【人生の軸足】「自分を生きる」って難しい。最愛の夫を見送って気付いたことと、新しい景色のはなし

編集スタッフ 岡本

仕事柄、人生の先輩のもとを訪れてお話を聞く機会がたびたびあります。取材自体はたった数時間だけれど、そのなかでもらった言葉が日常を照らすヒントとなってくれることも少なくありません。

暮らしに訪れる選択の場面で時折思い出しては、あの人だったらどんなふうに考えるだろうと思い巡らせる、そのひとりがイーオクトで代表を務める髙橋百合子(たかはしゆりこ)さんです。

凛とした姿勢や、やわらかくも強さを感じる笑顔から、「聡明」という言葉がふわりと浮かんで、交わした会話を宝物のように胸に抱き続けています。

そんな髙橋さんの暮らしに、ここ数年で変化が訪れました。最愛の夫を見送って、一人暮らしをする今「本当の意味での自分を生きようとしている」のだそう。

寂しさと寄り添いながら、全てを自分自身で決める面白さと向き合っている髙橋さんに自分を生きることについてお話を伺いました。

 

どんな料理も「美味しい」と言ってくれた人

髙橋さんの夫であるエドワードさんが天へと旅立ったのは、2019年9月のこと。共に過ごした年月はもちろん、1日の中でも一緒にいる時間が長かった分、喪失感は計り知れないものでした。

髙橋さん:
「夫が亡くなってから2〜3年は、何も考えられませんでしたね。

側から見れば普通にしているように見えたかもしれないけど、いつもぼんやりしているような。毎朝一緒に歩いて出勤したり、向かい合わせでご飯を食べたりしていたから、そこにいないのはやっぱり寂しいです。

これから先もずっと、寂しさとは仲良くしていかないといけないんだろうなというのは早いうちから感じていました」

髙橋さん:
「でもね、基本的にはどんなことにも意味があるって考えていて。そうなったとき勝手な解釈だけど、夫が『自分の人生を生きてみたらどう?』って言っているような気がしたんです」

無理に寂しさを拭おうとせず、静かに寄り添ってみた先に辿り着いたひとつの答え。それはエドワードさんの人柄を連想するようなポジティブなメッセージでした。

長い人生の中で、本当の意味で自分を生きたことはなかったかもしれない、と気付いたことで仕事に向かう姿勢にも変化が生まれたそうです。

 

最後の最後まで伝え切る、という親切

環境に配慮した北欧インテリア商品や日用品を数多く輸入・販売しているイーオクト。髙橋さんが会社を立ち上げた1990年当時、日本では環境問題を考慮して日用品を選ぶ文化が広まっていない時代でした。

長年強いビジョンを持って働き続けてきた髙橋さんに変化があったのは、人とのコミュニケーションにおいて。

髙橋さん:
「会社のスタッフは年齢も出身地もみんな違います。でも違うことがすごく大事。意見が違ったり、知っているだろうと思うことを知らなかったり、そういう違いを感じるたびに社会を知っていけますから。

これは一人になってようやく分かったことだけれど、『自分を生きる』って難しいんです」

髙橋さん:
「身近な人からしたら、割と言いたいことを言っているように感じていたかもしれないけれど、案外言えていなかった。衝突するのは面倒だからと、自分の意見を強く言わないことで避けていた部分がありました。

でもこれからは最後の最後まで伝えようと決めて。それが私なりの親切であり、使命なのかなと思うようになりました」

 

新しい景色は、いつだって面白い

リビングダイニングの棚や、洗面所ちょっとした空間など、部屋のあちこちにエドワードさんとの写真を飾っている髙橋さん。亡くなった後の方が24時間ずっと一緒にいる感じがするのだとか。

髙橋さん:
「物理的に姿は見えないけれど、食事をするときや通勤するとき、心の中で彼と会話しているんです。一人でいるんだけど、二人でいる。そんな感覚です」

髙橋さん:
「今はあれこれ考えている暇があるなら、一歩踏み出そうと思っています。

失敗したらどうしよう、ネガティブなことを言われるかもしれない……なんていう思いが渦巻いてしまうときもあると思うけど、周りの人が私の幸せを私以上に考えることって、きっとないですから。

はじめの一歩は、電話をかけるとかメールを送るとか、ほんのちょっとのことかもしれない。そう思うと大したことじゃないように思えてきますよね。

もちろん100%成功するわけじゃないけど、やらずに終えたときと一歩踏み出したときの景色は違うはず。

自分を生きようと思ってからは、私はこれからどこに行きたい?何がしたい?と問い続ける日々です。そうして出会えた新しい景色は面白い。昨日まで見えていなかったものが見えるのだから」

6年前に初めて会ったとき、髙橋さんが話していた「人生一度きり。自分の本質的な幸せに軸足を置いて、いろいろな選択をしてみてほしい」という言葉。

私は書き留めたそのフレーズを、迷ったときや答えが見つからないときに、たびたび眺めていました。

時を経た今も変わらないその姿勢に、ぶれない強さと、違いを面白く受け止めるやわらかさのどちらも感じて、やっぱり私の頭の中で髙橋さんの姿と「聡明」という言葉がぴたりと重なるのです。

自分軸を大切にしてきた髙橋さんが、本当の意味で「自分を生きること」と向き合うなかで見つけた景色を、またいつか、真っ白な気持ちで聞いてみたい。そんな日をつくれるように、私なりに今の自分を生きてみようと思っています。

§

髙橋さんのお話の様子は、YouTubeの番組「うんともすんとも日和」で公開中です。

ぜひ動画もお楽しみください。

※この記事は2022年4月に取材した動画を元に制作しております。現在の暮らしとは異なる部分がある可能性がございます。

 

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