【自分サイズを探して】第2話:続けることで、出会いと信頼の数が増えた。シャツ屋さんをオープンしてからのはなし
編集スタッフ 野村
色々な物事に目移りしやすい、自分の飽きっぽい性格が少し悩みのタネ。だからこそ、ひとつの仕事に熱意を持って取り組み続けている人の姿に憧れを抱きます。
どうやって自分にとって磨き上げたいと思うテーマを見つけて、生業として自分の中心に持ち続けているのでしょうか。
そんなことについてじっくり話を聞いてみたいと思い、今回は、オーダー専門のシャツ屋「holo shirts.(ホーローシャツ)」を主宰する窪田健吾さんにインタビューをしました。
第1話では、服作りのきっかけや、シャツ屋さんを始めるまでのことについて伺いました。第2話では、お店を始めてから直面した悩みと、それに対してどう向き合ってきたのかについてお話していただきました。
いよいよ開業。だけどキャパオーバーになってしまって
▲店名の「holo(ホーロー)」は、「放浪」と「琺瑯」にかけている。拠点を持たず全国を旅してオーダーを受けるスタイルと、丈夫で使い勝手がよく清潔感がある琺瑯が目指すシャツのイメージとぴったりだった、と窪田さん。
4年間の会社勤めを経て、2014年にオーダー専門のシャツ屋「holo shirts.」を開業した窪田さん。
現在のお店は、シャツの型がある程度決まっているものの中から、いくつかのパーツやサイズをオーダーしていく「セミオーダー」のスタイルをとっていますが、実は始めた当初は今とは違う形でのスタートだったそう。
窪田さん:
「はじめは、お客さんを採寸して、それに合わせた型紙を作ってシャツを仕立てる『フルオーダー』のスタイルでした。
『こうだったらいいな』『こういう風に着たいな』という要望を細かく聞いていき、その人だけの服を仕立てていく『テーラー』に近い形でしたね。
始めてから3年ほどはそのスタイルで営業していましたが、徐々にたくさんの方に知ってもらい、オーダーをいただくうちに、自分がキャパオーバーになってしまったんです。
フルオーダーは、たくさんの時間を1人のお客さんに費やすので、仕立てる時間も長くいただきます。お店を続けるためにも売上を伸ばす必要があるけれど、『作る』と『売る』のバランスが取れずに、自分の体力もお店の体力もじりじり削られている状況でした」
共通するイメージがお客さんから飛び出した
窪田さん:
「そうしてオーダーを受ける中で、お客さんの好みに共通するイメージが少しずつ出てきたと気づきました。サイズをきっちり合わせるというより、日常の中で気負いなく着られる少しゆとりがある雰囲気がいいとか、着方を限定せずに着回しがきくシャツが欲しいとか。
お客さんが求めてくれている特徴、かつ僕自身も好きだと思える特徴を備えた『holo shirts.らしい服』を、こちらから提案をするのもいいのかもしれないと思えるきっかけになりました。
そこで、ある程度シャツの形は決まっていて、細かな部分のみ好みでオーダーできる『セミオーダー』での営業を始めてみました」
窪田さん:
「セミオーダーはある程度形が決まっているからこそ、お客さんの中でも普段のお買い物気分で気軽に服を選べていいね、と話す方も増えて。『オーダー』へのハードルが下がったように感じました。
オーダー服を『手の届きにくいもの』にはしたくない、という開業当初に思い描いていたことがセミオーダーで少し叶いそうだと思い、今のスタイルに切り替わっていきました。
お店の基盤がもっとしっかりして、大丈夫だなと思ったタイミングが来たら、また『フルオーダー』を始めたい気持ちはあります。今はそのことを目標のひとつにして、お店を続けていきたいですね」
「ひとりでコツコツ」続くのは、ひとりじゃなかったから
▲取材の日は、東京・祐天寺にあるギャラリーの一角でオーダー会が開催されていました
「holo shirts.」は店舗を持たず、全国各地をまわり、オーダー会を実施しています。そうした営業の形をとることになったきっかけはあったのでしょうか。
窪田さん:
「お客さんに来てもらうより、会いに行くスタイルが僕には合っている気がしたんです。それに僕の方から出向いて行けたら、オーダーに対する心理的なハードルも低くなるかも、とも思いました。
僕自身、移動することが好きで、店舗を持つより始めやすさもありましたし、これからも店舗を作るつもりは今のところありません」
窪田さん:
「『holo shirts.』を始める前に、仕事やプライベートで親しくしていたお店の方たちに『窪田くんがお店を始めたら、うちでオーダー会をやってね』と声をかけてもらえたこともきっかけですね。そういったお店を巡って、また別のお店をご紹介していただいて。少しずつ縁が広がって、というスタイルで続けています。
全国各地を巡っていますが、あちらこちらへ営業をかけていくというよりは、縁のあったお店でオーダー会を繰り返しできるのが理想だと思っています。
お客さんが僕が作るシャツを良いと思ってくれて、また次の年も来てくれて……という循環を続けられたら、僕にとっても場所を提供してくれるお店にとっても、お互いが幸せになれると思うんです」
頑なさは端に置いて、自分の好きを広げてみた
窪田さんが好きだった服作りを「holo shirts.」として続けて、もうすぐ9年という年月が経ちます。好きなことを仕事としてここまで続けてこれたのはどうしてなのでしょうか。
窪田さん:
「好きなことだけを仕事として続けるのは難しいな、と今もひしひし感じています。
僕自身、お店を『細く長く』続けられたらと始めましたが、続けるためには『細すぎず』販売をしていくことも必要です。でも好きなことだけをやろうとすると、どうしてもお店の売り上げは細くなっちゃうんだなと実感した時期がありました。
それでもやっぱり、好きなことしかしたくないな、という気持ちもあって……。だから、続けるためには『自分が好きなこと・やりたいことの境界』をどれだけ広げられるかが大切なんだなと思い至りました」
窪田さん:
「最初は長袖シャツだけの展開でしたが、半袖シャツ・シャツワンピース・シャツ屋がつくるTシャツ・ジャケット・パジャマ……、とセミオーダーで作れるアイテムの幅は年々増えていきました。
オーダー会でお客さんに『もっとこんなアイテムがあったらいいよね』と言ってもらえたり、とあるお店で『お店用のユニフォームを作ってほしい』と依頼を受けて作ったり、そうしたコミュニケーションが積み重なって増やせたラインナップです。
僕がオーダーメイドのシャツ作りが好きだから、それしかしませんという姿勢でいたら、お店は今まで続いていなかったと思います」
▲窪田さんに「ワークシャツ365」を着ていただきました
窪田さん:
「特に大きな転換点になったアイテムは、カフェのユニフォームを依頼されたことをきっかけにできた『ワークシャツ365』です。
男女兼用のフリーサイズのシャツで、袖丈の調整と生地は好きなものを選べますが、それ以外オーダーできる部分がすごく少ない、オーダー専門店らしくない服になりました……(笑)
それでも、男性でも女性でも、小柄な人でも大柄の人でも、着る人それぞれの使いこなし方ができる、懐の深いシャツです。
それにフリーサイズだからこそ、オーダー専門店だけどオンラインでの販売にも挑戦できるようになり、『holo shirts.』への入り口を広げてくれた大切なアイテムですね」
ゆるやかに縁を広げながら、続けられたら
お店を続ける先、「holo shirts.」のこれからについてはどんな風に考えているのでしょうか。
窪田さん:
「とにかく長く続けることを大切にしたいと思っています。
9年近くお店を続けて、数年前にオーダーしてもらったシャツのお直しをお願いされたり、昔オーダーしたものと同じ形のシャツを作ってほしいと相談いただける機会が増えてきました。まずはそうしたリピーターの方の信頼にちゃんと応えていきたいです。
一方で、オーダー会に訪れたけれど実際にオーダーをするかどうかを迷っているお客さんにも『とにかく長くお店を続けますので、良きタイミングでいつでも来てくださいね』と口癖のように伝えています。
長く続けることで、リピーターの方とも未来のお客さんとも、信頼を重ねられるかもしれない。
そのためにも、たくさんの人と出会いながら、お店を続けていたいです」
ひとつの仕事に、熱意を持ちながら向き合い続けることに憧れがありました。
窪田さんのお話を伺うと、そのためにはストイックさや頑固さだけが必要なのではなくて、たくさんの人との出会いがあり、それによって自身の好きをゆるやかに広げていく柔らかさが伴うものなんだと気がつきました。
ふらふらと色々な物事に目移りしていた自分の姿は、もしかすると、自身の好きを広げていくような歩き方に少しだけ近づけていたのかもしれません。
取材の日は、実際にオーダー会が開催される日。そこで続く3話目では、実際にシャツのオーダー会を体験させていただき、シャツ選びのポイントについて伺います。
(つづく)
【写真】メグミ
もくじ
窪田 健吾
2014年11月にオーダー専門のシャツ屋「holo shirts.(ホーローシャツ)」を開業。「普段着のシャツをオーダーメイドで」という思いで、その人が気持ちよく着られる洋服を仕立てる。店舗を持たず、全国各地を巡りながら受注会を開き、オーダーを受けている。
HP:https://holoshirtsoando.square.site/ Instagram:@holoshirts
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