【非日常に触れたくて】ここは、いい気持ちになれる場所。カフェ店主が長年続けている、日々を潤す習慣
編集スタッフ 岡本
ふと思い立って、食器棚の奥にしまってあるティーカップを出して紅茶を淹れてみたり、たまのおでかけの日に繊細なレースがあしらわれたブラウスに袖をとおしてみたり。
ささやかでも、いつもとは違うムードに浸りたくなるときがあります。
疲れを感じていたり、なんだか浮かない日々が続いていたりするときは特に、小さな非日常に手を伸ばしたくなるのです。ほんの数十分でもその時間を味わうことができると少し安心して、大丈夫かもしれないというふつふつした思いが戻ってくるような気がします。
「きっと誰しも日常だけでは生きていけない。非現実的な世界があることで日常が潤うと思うんです」
動画コンテンツ「1時間あったら、なにをする?」のなかでこう話していたのは、Chigaya Bakeshopのオーナー・仲山ちがや(なかやまちがや)さん。
ずっと頭の中にあった、日常と切り離された空間をつくってみたい。そんな思いからお店を始めたちがやさんが過ごした “非現実世界を味わう1時間” をのぞいてみました。
どうしてカフェに行きたくなるんだろう
2014年に神奈川県藤沢市・辻堂にお店をオープンして10年。地元に愛される人気店となり、現在は蔵前店・森下店を合わせて3店舗のオーナーを務めています。
ちがやさん:
「前からカフェや喫茶店に行くのが好きでした。
本を読んだりただのんびり過ごしたり、家でもできることなのにあえてお店に行きたくなるのは、私にとってそこが非日常な空間だからなのかも、と気付いたんです。
なのでお店を始めたきっかけも、パンを焼きたいとかカフェを開いてみたいというよりは、 “いい気持ちになれる場所” をつくりたかったのが1番の理由」
ちがやさん:
「『今日、なにもできなくて終わっちゃうな』というときお店に来て時間を過ごしたら、扉を開けて出ていく頃には『いい1日だった』って思えるような、そんな場所をつくりたいと思っています」
まだ暗いうちに仕込みを始めて、隅々まで掃除をして、テーブルに花を飾って。日々誰かにとっての非日常な空間をつくっているちがやさんが、1時間でしたいこととして向かったのは「茶道教室」でした。
自分と向き合う時間が、非日常な世界に繋がる
ちがやさん:
「茶道は、祖母の影響で興味を持って、10年ほど習っています。歩き方や歩数、すべての所作に意味があってお手前を習得するのに何年もかかるもの。
でも静かな空間でひとつひとつの動きに気を配る時間を重ねてきたら、少しずつ見えないものに気付く力が養われていることに気付きました。例えば、お湯と水って音が違うんだなとか、ふだんは気にも留めないような些細なこと。
忙しなくバタバタと過ごしているときこそ、茶室に入って整う時間がほしくなるんです」
ちがやさん:
「茶道教室のあとは、近所の和菓子屋さんに寄って焼き団子を買うのが定番。自宅に戻ってもう一度お茶を淹れてお団子といただくまでが、いつもの流れです。
非日常を求めてカフェに通っていたときも、辻堂のお店を始めたときも、ひとりでした。
茶室でお茶を立てているとき、先生や他の方がいることもあるけれど、向き合っているのは自分自身。私にとっての非現実世界は、孤独や寂しさ、自分と向き合うことと深く繋がっているのかもしれません」
あえて緊張するために、バーを訪れて
ちがやさんの習慣は茶道教室の他にも。聞くと、不思議な共通点が見えてきました。
ちがやさん:
「ランニングは中学時代からのルーティンです。走っている間は瞑想状態に近いので、苦しさもあまり感じなくて、逆に脳がリフレッシュする感覚がありますね。
あとは、お酒はそれほど飲めないけれどバーに行くのが好き。一人でバーに行くのって緊張するんです。でもそれがまた心地いいなと思っていて。緊張感があるなかでのリラックス状態が茶道にも似ている気がします」
ちがやさん:
「幼いころから妄想したり、非現実的な世界に惹かれてきました。洋服を選ぶときも、自分が着られないようなものに目が奪われる。
私がこんなにも現実ではないものを求めるのはどうしてだろうと思ってきたけれど、きっと誰しもそういう存在を持っているんですよね。暮らしのなかでつまづいたり行き詰まったりしたとき、人それぞれ心地いいと感じる非現実世界に浸ることで日常を保っているのかもしれない。そう気付いたのが、大学生の頃です。
自分の姿とその気付きが繋がって、日常を潤してくれる非日常な存在を大切にしていきたい、とより一層思うようになりました」
寂しさと付き合ってわかった、自分を愛でる方法
ちがやさん:
「店舗が増えた今、辻堂のお店をひとりで切り盛りしていた頃を思い出しては、あの頃の常連さんと会えなくて寂しくなるときがあります。でも寂しいも、悲しいも、自分が生み出している感情だから、根本的には人では解決できないと思っていて。
だからそういうときこそ、自分でつくったものを食べるようにしています。自分のために自分で作って食べる。シンプルだけれど、自分を愛でている実感がわいてくるから」
茶道教室でお茶を習い、和菓子屋に寄って帰る。そんな1時間を過ごすちがやさんをそばで見ていて、自分と向き合い続ける強さを感じる瞬間が何度もありました。
よく知っているようで案外知らない自分自身と向き合うことは、言葉で言うよりずっと難しいもの。ちがやさんから静かに伝わってくるたくましさの所以は、居心地のいい非現実世界を持っていること、そして自分を愛でる方法を知っているからなのかもしれません。
私にとっての非現実的な空間ってなんだろうと考えていたら、戸棚の奥にしまわれたティーカップを思い出しました。ここ最近後回しにしていたけれど、久しぶりにお気に入りの茶葉を買ってお茶を淹れよう。
週末に待っている小さな楽しみにわくわくしている気持ちが、「非現実世界が日常を潤してくれる」というちがやさんの言葉ときれいに重なった気がしました。
ちがやさんのインタビューは動画でも見ることができます。ぜひこちらもご覧ください。
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ちがやさんの関連記事「日々は言葉にできないことばかり」はこちらから
仲山ちがや(なかやま・ちがや)
Chigaya Bakeshopのオーナー。石巻市出身で、父親の仕事の都合で中学・高校を湘南で過ごす。大学時代にスタイリストの修業を行い、卒業後は単身ニューヨークに渡り舞台衣裳をコーディネートする仕事に就く。一時帰国中に辻堂の物件と偶然出会い、2014年開店。現在は4店舗になる。プライベートでは夫と犬とともに暮らす。
Instagram @chigaya_bakeshop
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