【しなやかな家】02:キッチンの主役はアイス柄の天板。思い入れのある道具で、日々の料理も楽しく

編集スタッフ 藤波

葉山に暮らすギャラリーマネージャーの関田四季(せきた しき)さんが住むのは、うつろう暮らしにも柔軟に対応できるしなやかな家。

竣工から8年経った今も変化し続ける、豊かな自然をたっぷりと感じる開放的な住まいを訪ねました。

第1話では家づくりの経緯やこだわりについて聞きました。続く第2話ではキッチンとダイニングについてじっくりお話を伺います。

第1話からよむ

 

キッチンの主役はアイスクリームみたいな天板

一階の平屋部分のちょうど真ん中に位置するキッチン。この場所であることにももちろん理由があるのだとか。

関田さん:
「庭を見ながら料理したかったのと、子どもが小さいうちはどこで何をしているのかを把握したかったので、家中が見渡せる位置にキッチンを配置しました。

ガラス張りで全部見渡せちゃうから、ここから『ご飯できたよ〜!』ってよく叫んでいますね」

関田さん:
「キッチンで絶対やりたかったのが、実はこの人工大理石の天板を使うこと。パチパチ弾けるアイスクリームみたいな粒々が可愛いですよね。

大理石と比べたら軽くて値段が抑えられるし、たくさん種類があって扱いやすい。いいことづくしなんです。

この天板でカウンターを作ってもらうことをまず決めて、それならコンロは昭和を感じるくらいシンプルなステンレスでいいんじゃない?とか、壁側の造作棚の色味も控えめでいいよねとか、バランスを考えて引き算しながら他の素材を決めていきました」

関田さん:
「キッチンの床に選んだのは、学校や病院の床でよく使われる『ピータイル』という種類の床材。

なかなか住居では使われないんだけれど、濡れても平気で、ワックスをかけてしまえばいつでもピカピカ。

日常生活を送る上での動線や掃除のしやすさも譲れなかったので、デザインや素材選びにはとことん慎重になりました」

 

「用途を具体的に伝える」を妥協しない

カウンターの天板や床を使いやすくローコストに抑える一方で、その他の棚は可能な限り造作で作ってもらったそう。

イメージを形にするのは難しそうですが、オーダーするときに意識したことは何だったのでしょう。

関田さん:
「絶対に使いたい素材や好きなテイストはリクエストするけれど、その他の細かなデザインはプロにお任せしていました。

だけど実際に生活するのは自分だから、なるべく具体的に用途をイメージして伝えることは心がけていましたね」

▲カウンターのシンク側には、調理器具やカトラリー用の引き出しなどがびっしり

▲一升瓶がちょうど入る高さにしてもらった棚

関田さん
「棚や引き出しの高さ一つとっても、具体的に入れるものの大きさや長さを伝えるように。これが途方もないやりとりなんですが、その積み重ねのおかげで本当に使いやすいキッチンになりました。

外国のようにキッチンにランドリースペースを設ける提案をいただきましたが、それは動線的に困りそうだと思い、きちんと断ったことも。

デザイン的なかっこよさを優先するのではなく、本当に使いやすいかな? 長く使えるかな?という視点はずっと持つようにしていました」

 

ストーリーのある道具だけ集まっています

▲写真左のカラフルなソルト&ペッパーは〈エットレ・ソットサス〉がデザインしたもの。右の赤い鍋は〈エンゾ・マリ〉がデザインした『Mama』シリーズのル・クルーゼ

ベーシックな色調をベースに、赤や青などパキッとした色の雑貨や料理器具がアクセントになっているキッチン。

特に気に入っているアイテムを聞いてみたら、意外な答えが返ってきました。

関田さん
「えー、なんでしょう。難しい! 全部に思い入れがあって……逆に気になるものがあったらそれについてお答えしますよ。

置いてあるもの全て特にルールはなくて年代やテイストもバラバラなんですが、何かしらのストーリーや自分との接点を感じるものだけをそばに置きたいタイプなんです。

そういう道具に囲まれていたら、得意じゃない料理も美味しく作れる気がしてきます」

▲〈象印〉の籐でできたポット

関田さん
「素敵なものって、必ずしもお店にあるとは限らなくて。お湯を入れるポットは親戚の家で、バナナを引っ掛ける道具は友人の家で見かけて『何これー!』と一目惚れしたものです。

どんなに些細な、例えば菜箸やトングみたいな道具でも妥協したくないから、欲しいと思ってもネットショップなどで勢いで買うことはほとんどありません。

『いけてるトングってどんなのだろう?』と思いを巡らせてアンテナを張りながら、出会いをひたすら待ちます。その間は不便だけれど、なんとかする(笑)。とにかく焦っちゃだめ、というのを肝に銘じているんです」

▲〈VIANDOX〉のマグカップはフランスの蚤の市で購入した初めてのヴィンテージ食器。20年以上そばにある

関田さん
「若いころは物が大好きで細々したものも取っておく性分だったから、もっと物に溢れて生活していました。買い物の失敗もたくさん。

だけど年を重ね、引っ越しのたびに持ち物の選別を繰り返して、手元に残ったのは何かしらのストーリーや自分との繋がりがあって、長く使えるもの。

大切なのは数じゃないんだなと気がつくのに時間はかかってしまったけれど、今の状態は自分にとってすごく豊かです」

 

空間づくりは「照明ひとつ」から?

▲手前の椅子2脚は青山の〈Lloyd’s Antiques〉で購入。イギリスのアビーロード・カフェで使われていたもの

キッチンの隣、一階の南側に位置するのがダイニングスペース。取材をはじめてすぐに「ここが家の中で一番いい場所なんです」と教えてくれました。

関田さん:
「家の中でも一番いい光の入る場所で団欒したかったので、ダイニングにしました。窓からの眺望をめいっぱい楽しめるよう、ソファの背もたれは低めに。

イメージしたのは、外国のダイナーみたいな雰囲気です。空間に動きを出したくて違う大きさのクッションをポコポコ配置したのも個人的なこだわりポイントでした。

テーブルはアンティークショップで購入した天板に合う脚を取り付けてもらったもの。来客時にぎゅうぎゅうに座ってもなるべく邪魔にならない位置に脚をつけてもらったんです」

▲VL45 Radiohus pendant(ラジオハウス ペンダント)

関田さん:
「もう一つキーになったのがこのペンダントライトです。とにかくこれを主役にしたかったので、それ以外の家具はライトが引き立つバランスに調整しました。

ダイニングだけじゃなく、どの空間も『これを置きたい!』というアイテムをまず決めていたかも。一つでも譲れないポイントがあると、膨大に決めるべきことがある中でも自ずと『こっちだね』という答えが見えてくる気がしていて。

世の中にはいくらでも素敵な家や物があるけれど、せっかく作るなら自分たちらしい家にしたいじゃないですか。ライトひとつ、お皿一枚でもいいから自分だけのお気に入りや好きの軸を持つことは、家づくりでは何より大切にしていました」

絶対に活かしたいアイテムを決めることは、家づくりだけでなく部屋の模様替えにも応用できそう。

最近マンネリしていたリビングのインテリアを、古道具屋で一目惚れしたスタンドライトを主役に見直してみようと思いました。

続く3話では、今年の夏に改装したという寝室と子ども部屋について伺います。

 

【写真】土田凌


もくじ

 

関田四季

東京都出身。大学で建築を学んだ後、インテリアショップ〈IDÉE〉、アパレルのVMDを経て、現在は都内のギャラリーでマネジメント業に携わる。キッチン用固形洗剤の名品「ミスターQ」正規代理店の代表も。Instagram:@shikikuma


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