【終の住処】第2話:プロに教わる!家づくりや収納、インテリアの整え方
ライター 長谷川未緒
好きなインテリアに囲まれ、生活しやすい動線と少ないもので暮らせる収納が整えられた、掃除がラクな家。
住宅や店舗のデザインを手がける空間デザイナーの井手しのぶさんが、「終の住処」のつもりで建てたのはそんな家です。
特集「終の住処」では、仕事でもプライベートでもたくさんの家を設計・デザインしてきた井手さんに、理想を実現するインテリアや、収納法、家づくりなどのヒントを伺います。
第1話では、これまで建ててきた7軒のマイホーム遍歴を中心にお話を伺いました。
つづく第2話では、掃除がしやすい家のことや、好きなものに囲まれた空間を作るには収納から、そして自分好みのイメージの見つけ方などを伺います。
第1話
ローコストで掃除がしやすい家
鎌倉の小高い丘に井手さんが建てたのは、広さ60平米弱、1LDKの平屋です。予算が限られていて、建築費用は1500万円前後とローコストで建てました。
井手さん:
「苦手な掃除がしやすいように、LDKの床はコンクリートモルタルにして、さっと箒で掃けばいいだけに。寝室はフローリングにして掃除用シートでふくだけにしました。
大きな窓は南西の庭に面してひとつだけ、あとは明かりとり兼風通しのためのちいさな窓です。ちいさな窓はローコストで、窓拭きもラクです。大きな窓は懇意にしている建具屋さんに頼んで安く作ってもらいました」
▲コンクリートモルタルの床。愛犬のためにラグを敷いている。
自然素材が好きな井手さん、壁は市販の珪藻土を友人たちと塗りましたが、あとで計算したら左官屋さんに頼んだほうが安かったのだとか。
そんな失敗もしつつ、自分の手で作り上げた井手さんの家はぬくもりがあって、CMで使われることもあるというくらい、おしゃれです。
無造作に敷かれたラグに、アンティークの家具たち、空間を広く見せる鏡やユニークな雑貨類。
たとえ同じ空間を得ても、こんなふうに素敵な住まいにはなかなかできないなあと思い、その秘密を伺ったところ返ってきた答えは……。
おしゃれなインテリアは、収納づくりが肝!
井手さん:
「インテリア作りで、最初に手をつけるべきは、収納です。しまうべきもの、必要だけれど表に出しておきたくないものは全部しまって、がらんとした状態にしてから、配置を考えるといいですよ。
収納スペースに入る分だけ持つと決めて、しまいきれないものは思い切って処分すること。そうすれば、あとは好きなものを好きなように置けばいいだけですから」
じつは井手さん、この家に越すにあたり、服は5分の1まで処分して、ウォークインクローゼットに入るだけに。食器もずいぶん減らして、キッチンの棚にしまえるだけにしました。
井手さん:
「好きなものだけに囲まれたいと思ったら、それ以外はあきらめることも大切ですね。
なんて、私もこの年齢になって、所有欲も物欲もあんまりなくなってきたから言えることで、若いうちはなかなか難しいですよね。
クローゼットは寝室にひとつですが、寝室の壁面を全面棚にしたり、浴室には天井近くまで棚を設けたりと、収納力を確保しました」
人に見られたくないこまごまとしたものは、無印良品などの収納道具にしまっています。
井手さん:
「スペースにぴたりとはまるし、形も揃うから見栄えが整いますよね。
私の場合はプラスチックよりは自然素材のカゴなどを選んで、木製の建具や古い家具にも合うようにしています」
ミックス感のあるインテリアは色と素材を揃えるべし
収納すべきものは収納してがらんとした状態にしたら、自分の好きなものを置くだけ、と井手さん。
でもひとつひとつは好きなのに、集めるとインテリアに統一感がなく、ちぐはぐしてしまうことも。そんなときには、どうしたらいいのでしょう。
井手さん:
「いままでいろいろな家に住んできて、家によって合う家具は違うと気がつきました。だから、好きだというだけではなく、その家に映えるものだけを置くようにしています。
頭の中で家に置いたときのようすをはっきりと思い描いて、合わないと思ったら好きでも買いませんし、置きません」
井手さん:
「前の家からこの家に引き継いだ家具は、サイズのちいさなものだけですよ。パイン材のチェストや、トラックの馬皮のソファなど、どれも長く愛用してきたものです」
頭の中でイメージすることが苦手な人は、お店や旅先で見たもの、インターネットや雑誌などのインテリアの写真なども参考にすると、イメージ作りのいい訓練になるそう。井手さんも世界中を旅して見てきたものや、pinterestを活用して集めた画像を参考にすることもあると言います。
井手さん:
「たとえば我が家の玄関扉は、大きな1枚板で真ん中にパリで買ってきたドアノブがついています。これは海外を旅したときに見たものを参考に、建具屋さんに細部までオーダーしました。さりげないデザインで、開けっ放しでいいところが気に入っています」
モロッコのものもインドのものも、フランスのものもある井手さん宅のインテリアですが、統一感があるのはどうしてなのでしょうか。
井手さん:
「それは色と素材を揃えているからだと思います。
アクセントカラーは落ち着いたブルーと決めて、他の色は使わないようにしています。素材は布、木、アイアンに限定。とくに木とアイアンの組み合わせが好きで、木のナチュラル感とアイアンの無機質感がプラスされた、甘すぎないインテリアが好みです。
ぼろっとしているのが好きだから、真新しいものより、経年により木が飴色になっていたり、鉄が錆びていたりするものを置いています」
今だからわかる「失敗しない買い物術」
好きなテイストをはっきりと持ち、家に置く場所がなければ買わない、合わなければ買わないという井手さんだからこそ、買い物上手です。
井手さん:
「若いころにたくさん失敗したからこそ、今はあまり失敗しなくなりました。悩んだら買わないんだけど、直感でいいと思ったら、使い道が思い浮かばなくても買います。
海外の蚤の市なんかでは、とくにそう。ウォークインクローゼットにかけているブルーのレースはフランスの蚤の市で買ったんだけれど、いっしょにいた友人は同じ柄のオレンジを迷って買わなかったの。
あとからやっぱり欲しいって言うから戻ったけれど、もうありませんでした」
寝室と玄関に取り付けたフックはヨーロッパのくわで、長かったのを半分にカットしてもらったもの。
用途を決めずに買ったけれど、「あれをこんなふうに使ったらどうかな?」と考えるのは楽しいし、ぴったりはまると気持ちがいいと言います。
家や収納スペースという器に合わせてものを持ち、好きなテイストを海外の写真なども参考にはっきりと決めるといい、というアドバイスは、すぐにも実践できそう。
続く第3話では、掃除や家事をしやすくする動線に合わせた配置や、気にいるものがなければ作るという、井手さん流のインテリア術をさらに詳しく伺います。
(つづく)
【写真】ニシウラエイコ
もくじ
井手しのぶ
専業主婦から独学で一般建築、店舗開発、リノベーション、造園を手がける(株)パパスホームを1996年に設立。2013年12月に代表を退き、現在はatelier23.を主宰。施主とのコミュニケーションを大切に活動している。https://www.shinobuide.com
ライター 長谷川未緒
東京外国語大学卒。出版社勤務を経て、フリーランスに。おもに、暮らしまわりの雑誌、書籍のほか、児童書の編集・執筆を手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
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