【力を抜きたい日の食卓へ】第五回:欲張らず、肩肘張らず。おでん作りは、上手な生き方に似ている
麻生 要一郎
寒くなると、おでんが恋しくなる。
おでん屋さんに出かける楽しさは、「牛すじ、厚揚げ、ごぼう巻き、竹輪、白滝と卵」と、好みに合わせて都合よく色々食べられる事である。お馴染みだった銀座7丁目関西風おでんの店は、いつの間にか閉まっていた。一昨年位に、確かこの辺りだったはずだと、通りを何度も行き来して、店がなくなっているという事に気がついた。
季節になると訪問するのが楽しみだった。でもお店は一年中やっているのだから、寒い時期ばかりじゃなくて、夏も来るべきだったと後悔した。行けなくなってしまったお店が、また増えた。
久しぶりに家で作るかと思い、おでんだね屋さんへと足を運ぶ。たくさんあると、全てが美味しそうに見えて、目移りしてしまう。ごぼう、ゲソ、ウィンナー、焼売、紅しょうが……ちくわ、はんぺん。ついつい欲張って色々選んでしまう。二人だから一個ずつで丁度良いはずが、対面でお店の方がとって下さると「二個ずつお願いします」なんて見栄を張ってしまう。
卵に野菜、こんにゃくの類も色々、入れたら土鍋では収まらずに寸胴鍋の出番である。練り物がふっくらとして、寸胴すら溢れかえる勢い、これを二人で食べるのかと思うと、さすがにちょっとうんざりしてくる。もちろん味は美味しいけれど、食べている途中から飽きてくる、練り物はひとり一個じゃなくて、ふたりで一個で良かったかなあと思い始めるうちに、お腹はふくらんで、鍋にはまだ練り物が可愛らしくぷかぷかと浮いている。
取り分けていても、なんだか同じようなものを押し付ける感じがして野暮に思えた。少量を作るのが苦手な僕には向いていないと、家おでんを封印した。
ある時、家人と街を歩いている時、佇まいの良いおでん屋の暖簾をくぐった。関東炊きの、しっかりとした濃い味わいは、美味しかったけれど、僕の好みではない。子供の頃に、母が家で作るおでんは、ほぼ出汁の淡い味わいだった。卵と、じゃが芋をいっぱい食べた記憶がある。
ある時、卵をたくさん頂いた寒い日、冷蔵庫をあけると中途半端な竹輪が1本あった。家人の故郷の青森産「かもめ竹輪」は、見かけるとつい手が伸びる。
他の竹輪達は、きゅうりを中に通して食べたのだと思う、群れから逸れたかもめ竹輪1本、大根もあるし、おでんでも作るかと思って、大きめの雪平鍋に入るだけと決めて、大根も1カットに限定、卵、竹輪、しらたき、野菜室のミニトマトを豚バラで包んで竹串に刺す、どちらもあまり物同志の顔合わせ、豆腐を半丁…出汁をひいた後の昆布も、無駄にせず一口大にカットして加える。家で食べるんだし、わざわざ結ぶ必要もない。
そんな感じで、食べ切りのおでんをやったら、とても楽しかった。大きめのどんぶりに入れて、食卓へ。味のベースはあっさり、出汁だけ。素材が持ち寄る味で結び、芥子ではなく、黒七味や柚子胡椒で頂く。
この作り方にすると、おでんに対する決まり事のようなものがなくなって自由になる。野菜を取り寄せるとよく入っているカラフルなニンジンも、このおでんに加えるととても美味しい。出汁だけなので、どんな食材ともマッチする。練り物は美味しくて、選ぶのも楽しいけれど、いくつも入れると飽きてしまう。
おでん作りは、上手な生き方に似ていると思う。欲張らず、肩肘張らず、日々作るのも食べるのも飽きないように。冷蔵庫を開けて、ちょっと気になる残った食材を組み合わせて、我が家のおでんを作ってみて下さいね。きっと、美味しいから。
自由なおでん
材料
だし 適量(昆布とかつお節)
ミニトマト 4個
豚バラ肉 4枚
卵 2個
にんじん(今回は小さな間引きにんじん)2本 (金時人参)1/3本
しらたき(結んであるもの) 4個
かぶ(大きめ) 1個
豆腐 半丁
せり 1束
作り方
1. ミニトマトを豚バラ肉で包んで、竹串に2個ずつ刺しておく。茹で卵を作っておく。
にんじんとかぶは、皮を剥き食べやすい大きさに切る。(小さなにんじんならば、そのままでも良い)
しらたきは湯通して、アク抜きしておく。(アク抜きが必要ないものは洗っておく)
豆腐は1/4大に切る。
せりは、根をよく洗って食べやすい大きさに切る。
2. 鍋にだしを入れて、火を付けて、卵、にんじん、かぶ、しらたき、豆腐を入れて味が染みるまで10分程煮込む。ミニトマトと豚バラの串を入れて、火を通す。
3. 食べる直前にセリを加えて、完成。器によそい食卓へ。
だしのひき方
材料
水 1リットル
昆布 20g
かつお節 20g
・水の中に昆布をしずめて10分ほど置く(半日、一晩と時間をおいた方が旨味が出やすいのは確かなのですが、忙しい方は10分程で良いので昆布が柔らかさを取り戻すくらいでOK)
・弱火にかけて旨味を引き出し沸いたところで、昆布を取り出し、火を止めてかつお節を入れる。
・かつお節が沈んだら、ボウルにザルを重ねてキッチンペーパーなどを被せてこす。
豆腐は、普通の一丁を買うと二人だとちょっと多い。でもパックを開けたら、残りの半丁は持ちこさずに使い切りたいもの。そんな時には、簡単に白和えにするのがオススメです。
白和え
材料
豆腐 半丁
せり 半束(おでんの具材の残りなどを活用)
すりごま 小さじ1
かつお節 1.5g(細削り)
だし 小さじ2(おでんのだしを活用)
作り方
1. 豆腐は布巾に包んで重石をして、水気を切り、せりは軽く茹でてから、冷水にとって水気をよく絞ったら、5ミリ幅に切る。
2. 豆腐は、ほぐしながらボールに入れて、せりを加えて、すりごま、かつお節、だしで味を整える。(せりに限らず、三つ葉や春菊でも美味しい)
家庭的な味わいのお弁当が評判となり口コミで広がる。雑誌への料理・レシピ提供、食や暮らしについてのエッセイなどの執筆を経て、初の単行本『僕の献立 本日もお疲れ様でした』(光文社刊)を発行。2022年1月には第2弾『僕のいたわり飯』(光文社刊)も。
Instagram:@yoichiro_aso
フォトグラファー。1974年3月東京生まれ。雑誌、単行本で主に暮らしまわりを撮影。 好きな被写体は人物と料理。著書に、17組の人とその人の作った料理を撮り、文章を綴った『人と料理』(アノニマスタジオ刊)がある。他に『まよいながら、ゆれながら』(文・中川ちえ)など。
Instagram:@wakanababa
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