【新連載|お星さんがたべたい】01:唐揚げと、いつまでもなかよくね
なにかをたべるときはいつも「元気をだそう」とおもっています。スーパーマリオブラザーズのマリオはお星さんにぶつかると、からだじゅうを光らすほどの元気をだすけれど、あれの、もっとささやかな感じが、わたしにとってのごはんです。つまり、ごはんは、わたしのお星さんです。とどのつまり、元気のでるごはんにまつわるエッセーを書くことになりました。
小原 晩
短いスカートを揺らしてコンビニへ走り、唐揚げ弁当を買う。友だちはほっぺたよりもちいさなパウンドケーキと午後の紅茶を買っている。教室に戻り、わたしたちのほかに誰もいなくなった教室にて唐揚げ弁当を食べる。夕焼けが、さしてくる。そこに担任の先生がやってきて、あれ、昼ごはん食べなかったの? と聞く。食べましたよ。と答える。友だちはパウンドケーキの封も開けずに窓の外をぼうと見ている。野球部の男子高校生じゃないんだから。先生は言って、立ち去る。そうかなあ、とおもいながら、テスト前の女子高校生であるわたしは、つけ合わせのパスタ一本残さず食べきって、すっかりまんぞくする。
家で食べる唐揚げは決まって、「あけぼの」という家の近所にある惣菜やさんで買ってきたどっさりの唐揚げ。あんた唐揚げ好きだねえ、母に仕切りに言われて、まあけっこう好きだね、と答える。わたしがご飯をおかわりすると、母も、父も、すこしうれしそうにする。ふたりともシャイなので、すこしだけしか、うれしそうではないけれど。しかし、そんなことは関係なく、わたしはただ、たべたいから、たべにたべる。
ひとり暮らしになって、ちいさな台所で、唐揚げをつくった。よく晴れた午後のことだった。とり肉を醤油やらにんにくやらにつけて、それから片栗粉をまぶして、サラダ油で揚げた。キッチンペーパーを敷いたお皿にもりつけて、さとうのごはんをレンジでチンした。おそるおそる口にはこんでみると、おいしいような気もしたけれど、唐揚げってこんな味だったっけ、どうだったっけ、とよくわからなくなった。それから、これは唐揚げっぽいなにかであって、きっと唐揚げではないのだろう、ということで落ちついた。味わいに集中しすぎると、それ以外の要素がわからなくなる。自分でつくったからといって、味わおうとし過ぎてはいけない、つぎからつぎへと口にはこんで、せいいっぱいにほおばってこそ、唐揚げなんだ。
真夜中、パジャマにロングコートを羽織り、マフラーを巻いて、外へ出る。真っ白い息、工事するひとたち、つやのない目の青い警官、眠りこける酔っぱらい、頬のももいろ恋人たち。それから、唐揚げ弁当を買いに行く私。私、私、私、私が主人公。それは唐揚げを買いに行くだけのものがたり。薄暗い商店街をしばらく行けばひんやり光るキッチンオリジンがある。自動ドアを抜ければ、皺のきれいなひとがいる。唐揚げ弁当のカードをとり、セルフレジにて、カードのバーコードを読み込み、会計をすませる。あの皺のきれいなひとが、うごきはじめる。私は時間を持てあまして、弁当やさん特有の安すぎる麦茶を追加で購入する。つめたくておいしい。金色の髪の毛をした男の子が、おおきな荷物をかついで、入ってくる。皺のきれいなひとは男の子と目を合わせるやいなや、今日あれ売り切れ、とひとこと。まじか、じゃ唐揚げかな、と男の子。交流。ふたりの間にながれるさっぱりとした交流。しばらく三人でだまって過ごして、それから皺のきれいなひとは、唐揚げ弁当をわたしにくれる。お辞儀をして、また外へ、商店街をぬけて、知らないひとのため息をきいて、角を曲がり、警官は酔っぱらいに話しかけ、私はひとりの部屋に帰る。みんなにみんなのものがたり。ひとにはひとのおまじない。
文/小原晩(おばら ばん)
1996年、東京生まれ。2022年、自費出版にて『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。2023年9月、『これが生活なのかしらん』を大和書房より出版。
湯船につかりながら本を読むことと、夜の散歩が好きです。お酒をたしなみます。
写真/服部恭平(はっとり きょうへい)
1991年、大阪府生まれ。2013年に上京し、モデルとして活躍する傍ら、プライベートなライフワークでもあった写真作品が注目を集め、2018年から写真家として本格的に始動。フィルム特有のパーソナルな雰囲気を持ち味にファッション写真やポートレートを撮る。
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