。大鍋ふたつにたっぷりのあんこを炊き、100個ほどこしらえたそうです。
誰かが決めた結果や方法を待つのではなく、自分の手を動かし生み出していく。もしかしたらしあわせのヒントは、そのプロセスにあるのではないかと思えてきました。
そうはいっても、仕事に家事に子育てに、さまざまな人間関係……、あれこれ追われる毎日には、手作りをする時間や、道端に咲く花に気づく心の余裕すらないときもあるかもしれません。おふたりに、そんなことを伝えてみました。
自分だけの「好き」が暮らしを楽しむ力に
由紀子さん:
「ときには『あきらめる』というのも大切だと思います。わたしも人がうらやましくなったり、比べちゃったりすることもいっぱいありますよ。完璧な人に憧れて、なんでもやろうと思うとしんどいですよね。だから、自分にそれは必要ないと思ってあきらめるんです。そのほうがうんと楽になれます。
しんどいときは、毎日やっていた洗濯を三日に一回にしてみるとか、そんな簡単なことでもいいと思います。
しあわせって、正解があるものではないですよね。どっちがいいか迷ったときに、誰かに選んでもらう方が安心だし、楽ちん。でも、自分で動いて選ぶことを楽しんだほうが、断然おもしろいと思います」
登美さん:
「正解とか、ほんとうの自分ってなんだろう、なんてよく言うでしょう? わたしは昔から、本や映画、音楽などの琴線に触れるものに出合ったら、必ず書き留めているんです。そうすると、見返したときに『これがわたしなんだ』と、わかります。
素直に心に感じたことを積み重ねて、自分だけの『好き』を見つけられるといいですね。それが暮らしを楽しむ力、さらには人生を楽しむ力になるのだと思いますよ」
着ても見ても元気になれる。心が整う服をまといたい
自分が楽しいこと、心地良いと思えることを重ねていく。その想いは、群言堂の服作りにも表れています。
登美さん:
「どんなにおいしくても、体に良くないものだと毎日は食べられませんよね。着る物も同じです。脱いだらホッとするものより、体が楽なもの、そして目で見て楽しめて心が明るくなるものがいい。そう思って、着心地や肌触りを特に大切にしています。
お気に入りのものを着ていると、元気な心でいられるでしょう? 服には、心を整える力があるんです」
▲ごきげんに家事ができるようにと考えられた、割烹着をベースにした二重織ツイルワークワンピース(右)。5年、10年と着ているうちに、どんどん生地がしなやかに育っていくのも特徴です。
群言堂の服は、糸を染め、生地を織るところから始まります。全国各地の生産者と一緒にものづくりをすることは、受け継がれてきた技術を守ることでもあるのです。
登美さん:
「完成した服の向こう側に、生地を作ってくださる人、縫製してくださる人たちが見えるんです。そういう服は大事にしたいと思いますし、はぎれですら無駄にはできません」
▲取材時あちらこちらに見られた赤い実は、群言堂で衣服の染料としても使われる洋種山牛蒡。
由紀子さん:
「気に入って長く着たお洋服は、手放すのが心苦しいものです。最近は、繕いたい部分がある、色あせが気になってきたという方のお直しや染め直しをお受けする『お気に入り相談室』というのも始めました。
気軽に選んだ服は、気軽に捨ててしまいがちです。だからこそ毎日着るものは慎重に選びたいですし、20年着たいと思ってもらえるものを目指して作っていきたいですね」
体が楽で、肌に触れて心地よく、物語がある。そんな服に身を包むことも、しあわせに暮らす一歩のようです。
実は、わたしたちが大森町に到着したのは豪雨というタイミング。撮影を前に、がっくり肩を落としたのは言うまでもありません。
でも、雨の狭間を縫うように町を案内してもらっているうちに、これも悪くないと思えてきたのです。縁側で聞く雨音は風情たっぷりだし、雨上がりの庭にはしっとりと輝く緑がありました。ありのままを受け入れてみれば、どちらも、晴れの日には出会えなかった景色だと気づけます。
田舎でも都会でも、降っても晴れても。しあわせはどこでだって見つけられるのかもしれません。青い鳥を探しに大森町に出かけたら、その鳥はわたしのすぐそばにいた。いまは、そんな気持ちでいっぱいです。
▼群言堂についてはこちらよりご覧ください
▶︎お気に入り相談室の取り組みはこちらから
【写真】神ノ川智早
もくじ
松場登美
1949年三重県生まれ。「石見銀山生活文化研究所」代表取締役所長。結婚を機に、夫の故郷である石見銀山で暮らし始める。1994年にアパレルブランド「群言堂」を立ち上げる。2021年には石見銀山の町を再生・活性化させたことが評価され総務省主催「ふるさとづくり大賞」内閣総理大臣賞を受賞。『過疎再生 奇跡を起こすまちづくり: 人口400人の石見銀山に若者たちが移住する理由』(小学館)など著書多数。
峰山由紀子
1978年松場登美の次女として愛知県で生まれる。3歳から石見銀山で暮らし、高校入学を機に町を離れる。アメリカや関東での学生生活を通し、暮らしの在り方や田舎暮らしの魅力について考え始める。1999年に「石見銀山生活文化研究所」入社。店舗スタッフ、企画担当等を経て、2022年より代表取締役副所長。石見銀山での暮らしを楽しみながら、豊かなライフスタイルの在り方を発信している。
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