【あのひとの子育て】tupera tupera〈前編〉子育ても仕事も“脳みそふたつ、手4本”
ライター 片田理恵
写真 神ノ川智早
子育てに正解はないといいます。でも新米のお父さんお母さんにとって、不安はまさにそこ。自分を形作ってきたものを子どもにどう伝えるのか。「好き」や「得意」をどうやって日々に生かせばいいのか。正直、わかりませんよね。だって正解がないんですから。
だから私たちはさまざまなお仕事をされているお父さんお母さんに聞いてみることにしました。誰かのようにではなく、自分らしい子育てを楽しんでいる“あのひと”に。新連載第1回目はクリエイターのtupera tupera(ツペラ ツペラ)さんをお迎えして前後編でお届けします。
「わたしの子育ての模索と葛藤は、いつだって次へのステップと自分を信じることにつながっている」。そんなふうに感じていただけたらうれしいです。
毎日使う仕事道具はノリとハサミ!?
tupera tupera(ツペラ ツペラ)という不思議な名前のふたり組。なんの仕事をされている方だと思いますか?
ヒントは「毎日必ず使う道具がノリとハサミ」であること。このノリのストックの量を見てください。一般家庭ではおそらく一生かかってもこんなに何かを貼りません……よね。
ハサミも、右のものは持ち手部分がちょっと不思議な、歪んだ形状をしているのがわかりますか?これは持ち手についていたプラスチック部分を取ってしまったからなんだそう。理由は「かっこいいから」。しかも「実は、切る時ちょっと手が痛い(笑)」んですって。
この「ノリとハサミ」が、おふたりのお仕事を雄弁に物語っているんです。
職業は「tupera tupera」
亀山達矢さんと中川敦子さん。
おふたりは学生時代からの仲間であり、夫婦であり、tupera tuperaの片方ともう片方であり、かつふたりのお子さんを育てるお父さんとお母さんでもあります。
生み出す作品は絵本からアニメーション、舞台美術、雑貨、オブジェまで実にさまざま。子どもも大人もみんなで作って楽しむワークショップも数多く手がけています。
なかでもtupera tuperaの仕事の「幹」部分となるのが絵本制作。『しろくまのパンツ』『パンダ銭湯』『うんこしりとり』など、ユニークなアイデアと色鮮やかな楽しい絵が織りなす独自の世界観が特徴で、これらはすべて「紙をハサミで切って台紙にノリ付けして描いた」作品なのだそう。
原画を見せていただくと、紙同士の重なりでできる微妙な陰影や立体感が感じられて、本とはひと味違った素敵さがありました。
部屋のすみにはこっそりと、発売直前の新刊『あかちゃん』も発見(どこにいるかわかりますか?)。
子どもに負けじとつくる、それが遊びにも仕事にもなる
「絵本の仕事は子どものために始めたものではありません。もともと自分たちがおもしろいと思って作っていたわけです。そこに子どもが生まれた。僕らとしては楽しむ人間が身近にふたり増えたな、という感覚なんです」
子どもの頃から説明書通りにつくるプラモデルより、自分で好きなように形をつくっていけるブロックが好きだったという亀山さん。それはお子さんと遊ぶお父さんになっても変わりません。
「家で子どもがなんかつくってるとするじゃないですか。傍からボーッと見てることも多いんですけど(笑)、いざ一緒にやるとなったら絶対負けない。負けたくない。大人力を存分に発揮して本気でつくりますね」
仕事では無論、その独自の世界観こそが大きな財産になります。
「僕らにとってつくることって、楽しんで遊ぶこと。実は自由にやってと言われてもなかなかできないんです。何かとの出会いや、誰かとの関係性の中でアイデアが出てくる。
子どもとも同じです。関わりの中で生まれたものをつくっているとそれが遊びになっていたりする。だから仕事を子育てに生かすというより、子育てを仕事に生かしているのかもしれないですね」
家族の形はどんなふうにでも変わっていい
「ずいぶん前ですけど、ワークショップに参加してくれたある親子がいて。子どもが何かやるごとに、お母さんが手を加えたりもっとこうしたらいいんじゃないと言ったりしていたんです。最初はもっと自由にやらせてもいいんじゃないかなと思ったんですけど……」
と話すのは中川さん。そのまま声をかけずにずっと見ていたところ、結果として親も子どもも、出来上がった作品にとても喜んで満足した様子だったとか。
「ふたりともすごくうれしそうないい顔をしてたんです。だからそれはそれでいいんだなと思って。つくることって、こうでないといけないとか、無理してでもこうやるというのとは違うじゃないですか。その家族それぞれのいい形があるから」
決めない。しばらない。コントロールしない。どんなふうにでも変わっていいとやわらかく受け止めることで、そのときその瞬間にしかないちょうどいい形を楽しめる。おふたりの子育ての根本にある思いです。
公私織り交ぜ、家族のライフスタイル
この日お邪魔したのは夫妻の仕事場であるアトリエ。ご自宅からは私鉄の線路を挟んで徒歩圏内の距離にあります。パソコンは置かず、もっぱら作品制作をする場所として使用。朝9時にここに来て17時まで仕事をするのがtupera tuperaのスタイルだそう。
1日をどんなふうに過ごしているのか、平日のタイムスケジュールを伺いました。
*******
7:00 起床、朝食は中川さんが担当
7:45 娘さんが学校へ出発
8:30 息子さんを保育園に送る
9:00 アトリエへ、仕事開始
17:00 仕事終了。どちらかが息子さんのお迎え、どちらかが買い物と夕食の支度
19:00 夕食
20:00 入浴
22:00 寝かしつけ後、家事やメールチェックなど
24:00 就寝
*******
「夫婦でやっているので、よくも悪くもプライベートと仕事が曖昧」だと亀山さんはいいます。家族での食事中に仕事の話になることもあるし、アトリエで家の用事をすることもある。
でも一緒に話をしたり作業をしたりする、そういう何気ない夫婦のやりとりからこそ新しいアイデアが生まれるのだとか。
「どんなに忙しくても“脳みそふたつ、手4本”だからなんとかなるんです」
子どもたちはtupera tuperaのよき理解者
現在長女のトリコさんは8歳、長男のハヤタくんは3歳。「ふたりともそれぞれに両親の仕事を理解して、それを楽しんでくれているみたいです」と中川さん。
トリコさんはtupera tuperaの存在がどんどん世界に広がっていくのを目の当たりにして育ちました。
「本屋さんで『本、あったー!!』って私が喜んでいたり。そういう頃から見ているから、わりと冷静ですね。ワークショップに一緒に行っても、私たちは講師だから娘と一緒にはいられない。だから自分はその間どこにいればいいかとか、誰と一緒にいようかとか、そういう判断がすごく早いんです。ハヤタは生まれた頃から今の状況が続いているので、また少し違うんですよね」
ハヤタくんも両親が絵本をつくる仕事をしているということはしっかりわかっているようで、保育園で「パパとママは絵を描くお仕事をしてる」と話したりしているそう。
そんな子どもたちの遊びにはやっぱり「つくる」ことがごく自然な選択肢のひとつとして含まれている様子。うーん、どんなふうに遊ぶんだろう。とっても気になります!
次回後編ではお子さんたちがつくったという「作品」を見せてもらいつつ、tupera tuperaファミリーならではの遊び方や家族の過ごし方を紹介します。
(つづく)
tupera tupera
亀山達矢と中川敦子によるユニット。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、舞台美術、アニメーション、雑貨など、さまざまな分野で幅広く活動している。京都造形芸術大学 こども芸術学科 客員教授。http://www.tupera-tupera.com/
ライター 片田理恵
編集者、ライター。大学卒業後、出版社勤務と出産と移住を経てフリー。執筆媒体は「nice things」「ナチュママ」「リンネル」「はるまち」「DOTPLACE」「あてら」など。クラシコムではリトルプレス「オトナのおしゃべりノオト」も担当。
▽tupera tuperaさんの著書はこちら
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