【今日も、台所にいます】第3話:塚本佳子さん「料理はそんなに得意じゃないけど、台所は大好きです」

ライター 片田理恵

台所って料理をするだけの場所じゃない。じゃあ「台所と私のちょうどいい関係」ってなんだろう。そんなテーマで雑貨店オーナーの皆さんにお話を伺っています。

少しずつわかってきたのは、三者三様、台所への思いも過ごす時間もそれぞれに違うということ。だからこそ「台所と私」という、パーソナルで心地いい関係が出来上がるのかもしれません。

第一話のジェゲデ真琴さん、第二話の町田紀美子さんに続き、第三話には「Fika」の塚本佳子さんが登場です。

第一話から読む

 

台所で過ごすのは1日1時間。普段は少なめがちょうどいい

東京・豊島区で北欧雑貨の店「Fika」を運営する塚本さん。自宅兼店舗として建てた7坪の3階建住宅(通称「7坪ハウス」)でフリーランスのライターとして仕事をしています。1階は週末だけオープンする雑貨店で、ほかは住居スペース。

台所は2階にあり、ダイニングテーブルを向いて作業ができるアイランド型のコンパクトな設計が気に入っているといいます。

塚本さん:
「台所も台所道具も大好きなんですけど、料理自体はそんなに得意じゃなくて(笑)。だからそんなに積極的に台所に立ったりはしないですね。

一日のうち最もちゃんと作るのが朝食で、そこには30分くらいかけています。昼食は買ってきて済ませることが多いのでほぼ0分、お茶を淹れるのと、作り置きを温めるくらいの簡単な夕食の支度が合わせて30分で、約1時間程度。どちらかといえば少ないほうだと思いますよ。

でも北欧のお菓子を手作りしたり、ストック用のスープを煮込んだりする日は別。普段は手間も時間もかけない分、ゆっくり楽しみながら台所仕事ができる気がします」

 

使うだけじゃもったいない。眺めも楽しむ食器棚

塚本さんの台所の主役は、なんといってもこの大きな食器棚。店舗の吹き抜けとダイニングキッチンを仕切るように設置されており、まるでギャラリーのように、調理道具や茶器、器、カトラリーが並んでいます。眺めているだけで幸せな気分!

塚本さん:
「この棚は家を設計してくれた建築家の方からの提案。テーブルに座りながらお気に入りの道具をいつも見られるっていうのはうれしいですね。

私はお茶の時間が何より好きなので、すぐ手の届く特等席にはお茶関連のポットや器、カトラリーをまとめています。目をつぶっていても間違えずに取れるんじゃないかと思うくらい、一日に数回はこの動作をしているかも」

料理に使う土鍋やせいろ、鋳物の鍋やホーローのミルクパンはその2段上の棚に。

塚本さん:
「『料理をしてないでしょう?』とすぐにわかってしまう場所ですよね(笑)。お察しの通り取りにくい場所ですし、最近はあまり使っていません。スープをまとめて作る時くらいかな。

普段使っているのは、フランスの蚤の市で買ったサイズ違いの3つの片手鍋。ゆでる、煮る、温めるなどの基本的な調理はこれで事足りてしまうんです」

 

「Fika」という北欧の文化に惹かれて

塚本さんのお店の名前にもなっている「Fika」とは、スウェーデン語で「お茶の時間」を指す言葉。コーヒー、お菓子、人。この3つがそろえばFikaのひとときが始まるとされています。

この日台所に漂っていた甘い香りの正体は、塚本さんお手製のエッペルカーカ(アップルケーキ)。シナモンをまぶしたりんごを生地の上に並べて焼き上げたケーキは、スウェーデンの家庭菓子の定番なのだとか。

塚本さん:
「スウェーデンハウスのイベントにたまたま参加したのが『Fika』に興味を持つようになったきっかけです。その時に食べたお菓子がおいしくて、自分でも作るようになりました。

お菓子作りってハードルが高いと思い込んでいたんですが、北欧のお菓子は作り方がすごくおおらか。バターは溶かしバターでOKですし、湯煎したチョコレートじゃなくココアを使うなど、家庭でも取り入れやすいレシピが多くて魅力的なんです。

最近はお菓子作りもめったにやらないけれど、一時期はハマっていましたね。本場のレシピ通りに作りたくて、日本とは規格の違う計量スプーンを現地で買ったり、お菓子の型を取り寄せたり」

 

私の相棒「ホーローのやかん」

お茶の時間を何より愛する塚本さん。毎日必ず使う相棒として、お気に入りの「やかん」を挙げていただきました。今はもうなくなってしまったノルウェーのホーローメーカー「キャサリンホルム」製で、以前、北欧に旅行した際に入手したもの。

塚本さん:
「10年くらい前に、これと同じものを『北欧、暮らしの道具店』で店長さんがブログで紹介されていたんです。素敵だな、欲しいなと思っていたら旅先で偶然出会えてうれしかったですね。ブルーとグレーの中間のような『北欧ブルー』と呼ばれるこの色が好きなので、ずっと大事に使っていきたいと思っています」

 

いつも「今、やりたいこと」をやりたいんです

塚本さんが最近お菓子作りをあまりしなくなった理由。それは「その時にやりたいことをやるため」だといいます。自分の中に今芽生えている気持ち、その時々で生まれてくるブームを大事にしたいから、と。

塚本さん:
「自分に一番しっくりくる『ていねいな暮らしの形』をつい探したくなる気持ちはわかるけれど、私にはあんまりピンとこないんです。

それよりも『やりたいか、やりたくないか』というシンプルな選択に正直に暮らしたい。今はお菓子も作らないし、台所にもそんなに立たないけれど、やりたくなる時がきたらきっとまたやると思いますよ」

*****

3つの「台所と私」の物語、いかがでしたか。

台所を語ることで、その人自身の興味やこだわり、暮らしへの思いが見えてくる。愛情をたっぷり込めて整えられたそれぞれの台所を見せてもらいながら、そんな気持ちになりました。

私も「私の台所」の好きなところを、今日から少しずつ見つけていきたいと思います。

(おわり)

【写真】木村文平


もくじ

 

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塚本佳子

フリーランスのライター兼北欧雑貨の店「Fika」の店主。自宅兼店舗である「7坪ハウスFika」の管理運営も行う。著書に『小さくてかわいい家づくり』(新潮社)などがある。

https://7tsubofika.com/


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