【終の住処】第3話:ストレスなく暮らせる、水回りや家具のレイアウト
ライター 長谷川未緒
好きなインテリアに囲まれ、生活しやすい動線と少ないもので暮らせる収納が整えられた、掃除がラクな家。
住宅や店舗のデザインを手がける空間デザイナーの井手しのぶさんが、「終の住処」のつもりで建てたのはそんな家です。
特集「終の住処」では、仕事でもプライベートでもたくさんの家を設計・デザインしてきた井手さんに、理想を実現するインテリアや、収納法、家づくりなどのヒントを伺います。
第1話では、これまで建ててきた7軒の家遍歴を中心にお話を伺いました。
第2話では、掃除がしやすい家づくりのことや、好きなものに囲まれた空間を作るには収納から、そして自分好みのイメージの見つけ方などをお話しいただきました。
続く第3話では、ときには自分で作ってイメージどおりのインテリアを作るヒントや、家事がしやすい動線をつくる家具の配置などをお聞きします。
第1話第2話
ソファ選びに困ったら、手作りする!?
インターネットや雑誌で好きなイメージや、ほしいものの想像をふくらませるという井手さん。ときにはいいなと思ったものが高かったり、すぐには手に入らなかったりすることもあります。
そういうときには、自分で作ってしまうのだとか。その代表が、ごはんを食べるときもリラックスするときも座っているというソファです。
井手さん:
「インターネットで見た雰囲気が気に入って、似たようなソファを探したんですけれど、予算に合うものがなくて。
無印良品のベッドフレームにソファ用のクッションをふたつ敷いて、背もたれはクッションを3つ並べ、1m600円のリネンの生地を買ってきてミシンでカバーを縫いました」
▲インターネットで見つけたソファのイメージ画像。好きなインテリアは海外の写真をよく参考にするそう。
井手さん:
「うちは犬も猫もいるのでソファが汚れたり、爪とぎされたりするから、高価なものは買えないし、これならクッション部分だけ交換すればいいので気に入っています。
息子が泊まりに来た時はベッドにもなるし、便利ですね」
ルーマニアの1800年代のアンティークテーブルと、サンドベージュ色のゆったりしたソファはぴったりです。
なければ作るの精神は、家具以外にも発揮されて、寝室の作り付けの棚に塗られた落ち着いたブルーグレーのペンキは、近所のペンキ屋さんで調色してもらいました。
ついあるものの中から選びがちですが、好きなイメージがはっきりしている場合には、プロに相談すればいい、というのは発見です。
水回りは1か所に、家具は動線に合わせてレイアウト
▲DIYで貼ったお風呂場のタイル。
井手さんの1LDKのお宅は、玄関扉を入って正面にキッチンがあり、そのすぐ右手に勝手口、キッチンの奥には浴室があって、水回りが1か所に集約されています。
これは家事をしやすい動線を考えてのことなのだとか。
井手さん:
「浴室からキッチン、勝手口と続いているので、洗濯物は勝手口から外に出して干したり、ゴミをまとめて出したりといった家事がしやすくなっています。
これは空間デザイナーとしての経験というより、家庭で家事を担ってきた立場だからわかることですね」
室内の家具も、動線に気を配ると、置くべき場所がわかると言います。
井手さん:
「各コーナーが何をする場所なのか考えれば、置くものも自ずとわかってきます。
たとえば私の場合は、庭を見ながらリラックスしたかったので、ソファの位置は、窓の正面に。
ソファのとなりがぽっかり空いて寂しかったので、飾り棚を置きました。ここには旅先で見つけたものを飾りつつ、筆記用具などもしまっています」
玄関には犬の散歩グッズと猫のもの、買い物に行くときのエコバッグやマスクなどを置くので、そういう家具の配置に。
井手さん:
「いっぺんにやると大変だから、ひとつコーナーを作ったら次、と少しずつやればいいと思いますし、いろいろ試してみるといいですよ。
私もソファを基点に2、3回試行錯誤して、ようやく落ち着くレイアウトになりました」
掃除が苦手だけれど、犬や猫の毛が日々抜け落ちる井手さん宅では、足つきの家具が多く、隅まで掃除しやすいのも印象的でした。
家の「気に入らないところ」は諦めなくていい
家具のレイアウト同様に、暮らしながら少しずつ変えたり、工夫したりするのは、井手さんの楽しみです。
じつはキッチン、当初は展示品で安く買ったI型のシステムキッチンを使っていました。しかし動線が悪かったことと、コンパクトな家には作りが大きかったため、小さめのアイランドキッチンに変えたのだとか。
井手さん:
「京都の町家の “おくどさん” みたいな小さくてシンプルな台所にしたかったんです。5年経ってようやく変えることができて、やっと落ち着きました」
キッチンを囲む大谷石は石屋さんで購入したものを、自分でカットして貼り付けたそう。
▲以前のキッチン。I型のシステムキッチンで、浴室への動線も悪かった。
井手さん:
「もともとはDIYをするタイプではありませんでしたが、この家が低予算だったこともあり、道具を揃えてやるようになりました。
やってみたら意外と楽しいですね」
いままでは手を加えるところがなくなると、新しい家への思いがむくむくと湧いてきた井手さんでしたが、7軒めにしてようやく「終の住処」と言える家にできました。
▲玄関にはモロッコのタイルをタイル屋さんに貼ってもらった。たいへんな作業は無理せず、プロに。
井手さん:
「庭があるので際限なく手を加えられるから、合ってるんじゃないかな。
畑エリアでは、薬味に使えるような野菜とか、トマトや人参、大根なども植えて育てています。縁側がわりのウッドデッキを渡り廊下みたいにして、パクチーとかネギとか、すぐに取りに行けて便利。
春夏は雑草取りしても、振り向くと抜いたはずの花がもう咲いているくらい、成長が早いんですよ。
持ち家はメンテナンスが大変ですが、今回は体力が続く限り、ここで暮らしていきたいと思っています」
仕事も含めて、さまざまな家を建ててきた井手さんがこれまでの経験を生かして作った納得の家は、吹き抜ける風が心地よい、自然と一体化した、開放感のある朗らかな家。
ムカデやダンゴムシなんかも家に入ってきて、「見つけたら、箒で掃く」という対処法も、大らかです。
聞こえてくるのは鳥のさえずりと、木立からは海がのぞめる立地もさることながら、家の中に置いてあるものも、ひとつひとつにストーリーがあって、人生そのものを感じられます。
まずは収納、好きなもののイメージを明確に、動線に合わせて配置、なければ作る、とはっきりした道筋も教えてもらい、自分の家のインテリア作りがとても楽しみになりました。
(おわり)
【写真】ニシウラエイコ
もくじ
井手しのぶ
専業主婦から独学で一般建築、店舗開発、リノベーション、造園を手がける(株)パパスホームを1996年に設立。2013年12月に代表を退き、現在はatelier23.を主宰。施主とのコミュニケーションを大切に活動している。https://www.shinobuide.com
ライター 長谷川未緒
東京外国語大学卒。出版社勤務を経て、フリーランスに。おもに、暮らしまわりの雑誌、書籍のほか、児童書の編集・執筆を手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
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