【人生の波もよう】2話目:大人のいまこそ自分探し。やっと見つけた、わたしの現在地
ライター 藤沢あかり
人生には、やる気がみなぎりなんでもバリバリこなせるような時期もあれば、理由はわからないけれど気持ちがついていかない、うまくいかない、なんだか不安に思う、そんな時期もあります。
きっと、それは誰しもあること。上がったり下がったり、心身の波や生活、ライフスタイルの変化。年齢を重ねることは、さまざまな変化と付き合っていくことなのかもしれません。
だからこそ、できることなら、いまの自分をちゃんと受け入れながら、未来が楽しみになるような希望も持ち合わせていたい。同じように大波小波に揺られながら少し前を行くひとや、目指す場所が見えていたら、きっと大丈夫。そう思ったときに、イラストレーターの柿崎こうこさんのことが浮かびました。
1話目では、「いけてない自分は嫌だ」と感じた20代、そしてのぼり調子の30代を経てやってきた「グレー」の40代ついてお聞きしました。
薄暗いトンネルを歩いていた柿崎さんに50歳の入口が見えはじめたころ、大きなターニングポイントがあったようです。
第1話はこちら
悩みも不安も希望も、すべて取り出しぶつけてみたら
大きく動くやる気は出ない。だからこそ、小さな「好き」を探して、あれこれ試行錯誤を繰り返していた柿崎さん。あるときイラストの仕事を通じて知り合った編集者から、インテリア取材の依頼が舞い込みました。
柿崎さん:
「興味のあるものをいろいろ試しているうちに、『もしかしたら、お部屋も好きなものを集めて楽しんでいるんじゃないですか?』と、お声がけをいただいたんです。これまではインテリアや暮らしについて積極的に発信したことはありませんでしたが、家を自分好みに整えていく作業は大好きで、それまでも自分なりに楽しんでいたんですよね」
はじめてのオファーに、この波に乗ってみよう!と感じ、取材を引き受けることに。そこから柿崎さん自身の「いま」を表すような一冊をつくることにもつながりました。
それが、「50歳からの私らしい暮らし方」(エクスナレッジ)。衣食住、こころと体、50歳の現在地をありのままに伝えたエッセイです。
柿崎さん:
「といっても、すぐに本ができたわけではないんです。そもそもどんな本を作るかも決まらず、編集さんと、何度も何度も話し合いながら方向性を決めていきました。書きはじめるまでに、かれこれ2年くらいかかったんですよ」
最近気になっていること、悩んだときの対処法、体調の整え方やお金の不安、ひとり暮らしの料理の工夫、お肌の曲がり角。きっと、同世代なら誰しも思い当たることがありそうな、変化や悩みの波、それを楽しむアイデア。
そんな自分の内側にあるものを取り出して、第三者と一緒に眺めてみる。思いを伝えたり、意見をもらったり、心のうちを交換したり。その作業を繰り返すうちに、いまの自分が大事にしたいもの、これからの生きかたが、どんどんクリアになっていきました。
柿崎さん:
「正直、いまの自分をすべてを洗い出すのはすごく苦しくて大変で、まるで壁打ちのようでした。でも、これが完成したら、その先にきっと明るい50代が待っている!という確信があったんです。
わたしには当たり前で、これまでひとりで完結していたことも、『それおもしろいですね』『へぇ、そんなの初めて知りました!』という言葉をたくさんもらえたのが自分を客観視して、深く知る手がかりになりました。自分だけでは気づけないものなのですね」
▲長く仕事を続けていくためにも、食事の大切さを再認識。黒豆や地元・青森産のもち麦を混ぜた土鍋ご飯にお味噌汁を添えるだけで、無理なく栄養バランスの取れた食卓に。
自分のことは、自分がいちばんわかっているようで、実は見えていない部分がたくさんあります。
内省するように自分と向き合うことも大切だけれど、ときにはその思いを真ん中に置いて、誰かとおしゃべりしてみると、新しい視点が見つかるのかもしれません。
人と人とは、コミュニケーションで結ばれているから
柿崎さん:
「いままでは、いろいろなことが独りよがりだったと思うようにもなりました。話すときや、SNSで文章にするときも、自分のやり方で『伝える』ということをしてきたし、むしろそれが得意なほうだと思っていたのに。
でも、伝えたいと思っていることが想像以上に伝わらなかったり、違ったように受け取られたりしてしまうこともあるんですね。本づくりのなかでも編集さんに見てもらうことで、ユーモアのつもりの自虐が誰かを傷つけることもあるし、余計な一言だってあるのだと知る機会がたくさんありました」
確かに、仲がいい人なら「はーい」の一言で伝わることも、関係性によってはちょっと冷たく受け取られることもあります。SNSやLINEのようなテキストコミュニケーションでは、なおのことです。
かつては、ちょっぴり苦いこんな経験も。
柿崎さん:
「頼まれごとをされ、お相手に迷惑をかけないように熟考したいと『ちょっと考えてみますね』とお伝えしたつもりが、あとから人づてに『嫌な顔されちゃって』と受け取られていたと知ってショックを受けたんです。でも、わたしも言葉が足りなかったんだなぁと反省しました。
悩みのなかでも、人間関係にまつわるものって多いですよね。やっぱりコミュニケーションは大切だし、自分のことを話すときにも少しだけ客観的な視点をもつ大切さを知れたのは、大きなことだったと感じています」
「楽しそう」のアンテナを信じて、素直に、身軽に
本の完成と前後するように、インテリアや暮らしの様子の取材を受ける機会も少しずつ増え、最近では、故郷・青森のテレビ局でのレギュラー出演も始まりました。もしあのとき、「お部屋は見せません」と断っていたら? そもそも、40代で興味のあるものを見つけようと動いていなかったら? きっと、いまとは見える景色が違っていたはずです。
柿崎さん:
「もともと、腰の重いタイプなんです。自分から人前に出るタイプではないし、テレビなんて、とんでもないという気持ちもありました。でも、小さなきっかけで新しいことが始まり、思いがけないかたちにつながっていくことは、本づくりをはじめ、いろいろなところで経験してきました。
だから、やってみたら楽しそうだと思えることは素直に乗っかっていきたいです。動けばチャンスがあるし、逃したらもったいない。この先、やっぱりやりたいと思ってもそのときに気力があるかもわからないですよね」
▲40代よりぐんと楽しくなったのが、50代のメイク。「遠ざけていたピンクも、いまの顔色を華やかにしてくれるのだと気づき、気軽にチャレンジしています」
柿崎さん:
「そうはいっても、40代はわたしも大きくは動けなかったし、その目的すら見つけられませんでした。だから動くのが大変だという気持ちもわかるし、『みんな、どんどん動いたほうがいいよ!』とはなかなか言えません。
いま振り返ってみると、あのころのしんどさはホルモンバランスの変化もあったのかもしれません。どうしようもないときもあるし、周囲も40代に不調を感じているひとは多いように思います。
だから自分のできる範囲で、小さくてもいいんですよね。そんなふうに進んでいけたらと、いまは思っています」
あちこちで活躍するひとを目にすると、どこかまぶしく、自分とは違う世界だと思う自分がいます。柿崎さんも、わたしにとってはそんなひとでした。
でも、できる範囲で、小さくてもいい。そうやって動けることを見つけながら、少しずつ前に進んできたことを知ると、なんだか自分にも真似できそうな気がしてきます。
3話目では、人生の棚卸しのような見直しを経て、「ちょっと大きく動けるようになった」という柿崎さんの、最近の変化をお届けします。
【写真】吉田周平
もくじ
柿崎こうこ
イラストレーター。日々の食、美容、健康、快適な暮らし方をテーマに、雑誌や書籍、広告媒体で活躍中。近著に「50歳からの私らしい暮らし方」(エクスナレッジ)、2024年春、大人の健康と美容をテーマにしたイラストエッセイを刊行予定。
instagram:@kakizaki_koko https://www.kakizakikoko.com/
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