【カフェのマスターという生き方】第2話:好きなものにはとことん夢中に。転機となったふたつの出来事

ライター 長谷川未緒

忙しい毎日に、ほっとひと息つくカフェでのコーヒータイムは、自分へのごほうび。

この特集では、そんな時間を過ごすのにふさわしい「café vivement dimanche(カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ)」のマスター・堀内隆志(ほりうち・たかし)さんに、お話を伺っています。

第1話では、鎌倉の地でカフェを始めた当初を振り返っていただきました。続く第2話では、1994年のオープンから29年続けてきた中で、転機になったというふたつの出来事について、お聞きします。

第1話から読む

 

ブラジル音楽との出会いが、最初の転機に

パリにあるようなカフェの雰囲気に憧れて店作りをしていた堀内さんでしたが、90年代後半からブラジル音楽にはまっていったのだとか。

堀内さん:
「フランスの映画を見ていると、ボサノヴァっぽい音楽が使われたりしていて、いいなぁ、とは思っていたんです。子どもの頃から好きなものにはのめり込んでしまうタイプなので、もっと本格的なものを知りたいという気持ちが強くなって。

『ドミンゴ』というアルバムを聞いたときに、ボサノヴァの軽やかなだけじゃない、もっと深いところにある魅力に気づき、定休日のたびに、ブラジル音楽のレコードを探しに行くようになりました。

CD屋さんを始めるお客さんが、ブラジル音楽の仕入れに行くからと誘ってくれて、東京にある中南米の音楽を扱う輸入業者に一緒に行ったり、ボサノヴァの勉強会みたいなイベントをここでやったり。

自分を表現する場所がここですから、ウケそうだからやるという気持ちは昔も今もまったくなく、自分の好きなものを紹介しています。ですから当時は店で流す音楽も、だんだんコアな方向に向かっていきましたね」

 

新しい方向に進みたいという思いも

ブラジルに情熱を捧げるうちに、店には変化も。

堀内さん:
「離れてしまったお客さんもいましたし、新しいお客さんとの出会いもありましたね。

正直なところ、カフェブームみたいなものになんとなく疲れていたので、新たな方向がないか探していました。それが自分にとってはブラジルだったんだと思います。

好きで続けているうちに、CDの解説とかレビューの話をいただくようになりました。

当時、カフェミュージックとしてボサノヴァをみんな選んでいましたけど、それだけではちょっと終われないというか。なんて言うんですかね……」

堀内さん:
「ブラジル音楽ファンの集いに行ったときに、『カフェミュージックとして語られるのいやだよね』みたいなことを話しているひとたちがいたんです。

それを聞いて、そうだよね、軽く扱われているような感じがするものね、と思ったけれど、自分は本当に好きで真剣に聴いていたから、カフェのマスターとしては、もっと詳しくなって、そういうことを言われないようになりたいと思い、ブラジルに行こうと(笑)」

堀内さん:
「2002年にボサノヴァ歌手であるナラ・レオンのCDの選曲をすることになり、初めてブラジルに行きました。お墓参りに。

現地に行ったらさらに傾倒して、この国には紹介したいものがたくさんあるなって感じましたね。

ブラジル音楽の魅力ですか? なんでしょうね。サウダージという言葉があって、よく郷愁という言葉で例えられるんですけれど、やっぱり、懐かしい気持ちになるんです。

音楽を聞いていてもそうですし、ブラジルのひとたちと接していると、明るいし、すごくフィーリングが合いました」

はまりにはまって、2002年にはdois(ドイス)というブラジルの雑貨を扱う2号店を、2006年にはclaro(クラーロ)というブラジルのCDを扱う3号店をオープンしました。

堀内さん:
「毎年のようにブラジルに行っていましたが、コアな方向に進みすぎてしまったのか、2009年ぐらいから売り上げがちょっとずつ落ちてきて……。

妻からも『そろそろコーヒーに戻って来たら?』と言われてしまったんですよ」

 

焙煎に取り組むことになって、再び転機に

堀内さん:
「ちょうどその頃、コーヒー豆を仕入れさせてもらっていた方が病気になってしまったんです。

カフェを始めたときから、将来は自分で焙煎したいという気持ちはあったんですけれど、信頼できる仕入れ先の方がいたし、当時自分がこの場所でやりたいことはブラジルの音楽や文化を紹介することだったので、なかなか始められなかった。

でもいよいよ自分でもやらないとだめだな、と」

大きな焙煎機が置けて、匂いや音について気を使わなくて済む家を見つけて引っ越し、2010年からは、いよいよ焙煎をするようになりました。

もともとコーヒー豆を仕入れさせてもらっていた方の味を継承したいという気持ちが強く、同じ焙煎機を買い、同じ仕様に改造もしましたが、非常に難しかったのだとか。

堀内さん:
「15年くらいマスターをやっていたので、自分の好きなコーヒーの味は確立していたし、再現できると思っていたんです。ところが全然できなかった。

機械だから一定にできそうなものなのに、そうでもないんです。焙煎機の個性を掴むまでに、時間がかかってしまって」

堀内さんほどのひとでも、セミナーに通って習ったと言います。

堀内さん:
「どうして驚くんですか(笑)。15年カフェのマスターをしていても、焙煎は初心者なので、なんでも学ばないと。

あんまり大きな声では言えませんが、最初は豆をずいぶんダメにしました。お店に出せるレベルじゃないから。

ずっと悩んでいましたね。それこそノイローゼになるんじゃないかなと思うくらい。嫁さんにも考えすぎと言われて。

人に飲んでもらうとおいしいって言ってくれるんですよ。でも自分では違う。

このレベルで出しているお店はたくさんあるかもしれないけれど、自分がお金を出すとしたらどうかな、というのがひとつの判断基準としてありました」

堀内さんが目指すコーヒーのおいしさは、ひとことではいえないものの、すーっとのど越しがよく、じんわりなめらかに味わいが残る、そんなおいしさ。豆の個性もあるものの、焙煎の段階で決まる味わいも大きいのだとか。

納得のいく焙煎ができるようになるまでに1年近くかかり、ようやく店に出せるか出せないかというところまできたとき、なんと入院することになってしまいました。

堀内さん:
「腸の具合が悪くなっちゃって。

もともと胃腸が強くないところに、いろいろあったんでしょうね。疲れというか、気苦労もあったでしょうし。

手術とかそんなんじゃなくて、点滴とか投薬治療で、10日間入院しました」

退院した直後、東日本大震災が起きました。

震災後はブラジル雑貨を扱っていた2号店とブラジル音楽の3号店を畳み、マスターとして、1杯のコーヒーに濃く向き合うようになったという堀内さん。

続く第3話では、店に対する向き合い方の変化やこれからについて、お聞きします。

(つづく)

 

【写真】小禄慎一郎


もくじ

 

堀内 隆志

カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュのマスター兼ロースター。カフェ業の傍ら、FMヨコハマ 毎週日曜 7:25〜「by the Sea COFFEE & MUSIC」、湘南ビーチFM 毎週日曜 15:00〜「Na Praia」、FMおだわら 最終週の火曜20:00〜「Radio Freedom」「Navio」でトークと選曲をしている。今年、お店は29周年を迎える。

Instagram @cvdimanche

 


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