【小さな家のインテリア】第3話:食べるのも、作るのも大好き。賃貸のコンパクトなキッチンを活用して
ライター 木下美和
コンパクトな部屋の賃貸マンションやアパートでも、心地いい暮らしはできるはず。そのアイデアを知りたいと、今回は築30年の賃貸住宅に住む山本紗矢佳(やまもと さやか)さんを訪ね、全3話にわたってお話を伺っています。
1話ではダイニングテーブルと背の低い家具でつくるメリハリのある空間づかい、2話では限られたスペースならではのコーナーの飾り方を見せてもらいました。
最終話はキッチンを拝見。賃貸ならではの決して広くはないキッチンには、山本さんの食への探究心が詰まっていました。
道具選びと収納で、小さなキッチンを使いやすく
キッチンはコンパクトではあるものの、備えつけのラックや壁面を使って調理道具が整然と並べられ、ひと目で料理好きであることがわかります。
使用頻度が高い道具は見える場所に、それ以外は造り付けの収納棚と、キッチンに近いリビングスペースにスチールラックを置いて収納しています。
▲スチールラックはアルミ鍋などの道具とレシピ本をまとめて。カトラリー類は〈ババグーリ〉のカゴで収納。
▲よく使うグラスやカトラリーはトレイにまとめて棚の上に。
愛用の台所道具を見せてもらうと、名入りの包丁、金網、アルミ鍋にやっとこ、土鍋……このラインナップと使い込まれた様子を見ると、ただの料理好きではなさそうです。
山本さん:
「パリから帰ってきた時に『おばあちゃんが作ってくれた料理を食べたい』と思って、京都の先生が主宰する料理教室に通うようになりました。だから自然と日本の道具が増えてきたのかもしれません。
昔から使い続けられてきた道具は、見た目も扱い方もシンプルで、何よりおいしく調理するための理にかなっているのがすごいな〜って、日々使いながら実感しています。最近新たにおひつを使い始めたら、冷やごはんのおいしさに驚きました!」
▲京都の有次で名入れしてもらった果物包丁。
▲左は電子レンジの代わりに毎日愛用しているせいろ。右は昨年から使い始めたおひつ。ごはん党の山本さんにとって今やなくてはならないアイテムに。
どんなキッチンでも作りたい料理を作る
「この料理の本、おもしろいんですよ〜」
山本さんが目を輝かせながら見せてくれたのは、『懐石傳書』、『だしの神秘』、英語で書かれた分厚いレシピ本……。よほど食に興味がないと手にしないであろう専門的な本が次々と出てきます。
そう、キッチンの道具を見て薄々感じてはいましたが、山本さんは作ること・食べることに並々ならぬ情熱を注ぐ食オタク(リスペクトを込めて!)。この小さなキッチンで、本格的な和食からお菓子までさまざまな料理に挑戦しているそう。
▲『懐石傳書』に書かれた季節ごとの味噌や出汁の合わせ方、具材などを記したお味噌汁の献立表。読むだけではなく、これを見て実際に作っているというから驚きです……。
山本さん:
「もともと食べるのが大好きでしたが、作るのは苦手でした。でも海外で暮らしてみて、お料理は言葉の壁を超えて誰かと喜びを共有したり、感謝を伝えられたりする素晴らしい方法だなとあらためて気が付いて、それからお料理をするのが楽しくなりました。
五感を使って楽しめるのも “食べること” のいいところです。食いしん坊をきっかけに食への興味が広がり、料理のほかにも京都学や茶道を学び始めました。旬の食材や季節の行事、日本の文化、器の使い方など、日々発見があっておもしろいです」
器に愛着を持つと、作るのも食べるのも楽しくなる
▲奥行きのある〈無印良品〉のシェルフには、作家ものの器やカップ類をまとめて収納。
さまざまな角度から食を楽しんでいる山本さんにとって、「器」への愛着もひとしお。リビングスペースの一角に置いた食器棚の中には、お気に入りの器が揃っています。
山本さん:
「デザインそのものはシンプルだけど、質感やディテールに人の手で作られたゆらぎを感じる器が好きです。半分以上はギャラリーや個展で手に入れた日本の作家さんのもの。あとは京都の実家から持ち帰った古い絵付けの飯碗や漆のお椀、パリ滞在時に買ったアンティークのお皿や北欧食器が少し。
使っているうちに自然と傷や料理ジミもできますが、そうやって生活を一緒に重ねることで愛おしさが増すし、使い込んでようやく仲良くなれたなあと思う器もあります。補修できるものは金継ぎで繕うことも。
好きな器があると、食べる時はもちろん、これにあの料理を盛ったら素敵だろうな〜って、作る時間までワクワクします」
▲岐阜の器作家・安藤雅信さんの白い皿に、フェンネルとライムで香りづけした桃のマリネをのせて。
そんな器好きが高じて、今年の春から友人と共に日本の器の作り手とその使い手を結ぶプロジェクト「mont et plume」(モンテプリュム)の活動をスタート。実際に産地を訪ね、作り手の話を聞くことで、ますます器への興味と知識を深めています。
▲mont et plumeの第一弾として、美濃の作家に作ってもらった器。同じ器を使い手から使い手へとバトンし、器がどう変化していくのかを追う実験プロジェクト。
ルーツは京都。食を介した豊かな時間を大切にしたい
こうした食にまつわる興味や関心のルーツをさかのぼると、京都の実家の隣で暮らしていた祖母の影響が大きいと、山本さんは話します。
山本さん:
「この時期はこれを食べる、この料理はこういう作り方じゃないとあかん……って、食に対して細かいこだわりを持ったおばあちゃんでした。私は子どもの頃から食べるのが大好きだったので、おばあちゃんにはいろんな料理を食べさせてもらいました」
山本さん:
「パリのホームパーティやレストランで旬の料理や季節感のある演出でおもてなしを受けた時、ああ、おばあちゃんが言っていたことと似てるな、京都で過ごしたあの時間はこういうことだったんだ、こうして食卓から愛情を注いでもらっていたんだなあって、気づきました。
去年1年間、家で過ごす時間がたっぷりできたことで、これからどんな暮らしをしたいだろうって自分の中を見つめ直したら、大切にしたいのはやっぱり『食の時間』でした。
おばあちゃんが私にしてくれたように、食を介して季節を感じたり、誰かと楽しい時間を共有したり。気持ちが伝わるようなおもてなしができるようになりたいです」
ダイニングは家族や友人をもてなす時間、リビングでは大好きな花や本に囲まれてリラックスする時間、キッチンはとことん食と向き合う時間……。
小さな空間だからと何かを諦めることなく、「暮らしをこう楽しみたい」という思いを部屋づくりに投影しているのが印象的だった山本さんの住まい。
小さな家=なるべく場所を取らないインテリア、という考えから一旦離れて、山本さんのように「どう暮らしたいか」を基点にしてみると、また違った部屋づくりができるのかもしれません。
(おわり)
【写真】田所瑞穂
もくじ
山本紗矢佳
都内百貨店に勤務する会社員。食への探究心から料理や茶道を勉強中。2021年春から友人とともに美濃の器を作り手から使い手へと結ぶプロジェクト「mont et plume」(モンテプリュム)」の活動をスタート。
https://montetplume.com
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