【次の扉をひらくには】いがらしろみさん(後編):やってみたい、というポジティブな気持ちを察してあげる

編集スタッフ 津田

もうすぐ40代になる私。人生の進路や仕事で迷ったとき、先輩のお話を聞いてみたいと思うことが増えました。あの人だったらどうするだろう?と。

今回お話を伺ったのは菓子研究家のいがらしろみさん。鎌倉と東京にジャムと焼き菓子の店「ロミ・ユニ コンフィチュール」を立ち上げた方で、大人の私もお店に行くたびキラキラした気持ちにさせてもらえる場所です。

前編では、パティシエになる夢を諦めた後、ジャム屋さんを開くまでのお話でした。後編は、ろみさんが一緒に働く人たちとどんなコミュニケーションをしているかお聞きします。

前編はこちら

 

この先、私はどうしたらいいんだろう?

株式会社romi-unie(ロミ・ユニ)のスタッフは現在70名ほど。一号店をオープンしたときは5名でしたから、ずいぶん大きな組織になりました。コミュニケーションをとる機会は相対的に少なくなりましたが、年に一度は必ず個人面談をしているそう。

ろみさん:
「全員と一対一で面談をしています。聞くのは『あなたはこの先どうしていきたいの?』ということ。成長の方向性というか、1年後、3年後、5年後、どっちに成長していたいかを聞いています」

ろみさん:
「面談では不安な思いを聞くこともあるんです。菓子製造の仕事って本当にハードワークだから体力的にもきついし、新しいことへのフットワークが重くなっちゃったりして。

ただせっかくお菓子が好きという気持ちでこの業界に入ったのだから、向いていることで楽しく成長してほしいなと思うんです。こんな仕事もあんな仕事も、お菓子の仕事は色々あるよって、それは私の経験や立場から見えること。

でも『あなたが何をしたいのか』はあなたの中にしかないから、10年計画を作るでもいいし、年に一度の個人面談でもいいし、まずは自分がどっちに行きたいのかを考えてみてねって伝えます」

 

ポジティブな気持ちを察するように

面談の時だけでなく、経営者のろみさんの元には日々さまざまな相談ごとが持ちかけられます。そこでアンテナを張っているのが、スタッフから溢れ出る「やってみたい!」というポジティブな気持ち。

ろみさん:
「自分で思いついて、やってみて、結果が出る。それはやりがいもあるし、楽しいことだと思うから、何かあったらどうぞどうぞ、というスタンスです。

ただ自己中心的なことではよくないので『みんなにとってもいいと思えるか』はきちんと見ています。チーム、会社、取引先さん、生産者さん、お客様……。そこが大丈夫なら、誰かに話してみるのもいいし、展示会などに足を運んでみてもいいし、何かしらの行動に移してもらうようにしています」

 

伝えるのは難しい、と年々思いますが…

ろみさん:
「とはいえ70名もいるのでアイデアを思いつく人ばかりじゃないんですよ。みんな違うし、人それぞれ。成長したい人も、安定して働きたい人も、どちらもいます。

価値観がみんな違うので当然だけど、自分の考えがなかなか伝わらないこともあります。伝え方がよくないのかなと紙に書いて説明したり、こまめに伝え直すこともありますが、それでもうまくいかない時もありました。いまだに伝えるって難しいです。

最近は、細かく言い過ぎると自由がきかなくて発想が出てこなくなったりするから、これさえ達成してくれればOKという目標を伝えて、あとは現場で進め方を考えてくださいって、私からお渡しするようにしています。

するとね、みんなの視野がぐんと広くなるみたい。思いがけないところで、いろんなことがパタパタパタと進んで感謝することもありました。

もし全然違う方向にいってると思えば、また話せばいいですし。教えるよりお任せする。最近はそんなふうに手放しているかもしれないです」

 

仕事も自分も、ときどき客観的に眺めてみる

教えるより任せる。なんて気持ちのいい関係だろうと思っていたら、ろみさんは「でもね……」とうまくいかない時のことも教えてくれました。

ろみさん:
「自分がやっちゃいたいと思うもどかしさも、時にはありますよ。

そういう時は、もう一人の自分が『本当に私がやるべき?』と問いかけるんです。冷静に考えたら『いや、他にもやるべきことはたくさんあるし、ここはお任せしておこう』と思えることがほとんど。

目の前のことに一生懸命だと視野が狭くなって、迷ったり悩んだりしやすいと思うんです。仕事の進捗もそうだし、相手への伝え方ひとつを取ってもそう。頭の中がぐるぐるしてきたら、意識して客観的に見るようにしています。

全体で何が必要とされているのか、目指すべきゴールはどこにあるのか、その視点に立つと、課題や取り組むべきことわかります。

課題がわかれば、あとはできることからやればいいと思えますから、それは迷っている時よりは案外つらくないんです」

 

すぐに解決できないことには、どう向き合いますか?

最後に、私が一番知りたかったことを尋ねてみました。仕事でも、人生でも、すぐに解決できない課題があったとき、ろみさんはどのようにそれと向き合いますか?

ろみさん:
「やっぱり行動することですかね。しっかり考えるのも大事だけど、自分が考えたことを実現したいなら、なにかしらの行動を取ると思います。

行動といっても大げさなことではなくて、思いつきを誰かにちょっと話してみるとかでいいんです。

どうしてもうまくいかない時は、うーん、ひとまず客観的に眺めます。ちょっと置いておくというか、その周りのできるところを進めるというか。それで他のことに手をつけたら、最終的にこっちも一緒に解決に向かっていた、ということもあります。

このあいだもまさにそうで、鎌倉店を改装したんですが、水漏れがあってトータルで1ヶ月くらい休業しなくてはいけなくなったんです。それでオンラインショップで初めて送料無料キャンペーンをしました。そんなことがなければやろうと決断できなかったことです」

ろみさん:
「コストが膨れ上がったらどうしようとか、通常時に売れなくなったらどうしようとか、私も不安が大きかったですけど、いつかは試したかったことなので、この機会にやってみようと。

すると初めてお買い物してくださる方や、ギフトに贈ってくださる方もいて、売上の面でとても助かりましたし、会社として学んだこともたくさんありました。休業するときは頭を抱えましたが、結果的にはあのタイミングでやれてよかったです。

機会を伺うことも大切ですから、自分の状況を客観的に眺めて、無理なくできそうなことからやってみるというのはどうでしょう。少しでも動けば必ず糸口は見つかると思います」

 

「次の扉」をひらくには

日々「やってみたい、でも……」と感じることがあります。目の前のことにいっぱいいっぱいで後回しにしていた、読みたい本、欲しい靴、新しい趣味、観たい展示、会いたい人など。

インタビューを終えた今、それは「なりたい自分」に向かうための「次の扉」だと思えるようになりました。

たった一つでも自分の手で開けば、そこには新しい発見があるはずで、ちょっと違うと感じたらまた別の扉を開いてみればいい……。

ちなみに、ろみさんは今でもよく10年計画を作るのだそう。

電車で移動する間に思いつきをノートに書くくらい気軽なもので、「いつもフランスに住みたいって書いてるの。だから私って本当に向こうに住みたいんだなーと毎回思うんですよ」と、まるで楽しい遊びのように、笑顔で教えてくれました。今も色褪せない夢を追いかけているって素敵です。

大人になってからは、行動することをむずかしく考えがちだったけど、元々は「やってみたい」ってシンプルにたのしいこと。自分のなかに生まれるポジティブな気持ちを、もっと素直に感じてあげようと思った帰り道なのでした。

(おわり)

【写真】井手勇貴

 

もくじ

 

いがらし ろみ

小さな頃からお菓子づくりが好きで、短大卒業後、フランス菓子店製造部に就職。その後パリに留学。ル・コルドン・ブルーでフランス菓子を学ぶ。帰国後、ル・コルドン・ブルー東京校事務局に勤務。2002年より菓子研究家・romi-unieとして活動をスタート。2004年に鎌倉にジャムの専門店「Romi-Unie Confiture」を開店。以降、焼菓子やチョコレート菓子のお店もオープン。その他、商品開発やアドバイザーなども務める。

romi-unieホームページ https://romi-unie.jp/
Instagram:@romi_unie

 


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