【わたしの転機】フラワースタイリスト・さとうゆみこさん「周囲の人との関わり方、仕事との向き合い方を変えた結婚・出産」
編集スタッフ 田中
写真 クラシコム&さとうゆみこ
フラワースタイリスト・さとうゆみこさんのターニングポイント。
「わたしのターニングポイント」は、転機をテーマにお話を伺う連載シリーズです。
今回ご登場いただくのは、フラワースタイリストのさとうゆみこさん。
特集お花と上手に暮らすコツや暮らしノオトにもご登場くださったさとうさんは、現在フリーランスでお花やグリーンに関わる仕事に就いています。
以前はOLをしたり、インテリアショップ「IDEE」にも勤めていたとのことで、お話を聞くまでは何か転機があってフリーになったのかと思っていたんです。
けれど、さとうさんが語ってくれたターニングポイントは、結婚・出産でした。家族ができたことで、二つの視点から自分に変化が起こったといいます。ひとつめは、周囲の人やモノとの関わり方。もうひとつは、花やグリーンの仕事への向きあい方だそう。
家族ができて、人と関わっていくことの難しさにぶつかった。
さとうゆみこさん:
私のターニングポイントは、家族をもったことだと思います。
結婚してパートナーができ、子どもが生まれて家族が増えていくことは賑やかで楽しいことがたくさんあります。けれど、私はまずここで『関わっていくこと』の難しさにぶつかりました。
子どもが夜泣きをすれば、寝ていたくても起きてあやしたり。時間通りに出かけたくても、子どもの洋服が汚れて着替え直したり。せっかく作った夕飯も食べてもらえなかったり。ひとつひとつは簡単なことばかりなのに、なかなかスケジュール通りいかないもどかしさに落ち込んでいました。
もともと、一人でいることが好きで、周りにあわせるのが苦手な性格だったんです。それが家族をもったことで、人生とは思い通りにならないこととも緩やかにうまく付き合っていくことだと思えるようになりました。
いろいろな壁にぶつかりながら、夫婦でも親子でも、泣いたり笑ったりの繰りかえし。そうして、いつのまにか自分の家が一番居心地のいい空間になっていました。
そして、「デザイン」や「インテリア」などの観点からしか考えていなかった植物との向き合い方も、大きく変わったんです。
仕事面、花やグリーンとの向き合い方も変わってきた。
さとうゆみこさん:
結婚・出産を経て、花やグリーンの仕事への向き合い方も変わってきました。
私ははじめ、新卒で入った会社でOLをしていましたが、花やグリーンに携わりたいとお花屋さんへ転職。その後IDEEに入社、家具や雑貨、飲食以外に花や庭のガーデン関連の部門があり、そこへ配属されたんです。
そのときは花やグリーンを「インテリアの中にある植物」としてとらえ、おしゃれな空間に溶け込むよう「活けるテクニック」や「作品をつくりあげる」ことを大切にしていました。
もちろんそういったことも大事ですが、家での時間を過ごすうち、活けたお花が自然なまま存在する”暮らし自体”が愛おしいと思うようになったんです。
美しく整った観葉植物を購入しても、置いた部屋の生育環境によって、いつしか葉のつき方や枝などバランスが悪くなって、ちょっぴり不恰好な形になってしまうこともありますよね。でもそれこそが愛らしい。
日陰に植えてしまったイチゴは花や実がつかずとも、それだけで素敵なグランドカバー*になるし、下の方の葉がとれて背が高くなってしまった観葉植物も他のグリーンと組み合わせておいたら空間に溶け込むんじゃないか。
すべてをコントロールできない、植物というものと関わり、うまく付き合っていくことの面白さをじわじわと感じていました。植物ともコミュニケーションをとっていると分かったんでしょうね。
*グランドカバー……ガーデニングする上で、地面を覆い隠すために植える、草丈が低いか、匍匐(ホフク)する性質の植物のこと。フェンスに這わせるものもグランドカバーと分類することも。
転機がもたらしたのは「すべて完璧でなくてもいい」という気持ち。
さとうゆみこさん:
もともとは「一人でいるのが好き」なタイプだった私も、今は、家族ができて自分一人で行動することが少ないくらい。
そのおかげか「完璧でなくていい、完璧を目指さなくていい」と思えるようになりました。仕事も家庭のことも、がんばれば自分のしたいことを全部できるかもしれません。
でも本気で何かをやり遂げようと思ったとき、他の何かができなくなるということもあると思います。わたしも以前はいろんなことをできるように、バランスを取ろうとがんばりすぎてしまい、体調を崩してしまったことがありました。
今ではできないこともあると割り切って、家族や周りの人に伝え、助けてもらうようにしています。個人のバランスが悪いほうが、結果的に全体のバランスを良いものにしてくれる気もするのです。
バランスの悪いわたしのほうが、わたしらしい。周囲を見渡しても、そんなふうに自然体でいる方が魅力的だと感じますね。
いまの自分を支えてくれるのは、やっぱり「植物」と向き合うこと
さとうゆみこさん:
さまざまな転機や節目を経て、いまの自分を支えてくれているなと思うのはやっぱり「植物」です!よく聞かれるのですが、いろいろ考えてもこれ以上のものはないですね(笑)。
ほかにあるかなあと思いめぐらしたら、わたしが暮らしの中でいきいきするのは、食事をつくるときだと思いました。八百屋さんやスーパーで旬の素材がならんでいるのを見るとワクワクします!
スーパーで旬のお野菜を手に取ったり、キッチンで洗ったり、カットしたり。食べるものはほとんど自然からいただくものだからこそ、それを身近に感じられることが好きなんだと思います。
みずみずしい食材に触れるのは、お花やグリーンと同じで素直に心地よいし、切ったお野菜の断面や、茹でたら鮮やかになっていくのを眺めているのが楽しいんですよね。
季節のものを口にしたり、木々や草花が色づいたり、季節の移ろいを見つけた瞬間は最高に幸せな気持ちになります。自然にふれることが大好きなんでしょうね。こういう感覚は、花市場でわたしがいきいきしているときと同じでした。
これからも、暮らしのなかで植物とつきあっていく楽しさを伝えられたらと思います。
フラワースタイリストのさとうゆみこさんに、転機についてお話を伺いました。
いま振り返ってみて、家族をもったことが自分にも仕事にも影響があり、向き合い方が変わったと仰っています。その道中を経て、自分らしくいられるようになった考え方は、あたたかな気持ちにさせてくれるものでした。
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さとうゆみこ(フラワー・グリーンスタイリスト)
「greena&knot」主宰。フラワーショップやインテリアショップ「IDEE」、専門学校の講師を経て、現在はフリーランスで活躍。フラワーコーディネイトやグリーンアドバイザーはもちろん、空間スタイリングなどあらゆるジャンルで活躍し、定期的にレッスンも開催している。http://malus.exblog.jp/
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