【チームを考える】前編:家族も、仕事も。「チームワーク」はどうすればうまくいく?(対談!サイボウズ青野社長×クラシコム代表青木)
編集スタッフ 長谷川
写真 田所瑞穂
代表青木が目をキラキラさせて、僕のところにやってきた。
あの顔は、たぶん「いいこと思いついた!」
1月のある日、代表青木が一冊の本を手に僕のもとへ。「この本、読んだ?」と差し出されたのは『チームのことだけ、考えた。』でした。
著者の青野慶久さんはサイボウズ株式会社の社長を務めています。サイボウズは主にインターネットを活用して、チームで情報共有をしやすくするソフトウェア(=グループウェア)をつくっている会社です。
この本には「働きやすい職場」と評判のサイボウズが、いかに苦心してその環境をつくりあげたか、それを支える仕組みは何か、といったことが書かれています。
代表青木はとても面白く読み、青野さんとサイボウズに共感して、これからのクラシコムが考えている方向性を明るく照らしてくれるような存在だと思ったそうです。たとえば、以下の法則。
人の行動はすべて「理想」によって引き出されている。現実に満足できず、理想を持ち、実現したいという欲望があるから人は課題に取り組む。人間はこの法則で動いている。
──青野慶久『チームのことだけ、考えた。』(p,52)
私たちクラシコムは「フィットする暮らし、つくろう。」を合言葉に、お客さまも、スタッフにも、自分にとってちょうどいい暮らし(=フィットする暮らし)を叶えることを理想に掲げています。なるほど、理想があるからこそ、僕たちは行動ができる。
青野さんはこうも書いています。
理想が存在するところにチームは生まれる。
(中略)
チームとは、ビジョンに共感するメンバーがタスクを実行する(=ワークする)集団だ。
──青野慶久『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社、p,253)
だからこそサイボウズも、クラシコムも、チームワークを大切に考えています。2つの会社は社員数が10倍以上ちがっても、いつも胸にしまっている気持ちには通ずるものがあったんです。
そこで代表青木が「サイボウズさんと一緒に何かできないかな?」と思いつき、サイボウズが運営しているメディアに友達がいる僕に声が掛かったわけです。
ということで藤村さん、一緒に何かやりましょう。
僕が友達(藤村さん、といいます)に連絡しようとスマホに手をのばすと、ちょうどメッセージが届きました。藤村さんからです。
「青木さまが弊社社長の青野の本について、ツイッターで嬉しいコメントをつぶやいていらっしゃいました。このテーマについての対談企画はいかがでしょう?」
以心伝心。ちょうどいま、そういう話を持ちかけようと思っていたのだから……と僕は笑いつつ、スムーズに企画が実現!
▲(左から)代表青木、サイボウズ青野さん、サイボウズ中根さん、店長佐藤
前後編の2日に分けて、“新しい価値を生み出すチーム” のためのメディア「サイボウズ式」と、私たち「北欧、暮らしの道具店」のコラボレーション対談企画をお届けすることになりました。
こちらで書かれなかった対談の内容はサイボウズ式に掲載されていますので、ぜひ併せてお読みいただければ嬉しいです。
▲サイボウズ式の記事はこちらから(前編、後編)。さまざまな話が出て、青木も佐藤も「いい学びになった!」と感じたようです。
前編では、サイボウズ青野社長と代表青木の対談から「チームワークの作り方」、後編は2児の母でありながらサイボウズ執行役員を務める中根弓佳さんと店長佐藤による「ワーキングマザーを助ける気づき」に注目しました。
家族も、職場も。上手なチームワークに必要なものって?
青野社長と代表青木の対談からピックアップしたのは、チームワークについて。
今回の対談では、主に職場でのチームワークについて話をしています。でも、たとえば「家族」だって、価値観のちがう人々と一緒に何かを成し遂げると見れば「小さな会社」といえるかもしれません。
「会社」と書かれているところを「家族」「地域のコミュニティ」「私のいるチーム」と読み替えても、通じる話が多いはずです。
話はさまざま盛り上がりましたが、今回は対談から「青野さんと話して、僕らが学んだこと」もまとめてみました。
それでは、上手なチームワークに必要な3つのポイントを以下より。
チームワークの基本は「理想の置き方」
僕は経営者の方が書いた本を読むことが多いのですが、直近1年くらいで読んだ中でも、この本は特に面白かったです。
サイボウズさんには「チームワークがあふれる社会」という理想像があり、そのためにグループウェア業界でナンバーワンになるという、とてもシンプルなコンセプトを出されていますね。
僕はその「チームワークがあふれる社会」って言葉がすごく胸に刺さりました。
ありがとうございます。
自分もサイボウズの従業員だったら、すごく共感できるなって。たぶん今の日本にとって必要なことだとも思います。
でも、「チームワークがあふれる社会」はすごく素敵なことだと思いながら、言うのは簡単でも、実現するのは難しい。
その過程を本にも書いていただいている中で、どうやったらそれをいろんな会社や家族でもできるのか、なにかヒントを得られたらうれしいと思っているんです。
クラシコムさんは30人くらいの会社だそうで、そろそろすべてを見きれなくなる、結構難しい規模ですよね。
日々、ドキドキしています……。
そうですよね。僕の理屈が良いかどうかはさておきますが、基本は「理想をどう置くか」がほぼすべてだと思います。
みんなそこへ向かって行くのだから、その理想がどれくらい大事なのか、なんて言葉にするか、どう共感させるか。それがもうほぼすべてですね。
サイボウズは、もともとコミュニケーションをしやすくするソフトウェアをつくっていたこともあって、「チームワークがあふれる社会をつくる」っていう言葉がヒットしました。
もちろんヒットしなかった人は辞めていくかもしれないけれど、ヒットした人は残っていくので、規模が大きくなっても共感度の高い組織になってきています。
ところが家庭で見てみると、これがどうも理想が置きにくい(笑)。
難しいですよね。
理由は2つあると思います。ひとつは「元々持っている理想が違う」から。妻は妻なりの理想があって、夫は夫なりの理想があるんですれけど、建設的に議論できる状態じゃない。
僕みたいに言葉を積み上げて精緻に精緻にやりたい人間と、もうちょっと感性でふわっと理解していたいみたいな人では、イデオロギー(考え方)の違いみたいなのがある。
ここが理想を詰めていくときに難しさを生んでしまう。
青野さんと話して、僕らが学んだこと。
よりよいチームワークを生むためには、みんなが同じ方向に進んでいくための「理想」が必要。まずは「理想」について話しあうこと。
そして、その「理想」をどう言い表すか、その言葉にみんなが共感できるかが、とてもたいせつ。
「任せる」ってどういうこと?を決めておく。
家庭で理想が置きにくい理由のもうひとつは、「意思決定者がどちらかわからない」というのがある。
会社においては、「みんなが困ったら社長が決める」っていう権限や権利を渡していくシステムが一応できているので、何を誰が決めるかは割合わかるわけですよね。
だから「その人がそう言うんだったらそれで行こう」と。家庭ではこの権限委譲をするのが結構難しくて、委譲していたはずなのに口を出しちゃったりして。
たしかに権限委譲に関しては、家庭でも、会社でも、同じ問題が起きていそうです。
洗濯物を干すのを任すって言われたのに、「そのタオルの干し方はなんだ!」って言われたり(笑)。
あなた権限委譲したじゃないですかって(笑)。そうすると次に考えるべきは「任せる」の定義を決めようよ、ということですね。
「任せるとはそもそも何?」っていう定義を決めるんですね。任せるという言葉の定義がお互いにずれていると、「任せるって言ったのに、なんで文句を言われるんだ」みたいなことが起きてしまう。
それで言うと、クラシコムとしての「任せるとは何か」は事前チェックをしないということにしたんです。事後で変なことを見つけたら、やっぱり指摘せざるを得ないですが。
事前にあれこれ言わない。たしかに任せられている感じがしますよね。
あるいは「文化の違い」もよく起きていて、チームワークをじゃましている。それをどうにかするには、「いい摩擦の仕方」を考えないといけない。
「摩擦しちゃダメ!」っていうよりは、「摩擦をコントロールする」という意味で取捨選択して、コンセプトを考えればいいのかなって。
おっしゃるとおりですね。摩擦って悪いイメージでとらえられるんですけど、世の中は摩擦しながら最適化をはかっているところがあって。むしろ摩擦が起きずに形を変えながら、最適化の状態を維持するのは難しいんですよね。
たとえば僕も、大学生の時に、研究室の先輩がスーパープログラマーで、その姿を見て挫折したことがある。その世界からはじき出されたことによって僕の違う才能に火がついたのかもしれない。
だから、あんまり恐れないで「おれもこうしたい、おれもこうしたい」って擦っていくなかで、だんだん自分の居場所が見つかっていくんでしょうね。
青野さんと話して、僕らが学んだこと。
あいまいな言葉を、あいまいなまま使わないようにする。
たとえば「任せる」という言葉ならば、「ここまで出来ていたらOKという合格ラインをつくり、ちゃんとやれている以上は口出しをしない」といったように決める。簡単に「任せる」と言わずに、「何を」「どのように」「どれくらい」などと内容をはっきりさせる。
合格ラインは、その人が生きてきた文化や生活でも差が出てしまいます。でも、それは仕方のないこと。考えるべきは意見を伝え合い、「みんなが納得できる状態」を見つけていくのです。
「ルール」をつくって、宣言する。
「自分の居場所」という点で、サイボウズさんは仕事をする場所や時間を、従業員が選択できる働き方を採用されています。つまり、多様性のある働き方を自由に選べる……のですが、実は社内の「決めごと」が結構多いんですよね。
サイボウズでは働き方を9パターンから選べる仕組みになっています。パターンは「勤務時間の長さ」と「勤務する場所の自由さ」を掛けあわせで、見直しは随時。
社員はどれを選んでもいいわけですから、働き方としては自由なんですけれど、わざわざ制度にしているのは「こんな働き方をします」と宣言すると、みんながその人の理想を共有できるからなんです。「この人は、時間は長く働きたいけど、場所は自由でいたい人なんだな」とかですね。
これは以前、ほぼ日刊イトイ新聞の篠田真貴子さんがおっしゃられたのですが、「この仕組みは『わたしはこうしたい』と宣言するためにある。社員を縛るためではなくて、まさに理想を表現するための制度ですね」と。
働き方の宣言ではなくて「理想の宣言」って、ものすごく腑に落ちますね。
たくさんの人が自由になると、まぁ自由ですから、要はみんなやりたい放題になる。やりたい放題で崩壊させないためには信頼関係を結ぶという方法が必要です。
信頼関係とは何かと言うと、たとえば決めごと、ルールがそうです。世の中で見れば、法律などの「司法に統治されている環境」があるからこそ、私もみんなもその範囲内では自由でいられる。
自由は、扱いがすごく難しい。
ただの「手放し」じゃないのかもしれないですね、自由っていうのは。
独特の定義やこだわりとかを、ちゃんと仕組みに落とし込んで、決めごとにする。それを徹底されているのがサイボウズさんの面白いところですね。多様性をもちつつ、お互いに対しては寛容という、しあわせな社会づくりという姿を感じられました。
青野さんと話して、僕らが学んだこと。
チームワークをする前に、みんなで話して「ルールづくり」をしよう。
誰かにとって有利で、誰かが陰で泣くといったものにならないように、決めていく過程をなるだけオープンにするのも効果的。サイボウズでは新しい制度をつくるときに、全社員が見られるインターネット上の掲示板で議論を公開するそうです。
「ルールが多い」と聞くと、自由ではないと感じるかもしれませんが、実はルールこそが多様性を支えてくれます。
それに沿って「自分は何がしたいのか」「どういう人間なのか」をまわりの人に伝えると、理解も得やすくなるのかも。また、ルールが守れないような状況が続くなら、その取り組みを見直すきっかけなのでしょう。
チームワークは「仕組み」で育む
代表青木も言っていたように、さまざまな制度と工夫があります。
ひとつずつのトピックは青野慶久さんの著書『チームのことだけ、考えた。』に記されていますが、より良いチームワークを考えたかったり、チームを率いなければいけなかったりする人には、たくさんのヒントをもらえる一冊だと感じます。
対談の後編は、2児の母でありながらサイボウズ執行役員を務める中根弓佳さんと店長佐藤が登場します。ふたりは、会社の規模は違えども、子育てをしながら働くお母さんです。
現在、責任のある立場として活躍する中根さんにも、やはり子育てと仕事の両立にはたくさんの苦労があったといいます。中根さんはその日々の中で、ある気づきを得ます。そこから子育てに対しての向き合い方が大きく変わったのだとか。
「あるある!」トークで盛り上がったふたりの対談は、また明日に。
▲サイボウズ式の記事はこちらから(前編、後編)。サイボウズ式では私たちと違う角度から代表青木、店長佐藤の対談を取り上げています。ぜひ併せてお読みいただければ嬉しいです。
(つづく)
サイボウズ式×北欧、暮らしの道具店 コラボレーション対談
前編:家族も、仕事も。「チームワーク」ってどうやったらうまくいく?(サイボウズ青野社長×クラシコム代表青木)
後編:ワーキングマザーを助ける「ちょうどいい」の見つけ方(サイボウズ中根さん×店長佐藤)
青野慶久(あおの よしひさ)
1971年生まれ。サイボウズ株式会社代表取締役社長。今治西高校、大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役に就任(現任)。3児の父として3度の育児休暇を取得。著書に『チームのことだけ考えた。』(ダイヤモンド社)がある。
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