【やさしい養生】前編:夏の身体と上手に付き合うために。東洋医学の専門家を訪ねました

編集スタッフ 野村

「夏が好き」と言えない自分がいます

夏は、楽しいことが目白押しで快活な季節だなぁと思う一方、厳しい暑さを前にすると、ぐったりと疲れが前面に出て気分は曇りがち。

今年こそは、夏に助かる知恵を正しく知り、もう少し気持ちにゆとりをもって夏を過ごせたら……。

そこで今回は、日常で継続して取り入れられる、医学や薬膳のノウハウを持つ専門家のもとを訪ねました。

訪ねたのは、表参道にある源保堂鍼灸院。大通りの喧騒から離れ、一歩脇道へ入って住宅街を進んでいくと、その一角に静かに佇む鍼灸院の入り口が見えてきました。

副院長であり、国際中医薬膳師の瀬戸 佳子(せと よしこ)さんに、ご自身の薬膳師になるまでの歩みもあわせて、お話を伺います。

 

会社員を経て、薬膳師に?

▲東洋医学の知恵をやさしく伝えてくれる瀬戸さんの著書

源保堂鍼灸院は、瀬戸さん夫婦が営む鍼灸院。夫の郁保さんが鍼灸の治療を行い、瀬戸さんが薬膳・漢方相談の窓口となり、患者さんへアドバイスを行なっています。

瀬戸さんのもとへ訪ねた大きな理由のひとつが、会社員を経た後、東洋医学の道へと進んだという経歴に興味を持ったからでした。

東洋医学のどんなところに惹かれ、今の仕事に就いたのでしょうか。私自身、縁遠いと感じていた東洋医学のことを、より身近に感じられるお話が伺えるかもと思い、まずはそんな質問をしてみました。

 

豚肉と山芋が、からだを助けてくれた

瀬戸さん:
「会社員として一般企業に勤めていた時に、突発性難聴を発症してしまいました。

病院で診てもらったけれど、特効薬があるわけではなくて……。さまざまな薬を組み合わせて治療していくのですが、症状が残る可能性もあると言われていました。

そこで鍼灸師であった夫にも診てもらったところ、当時の私は東洋医学で言う『腎虚(じんきょ)』の状態という診断。そこで、鍼の治療に加えて、豚肉と山芋を食べるといいよ、とアドバイスをもらったんです。

鍼の治療を続けながら、言われた通りの食材をなるべく多く食べるように生活していたら、1週間ほどで体調が良くなっていて。フラフラするし、耳もなんだかおかしいと感じていた症状が、すっかりなくなっていました。

東洋医学の知恵を借りると、こんな風に体調が良くなるんだと実感したのは、今の仕事に興味を持つ大きなきっかけになりました」

瀬戸さん:
「その日以降、健康になるために、もっとできることがあるんだったらやってみたいという気持ちが湧いたんです。東洋医学ってそもそも何だ? というところから、ネットや本を使い、夫にも色々と教えてもらいながら、空いた時間で調べていました。

そうやって過ごすうちに、独学では学びきれない学問だなと、その奥深さも感じていて。そこで、東洋医学をもっと体系立てて勉強できる学校があることを知って、学びに行こうと思ったんです。

当時はまだ会社員をしながらでしたが、隔週の土日に勉強しに行く、という形であれば続けられそうだなと思い、その学校に入学。1年間通った末に、薬膳師の資格を取得しました」

 

治療に地続きの「暮らし」にも、目を向けて

資格を取得した後も、会社員として働いていた瀬戸さん。その後すぐ、夫が一人で営んでいた鍼灸院が忙しくなり、身につけた基礎知識を活かせるかもと、完全に東洋医学の道にシフトしたそう。

瀬戸さん:
「夫が一人で鍼灸院をしていた時は、今のような漢方相談は行なっていませんでした。ただ、私がしてもらったように、患者さんの症状に合わせた食事のアドバイスは行なっていたんです。

当時受付担当だった私は、ただ受付をするくらいなら薬膳の知識をベースに何か役立つことができればと思い、患者さんへ簡単な補足的なアドバイスをさせてもらうようになったんです。

例えば、玉ねぎを食べてくださいね、と先生に言われたとします。じゃあ具体的にどんな風に調理すれば継続しやすいかなといった視点で、レシピのレパートリーを出してみたり、玉ねぎが苦手な方だったら他に代替できる食材で提案してみたり」

瀬戸さん:
「私自身、学校で学んだ生薬を、実際の食事に取り入れて試してみたことはあります。でも実生活で試すには、手に入れるのも、調理法を調べるのもハードルが高く、なかなか続かないと感じて。

だから治療に地続きの暮らしの中でも試しやすいアドバイスができれば、その治療の効果はより継続するのではと思って、患者さんたちとお話していました。

患者さんの中には、鍼灸の治療にあわせて漢方も紹介できれば、より体調が改善するかもと感じる方もいらっしゃったんです。そこで、鍼灸院に漢方薬店を併設する今の形の構想ができてきました。

薬膳師の資格や知識は持っているから、あとは医薬品販売の登録販売者の資格をとれば、漢方薬店を開業できます。それで登録販売者の資格も取って、今の漢方相談の窓口を開業することができました」

 

身体を冷ますのは、旬の食べ物

東洋医学の知恵を、より実生活で試しやすいアイデアとして落とし込む形で、患者さんたちの相談に乗っていた瀬戸さん。そんな瀬戸さん自身が、夏を過ごす上で大切にしていることを伺ってみました。

瀬戸さん:
「普段から一番に気をつけていることは、旬のものを食べることです。夏なら、夏野菜をちゃんと食べるということですね。

夏野菜には、体の中に蓄積した熱をうまくさばいて、体を冷ますのを助ける効果があります。

夏の始めの今ならトマトやきゅうり、真夏にはスイカや苦瓜、残暑の季節にはナス、と季節の移り変わりや、暑さや湿度の程度にあわせて、食材を切り替えていくのが大切です」

瀬戸さん:
「もっと簡単な対策で言うと、トマトジュースなどの加工品に頼ることもありますよ。

院内で私たちは白衣を着ている分、患者さんより厚着になっていることが多く、暑さを感じやすい。なので休憩時間などでトマトジュースを飲むことで、夏野菜の摂取と同様の効果を得られます。

夏場を快適に過ごすことや夏バテ対策の基本は、旬の食べ物を取り入れること。これは案外効果的ですよ」

 

湿気対策に、食生活の見直しも◎

瀬戸さん:
「夏は暑さだけじゃなくて、湿気も体内にたまってしまうもの。湿気がたまると、体内の色々な動きを阻害し、体が重だるく感じてしまいます。

体内に湿気がたまる主な原因は、実は食べ物にあります。特に、冷たいもの・甘いもの・脂っこいもの・生モノは、体に湿気をためやすい食べ物です。

暑いから冷たい飲み物をたくさん飲む、サッパリしたいから夕ごはんにお刺身を食べる、夜寝る前にビールとアイスクリームを……という風な食生活だと、どんどんと体に湿気がたまり悪循環をつくってしまっている状態です」

▲瀬戸さんが愛飲中のお茶たち

瀬戸さん:
「和食中心の食事、間食を控える、あたたかいものを摂取することで、湿気のだるさは少なくなっていきます。

具体的に食材を挙げると、トウモロコシ、きゅうりなどの瓜科の野菜、枝豆・そら豆・インゲンなどの豆類は湿気を取り除いてくれる食べ物です。飲み物で言えば、コーン茶やあずき茶、黒豆茶、ハトムギ茶も湿気を取り除いてくれる効果がありますよ。

夏場に食欲が湧かないという人も、冷たいものや甘いものを多く摂取している場合が多いので、できるだけ加熱したものを中心に食べるのが大切です。

ぬるめでもいいのでお味噌汁をとるようにすると、だいぶ体調が変わってくると思います。簡単にインスタントの味噌汁を飲むとか、そこにご飯を入れて食べるというのでも大丈夫です。

それと梅干しは、胃腸の調子を整えてくれるので夏の食事に適しています。さっぱりしたタンパク質を取るのも同じく効果的なので、ツナ缶やしらす、鰹節などの食材もおすすめですよ」

***

蒸し暑さがあった取材の日。立ち寄ったコンビニで普段は手に取らなかったトマトジュースを買って飲んでみると、体の中にこもっていた暑さや湿気が、少し和らいだよう。

夏の小さな味方を見つけられた気がして、今年はいつもより少しだけ夏の暑さとうまく付き合っていけるかもしれないという希望が出てきました。

後編では、瀬戸さんに、暮らしの中でできる夏バテ対策、夏におすすめな水分補給法や生活スタイルについて教えていただきます。

(つづく)

【写真】川村恵理


もくじ

 

瀬戸佳子

国際中医薬膳師。東京・表参道「源保堂鍼灸院」副院長。併設の「薬戸金堂」で、漢方相談を行いながら東洋医学に基づいた食養生のアドバイス、レシピの提案を行う。著書に『季節の不調が必ずラク~になる本』、『1週間で胃腸が必ずよみがえる気血スープ』(ともに文化出版局)、『1週間でからだが変わる いちばんやさしい気血養生』(PHP研究所)など。

 


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