選びとる人、そのカタチ。

2015年12月4日(金)

【選びとる人、そのカタチ】偶然出会った映画を、選びとる。(キノ・イグルー 有坂塁さん)

編集スタッフ 津田 編集スタッフ 津田

erabu_kinoiglu_9聞き手・文・写真 スタッフ津田

 

キノ・イグルー有坂さんの映画選び。

さまざまな場面や立場で選びとっている人の、選ぶカタチをお届けしていくシリーズ「選びとる人、そのカタチ」。

vol.5では、移動映画館キノ・イグルー(Kino Iglu)としてカフェや雑貨屋、美術館など、さまざまな空間で映画の上映を行っている有坂塁(ありさかるい)さんにご登場いただきます。

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大の映画ファンというほどではない当店スタッフの間でも、そのユニークな上映スタイルは話題になることが多く、今年の夏にはこちらの記事で、キノ・イグルーの上映イベントをご紹介したこともありました。

私もイベントに足を運んだことがあるのですが、上映終了後の「この映画が好きな人には、こういう映画もおすすめです」という有坂さんのお話に影響を受けて、その帰り道でレンタルビデオショップで借りてしまったほど。

映画にまつわるお話をもっと聞いてみたい!と思い、有坂さんに映画の選びかたについて伺ってきました。

 

シネクラブに憧れて、キノ・イグルーをはじめた。

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2003年にキノ・イグルーを立ち上げ、これまで数々の上映イベントをされてきた有坂さん。どんなきっかけで、いまの仕事をはじめることになったのでしょうか。

有坂さん:
「僕と映画の出会いは19歳。当時付き合っていた彼女と観た『クール・ランニング』がすごく面白くて、もっと映画を観たいと思うようになり、レンタルビデオショップで働きはじめました」

たくさんの作品を観るようになると、しだいに俳優や監督など自分の好みがわかるように。そして次に興味をもったのは、1930〜50年代ごろにフランス・パリで盛んだったシネクラブという自主上映活動だったそうです。

有坂さん:
「シネクラブは、新作を上映する一般的な映画館と異なり、個人の趣味嗜好を色濃く反映した作品を選んで上映しているのが特徴です。

自分の好みに合うシネクラブで映画を楽しむ、という当時のパリの文化が素敵だなと憧れを抱き、いつか自分でもシネクラブのような自主上映活動ができたら、と思っていました。

そんなときにアルバイト仲間のひとりが映画館をオープンして、『やってみないか』と声をかけてもらったのが始まりです」

erabu_kinoiglu_10↑有坂さんの仕事道具。組み立てると机になり、気分に合わせて屋外でも仕事ができる。

活動をするのであれば名前が必要。どうせなら大好きな映画監督にお願いしたい。そう考えた有坂さんは、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督に手紙を書きます。

有坂さん:
「Kino Iglu(キノ・イグルー)は、日本語に訳すと『かまくら映画館』というような意味です。

彼がまだ映画監督になる前、いち映画ファンだった10代のころに、ヘルシンキを中心にシネクラブの活動をしていたらしく、そのときの名前を僕らに付けてくれたんです。

当時はまだ一度も上映イベントをしていないし、移動映画館として活動するとは思ってもいなかったのですが、この名前をもらったことにすごく意味があるなぁと思いました」

その後、友人やイベントに来てくれた方の依頼や紹介で、少しずつキノ・イグルーとしての仕事が増え、現在のように全国各地で様々な上映イベントを行うようになったそうです。

 

仕事でもプライベートでも『自分が観たい作品』を選ぶ。

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なにも予定のない休日。映画を観ようと思ったけど、観たい映画が見つからない……。そんな経験をしたことはありませんか。

映画館でもレンタルビデオショップでも、あまりにたくさんの作品を前にすると、途方に暮れてしまいそうになります。

そこで、仕事としてイベントで上映する映画を選ぶだけでなく、プライベートでも1日1本の映画を観ているという有坂さんに、映画選びで意識されていることを伺ってみました。

有坂さん:
「イベントの場合は、会場の雰囲気や、上映前後に提供されるお酒や料理などから、イメージを膨らませることが多いです。

この空間でこんな作品を観ることができたら、きっと自分なら幸せだな、と思える作品を選ぶようにしています。

ご依頼をいただいて上映するので、もちろん仕事なのですが、あくまでも自分なら何が観たいのかという感覚を大切にしています」

自分が本心から観たいと思える作品を選ぶ。そして、その映画の面白さをひとりでも多くの人に届けたい。キノ・イグルーの上映イベントがなぜか胸に残るのは、有坂さんのその思いが、映画を通して私たちに伝わっているからかもしれません。

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そんな有坂さんがプライベートで観る映画も、やはり自分のなかにある「観たい」「面白そう」という気持ちを大切にしているとのこと。

有坂さん:
「もともと映画を見始めた頃は、好きな俳優や監督から作品をチェックしていました。

監督で映画を選ぶきっかけになったのが、ウディ・アレン。彼のインタビュー集を読むようになり、彼自身が影響を受けた映画監督やタイトルを知り、そこから古い作品をたどるようになりました。

馴染みのなかったジャンルや監督のものも、自分の世界を広げるつもりで観ると楽しめるなぁと、そのときの実体験から思っています」

楽しみにしていた映画だったのに、なぜか観ているうちにマンネリを感じてしまう…。わたしにも身に覚えのある経験ですが、その理由はもしかすると、自分の趣味嗜好だけで判断していたからなのかもしれません。

有坂さん:
「偶然の出会いから取り入れて、結果的に自分が幸せになれることってたくさんあると思っていて。

だから普段もあらかじめ予定を立てることもありますが、朝の気分で『今日はこんな映画を観よう』と直感的に決めることが多いです」

いつもならあまり観ないような映画でも、なにかのきっかけで観たいと思えたら、そのタイミングで積極的に取り入れてみる。そういうオープンな気持ちでいたら、映画と向き合う2時間をいっそう楽しいものにできるかもしれません。

 

秋や冬は、名作映画が観たくなる。

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春はお出かけをしたくなったり、天気がいい日は洗濯や掃除がはかどるように、 映画を選ぶときにも季節や天気が影響することってありませんか。

有坂さんによると、気温がぐっと下がる秋から冬にかけては、家でしずかに過ごす時間が増えるので、すこしクラシックなものや芸術的な作品と向き合いたくなる季節だそう。

そこで、これからの秋冬におすすめの名作映画4つを選んでいただきました。ひとくちに名作映画といっても、さまざまなタイプのものがあるので、選ぶときの参考にしてみてくださいね。

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(1)『シベールの日曜日』(1962年フランス、写真左上)

Story:孤独な青年と少女の切ない出会いと別れを綴った感動ドラマ。戦争で記憶を失ったピエールは、寄宿学校に入れられるために街を訪れた少女と出会う。ふたりは毎週日曜日に会い、互いの孤独な心を癒し合うが、周囲の人々は異様な目で見ており…。

「ストーリーはもちろん、映像の美しさも高く評価をされている作品です。モノクロなのに色彩豊かに感じる映像は、日本の『墨絵』を参考にしたそうで、その芸術性も見どころのひとつ。残念ながら物語はハッピーエンドではないので、観たあとの余韻がしばらく心に残る映画です」(有坂さん)

(2)『シャレード』(1963年アメリカ、写真右上)

Story:スキー場からパリの自宅へ戻ってきたレジーナ(ヘプバーン)を待っていたのは、離婚予定だった夫の死。葬儀の会場には見知らぬ三人の男が現れ、大使館では情報局長から、戦時中に夫が軍資金25万ドルを横領していた事を聞かされる。五里霧中のレジーナはスキー場で知り合ったピーター(グラント)に助けを求めるが、彼もまた三人組の仲間だった……。

「オードリー・ヘプバーン主演のサスペンス映画です。衣装はすべてジバンシィが手がけ、音楽も美術も映画史に残ると称されるほど。そしてサスペンスとしてのストーリー展開も面白い。名作と言われるのがうなずける1本です。本編のはじまりに流れるタイトルデザインがすごく凝っているので、注目してみてください。とてもおしゃれな作品なので、サスペンスが苦手な方でもきっと楽しめると思います」(有坂さん)

(3)『とらんぷ譚(ものがたり)』(1936年フランス、写真左下) 

Story:盗みがバレて、食事を抜かされ、その食事のシャンピニョンが毒入りで、一夜にして孤児となった少年。以後、様々な職を経て、モナコのカジノでプロの詐欺師となった男が、カフェで回想録を執筆する……。天才ギトリの、映画史上重要な1930年代を代表する傑作中の傑作。 途切れることのない彼自身による軽妙なナレーションと、サイレント映画を彷彿とさせる演技、軽快なテンポによってストーリーが進行していく。

「フランスを代表する劇作家のサシャ・ギトリが、自作の小説『詐欺師の物語』をもとに監督した作品です。フランス劇作家というと難解そうに思えますが、こちらはコメディでテンポがよく、78分と短めなので気軽に楽しめます。1936年に製作された古い作品ではありますが、すごくモダンな雰囲気なので、ぜひ手にとってみてください」(有坂さん)

(4)『アンナ・マグダレーナ・バッハの年代記』(1967年西ドイツ=イタリア、写真右下)

Story:これは古楽器演奏家たちが、可能な限り厳密に考証された当時の衣装・かつらを着用して、教会や古い家屋の中で演技・演奏する音楽映画である。バッハの2人目の妻として献身的につくしたアンナ・マグダレーナが語り部となることによって、映画全体が一つのバッハ伝記となっている。

「音楽家を描いた映画はいくつもありますが、こちらはその究極とも呼ばれています。演奏を除くとBGMらしいBGMはなく、画角やカットにも余分なものがなく、使用する楽器もこだわっており、映画全体に緊張感が張り詰めているよう。まるで、ひとつのアートと対峙するような体験を味わえる作品です」(有坂さん)

 

有坂さんの選ぶカタチ。「偶然の出会いを大切に」

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有坂さん:
「日本ではいま、毎年1200本の新作映画がリリースされると言われています。そのなかから自分が好きな作品を選ぶというのは、なかなか難しい選択ですよね。

だから何かのきっかけで、知らない映画と偶然出会うことがあったらそれを受け入れてみるのも、ひとつの選び方だと僕は思います。

たとえば今回紹介した4本も、古い映画に馴染みがないと分かりにくい部分もあるかもしれませんが、初めはそれでもいいかなと思うんです。

でも分からないままにせず、誰かと一緒に観て感想を話しあったり、試しに2回観てみたり、観たあとにその映画について調べたり。

そうやって「映画の見方」を変えると、ふと面白さに気づくこともあるのではないでしょうか。もしかすると、すでに観たことのある映画でも、見方を変えてみたら新たな発見があるかもしれません。

自分が知っていることや分かっていることの外に、新しい映画との出会いがあり、それが結果的に新しい自分との出会いにも繋がると思うんです。自分ってこういうのも好きだったんだな、とか。

偶然をどう取り入れるかは、そのひと次第ではありますが、ぜひ自由な発想でいろんな映画との出会いを楽しんでもらえたらと思います」

 

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(撮影協力:井の頭恩賜公園)

 

▼本記事に登場した映画

B0009Y297Y クール・ランニング [DVD]
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント 2006-01-25
B003FM8ZMK シベールの日曜日 HDニューマスター版 [DVD]
紀伊國屋書店 2010-06-25
B0076DL0S0 シャレード デジタル・リマスター版 [DVD]
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン 2012-04-27
B00117D56M とらんぷ譚 [DVD]
紀伊國屋書店 2008-02-23
B0000641UQ アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記
(公開題「アンナ・マグダレーナ・バッハの日記」) [DVD]
クリスティアーネ・ラング=ドレヴァンツ
紀伊國屋書店 2002-05-25

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