【あのひとの子育て】瀬戸山雅彦さん・小澤真弓さん〈前編〉子育てってこんなに大変なの?と思い続けています

ライター 片田理恵

子育てに正解はないといいます。でも新米のお父さんお母さんにとって、不安はまさにそこ。自分を形作ってきたものを子どもにどう伝えるのか。正直、わかりませんよね。だから私たちは、さまざまな仕事をされているお父さんお母さんに聞いてみることにしました。誰かのようにではなく、子育てを楽しんでいる “あのひと” に。

連載第21回でお迎えするのは、グラフィックデザイナーの瀬戸山雅彦(せとやま・まさひこ)さんと、画家の小澤真弓(おざわ・まゆみ)さん夫妻。6歳の長女・小葉(こは)ちゃんと3歳の次女・楚乃(その)ちゃん、二人姉妹の子育てに奮闘する日々のお話を伺いました。

 

日々、悩みっぱなしです

民家のすぐそばを小さな川が流れる閑静な住宅街。白鷺の親子が空を飛ぶ練習をしているところに出会いました。

親は橋を軽々と超えて河岸へとひと息に飛ぶけれど、子どもは中間にある電線に停まって小休止。鳥も子育ては一歩ずつなのだなと思いながら、瀬戸山さんと小澤さんのご自宅を訪ねます。

小澤さんは、「北欧、暮らしの道具店」のサイトや手帳、配送用の段ボールなどにすてきなイラストを描いてくださる、私たちにとってはなじみ深い大切な作家さん。

瀬戸山さんと共同で仕事をされることも多く、ご夫婦で作られた冊子やポスターを拝見するのがいつも楽しみです。取材当日、コーヒーのいい香りとともに笑顔で出迎えてくださいました。ところがーー。

瀬戸山さん:
「本当に僕たちでいいんですかね? 子育てに関しては本当に日々悩みっぱなしというか、うまくできている気がしなくて……」

 

『日本人の妖精さんが来た!』

少し心配な様子のおふたりに、改めてお願いをしました。楽しかったことでも、悩んでいることでも、昨日のことでも、10年後のことでもいいんです。今子育てをしながら感じていることについて、一緒におしゃべりさせてもらえませんか?と。

小澤さん:
「それを聞いて、ちょっと安心しました(笑)。

そういえば先日、初めて長女の乳歯が抜けたんです。屋根に投げようかとも思ったんですが、娘の希望もあり、ヨーロッパの言い伝えを真似て『枕の下に抜けた歯を置いておくと妖精が来てコインに変えてくれる』というのをやってみようと。

そのまま置くとどこかに転がっていってしまいそうだったので、娘に小さいジップロックを渡して歯を入れさせ、枕の下に置いて寝ました。

コインは夫がたまたま持っていたポーランドの硬貨と、100円玉を1枚ずつ。

夜中にそっと中身を入れ替えておいたら、翌朝、『日本人の妖精さんが来た!』と喜んでいてよかったです。ポーランドのコインは『これ、何?』と不審がっていましたけど(笑)」

最初に話してくださったのは、こんなかわいらしいエピソード。家族の温かな関係や日々の暮らしの様子が伝わってくるようです。

「乳歯が抜ける」という出来事が家族の大切な思い出になるのは、まさに子育てならでは。そしてその演出を夫婦で話し合って楽しんでいるおふたりの姿勢も、とても素敵だと感じました。

 

夫婦は子育てのチーム

瀬戸山さん:
「長女が1歳になる頃までは、夜泣きをあやすために夜中近所を歩き回っていました。冬は寒いので抱っこひもごと毛布で体をぐるぐる巻きにして……かなりあやしい身なりだったと思います。

最近はしょっちゅう水害が起きていますね。といっても水ではなくて、コーンスープとかヨーグルトとかが、フローリングじゃなくてなぜか絨毯に落ちるんです。不思議ですよね(笑)」

そうそう! あるある! 共感で思わず笑ってしまう、そんな家族の一場面をユーモアたっぷりに話してくださるのは瀬戸山さん。隣で小澤さんもうなずいています。

瀬戸山さん:
「子育てってこんなに大変なんだと毎日実感しているので、その分だけチーム(夫婦)の結束は強くなったかもしれない。

長女はカッとなると手がつけられなくなるタイプなんですよ。だから何かあるたびにどう対処しようかって話をして。

どちらかが長女ともめている時は、クールダウンのためにもう片方が子どもの面倒を見るんですけど、どうしても気持ちの距離が近い分、ママに当たることが多いんです。

自分の気持ちが抑えられなくなるとママのせいにして怒るので、そういう時は妻には気分転換に出かけてもらって、僕が家で仕事をしながら子どもを見ています。そこは在宅ワークで助かった部分かな」

 

甘えだとわかっていても、悲しい

小さな子どもだとわかっているのに、かわいくてたまらないのに、ついこちらも感情的になってしまう。瀬戸山さんはかつて、そんな気持ちを「娘にキレられないように気を遣う日々。なんかおかしい……」とSNSに綴ったことがありました。

小澤さん:
「娘の言葉が私への甘えだとわかっていても、傷つくし、悲しい。

だから夫が子どもたちを見てくれている間に、私は私でなんとかパワーを回復させようって思って過ごしています。実家に帰って母と話をしたり、ひとりで美術館やギャラリーに行って作品を見たり。

成長とともにどんどん知恵も体力もついてくる娘たちに、気持ちで負けないようにタフになりたいです。体力の余裕は気持ちの余裕につながると思うから。子育てに必要なのは筋肉ですね!」

瀬戸山さん:
「本当にそうかも。気持ちに余裕があれば子供への言葉かけも変わってくるだろうし。

去年の大晦日も大変だったんです。僕が『今日は大晦日だから特別に好きなだけ起きていていいよ』とつい言ってしまって。妻が22時に寝たあとも娘ふたりは元気いっぱい、Netflixで『ドラえもん』を観ながら爆笑してるんです。

24時を過ぎて次女が眠くなってきたタイミングで長女にも寝ようと言ったんですが、『パパは楚乃を寝かせてきなよ』と全く寝る気なし。深夜2時半になってようやく、僕の懇願を聞き入れて渋々という感じで寝てくれました。どれだけタフなんだ、と(笑)」

それはパパがそう言ったからでしょ、と小澤さんに突っ込まれ、そうだけど、と笑う瀬戸山さん。おふたりのやりとりを聞きながら、大変なこともきっとこうやって夫婦で乗り越えられてきたのだろうなと感じました。

小澤さん:
「こんなことで悩んでいるのはうちだけなんじゃないかって不安になるんです。でもこうやって話して『うんうんわかる』と聞いてもらうだけで、気が楽になりますね」

 

ひとりではできなくても、チームなら

ひとりではない。それは子育てをする私たちの心と体を支えてくれる、何よりの安心材料だと思います。

パートナーはもちろん、両親、兄弟、親戚、友達、同僚、ご近所さん、幼稚園や保育園の先生、ママ友にパパ友、子育て支援事業のスタッフさん、電車で席を譲ってくれたあの人や、泣いている子どもにやさしく話しかけてくれたあの人も。

どうしようと言える誰かの存在があることで、解決方法のわからない問題に向き合い続けることができる。自分ひとりではできないことも何とかなると思える。それも子育てがくれる醍醐味なのかもしれません。

続く後編でお聞きするのは、瀬戸山さん・小澤さんが感じている、子どもたちとの暮らしがもたらしてくれたもの。ご夫婦それぞれの思いを話していただきます。

(つづく)

【写真】木村文平

 

瀬戸山雅彦・小澤真弓

夫はグラフィックデザイナー/アートディレクター。大阪府出身。趣味はコーヒーとレコード。妻は絵描き。東京都出身。ひとりになりたい時は美術館に行く。夫婦共同での仕事も多数。6歳の小葉ちゃん、3歳の楚乃ちゃんと4人暮らし。

インスタグラム: @setoyama_masahiko 、 @ozawa_mayumi

 

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