【あのひとの子育て】本多さおりさん〈後編〉よく見て、考えて、やってみる。何度でも。子育ても収納も同じです。

ライター 片田理恵

整理収納コンサルタントとして、片付けや収納を中心に、家づくり、子育てなどの家族のライフスタイルを発信している本多さおりさん。前編ではふたりの息子さんたちと格闘しながら、ちょうどいいやり方を模索していく日々のお話を伺いました。

続く後編では、全く違うようで実は共通点があると感じている、収納の仕事と子育ての考え方や取り組み方について、お聞きします。

前編から読む

 

子育てと収納は似ている

整理収納は「もののしまい方」だと思っていました。台所であれ、クローゼットであれ、正解を教えてもらいさえすれば問題は解決する。だから正解のない子育てとは全く違う、って。けれど本多さんの言葉で、それは誤解だったと気づいたんです。

整理収納とは「日々の暮らしがまわしやすいよう、収納や動線の仕組みを計画しておく」こと。そしてそれは「自分を助けるために考える」のだと、本多さんからのメールには書かれていました。前編で伺った息子さんの朝の支度のエピソードはまさにそれ。と、いうことは?

本多さん:
「子育てと整理収納には、共通する部分があると思っています。『息子がなかなか起きられない』でも、『この棚の食器が取り出しにくい』でも、そこには必ずうまくいかない原因、問題が存在しているはず。だから私は、まずそれを見つけることから始めようと思って」

 

やってみてダメなら次、それもダメならまた次

問題の探し方はとにかくよく「見る」こと、と本多さん。どんな流れの中で何が起こっているのかを観察し、どこが問題なのかが見えてきたら、それを解決するための仮説を立てるのだといいます。

本多さん:
「あとは仮説に基づいて、考えたアイデアをとにかく試してみる。やってみてダメなら次、それもダメならまた次と、次の手をどんどん繰り出していきます。暫定的にこれでいこうと決まってもそれで終わりではなく、状況や変化に合わせて日々アップデートしていくという感じですね」

観察、発見、仮説、実験。これまで整理収納の中で獲得してきた考え方のプロセスは、子育てにも通じる。どんな大変さを感じる時でも、慣れ親しんだやり方が自分を助けてくれると気づけたら、子育てに取り組む上で大きな支えになりそうです。

本多さん:
「ちょっとしたストレスでも放置せず、仕組みが自分の味方になってくれるよう、環境を整える。私にとっては、それを考えて工夫すること自体がストレス解消でもあるんです。

子どもはどんどん育っていくので、家の使い方や収納もそれに合わせて変化するスピードが速くなりました。次々とお題を出される大喜利だと思って楽しんでいます(笑)」

 

苦しいことがあった日も、大切な一日

そんな大喜利のお題のひとつが、思い出の整理。

本多さんが2冊のノートを見せてくれました。息子たちの成長をふたりそれぞれにまとめた真っ白なノート。保育園で作った工作は写真に撮り、誕生日カードや手形足形は必要な部分を切り抜いて、家族で観に行った映画の半券も一緒にペタッ。隣には日付をメモしておきます。

本多さん:
「いつまでも保存しておくことはできないので、一定期間は壁に飾ってひとしきり家族で鑑賞したら、お気に入りのものをノートに残して処分します。意識しているのは時系列に並べること。見返した時に成長の過程がわかるのでいいですよ」

本多さん:
「子育ての日記や記録はほとんど書きません。意外に思われるんですけど、文章を書いたり気持ちを表現したりするのが昔からすごく苦手で。

それでも時々、書かずにはいられないことがあります。それは楽しかった日じゃなく、苦しいことがあった日。気持ちのやり場がなくて、でもどこかにぶつけたくて、ノートに吐き出すというか。

いつか子どもたちが見ることを考えると、ネガティブなことは書かない方がいいのかもしれない。だけどそれも含めて私の子育てかなと思うので、そのままにしています」

 

子育てがいい思い出だと、いつか言えるように

「子育てが始まってから、平和な日なんて1日もなかったです」。

本多さんの言葉がまんざら冗談とも思えないのは、その気持ちがわかるから。語尾に「(笑)」なんてとてもつけられないような苦しい時があると、知っているから。

だけど苦しさをそのままにしておくわけにはいきません。みんなが笑顔で暮らせるように、それぞれが心地よく過ごせるように、見て、考えて、やってみる。何度でも。日々のアップデートはこれからも続いていきます。

本多さん:
「今は『子育てって楽しい』とはとても言えない状況で、むしろ『放り出せるなら放り出したい』くらい。だけどいつかきっと、子育てをいい思い出として振り返れる日が来ると思うんです。それを楽しみに、大喜利に答え続けていこうと思っています」

(おわり)

 

【写真】神ノ川智早

 

本多さおり

整理収納コンサルタント。夫と長男、次男との4人暮らし。片付けや収納を中心に、家づくり、子育て、無印良品などのテーマで執筆・発信を行うほか、2021年からはオンライン収納相談も本格スタート。9月に発売になった新刊『旅は暮らしの深呼吸』ほか、著書多数。

https://hondasaori.com/

『旅は暮らしの深呼吸』(集英社クリエイティブ)

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